本編
俺は生まれてすぐに捨てられた。
そんな俺を拾ってくれたのが、母さんだ。
母さんは事故で旦那さんと実の子を亡くしてしまい、そんなとき、俺を見つけて育ててくれた。
血のつながってない俺に、愛を注いでくれた母さん。
感謝してもしきれない。
俺は一生を費やしてでも、母さんに恩返しするつもりだ。
就職をして、毎月、母さんに仕送りを送る。
仕送りはずっと続けるつもりだ。
そんな中、母さんが倒れた。
命に別状はなかったが、母さんは身動きができなく寝たきりとなり、介護が必要になった。
恩返しのチャンスだ。
俺は仕事を辞め、家で出来る仕事を探した。
勤めていた仕事は楽しかったが、母さんと比べるまでもない。
母さんの方が大切だ。
仕事と介護で終わる日々。
自分の時間なんてない。
ただ、母さんも同じだったはずだ。
仕事と育児で、20年近く、自分の人生を犠牲にしてくれた。
だから、俺もそれに応えないといけない。
たとえ、30年でも40年でも。
だけど、そんな決意も5年で終わってしまう。
母さんが亡くなった。
母さん、本当にごめん。
俺は、全然、母さんに恩を返せなかったどころか、苦しめてしまった。
俺、息子、失格だね。
終わり。
■解説
語り部の母親は寝たきりとはいえ、命に別状はなかった。
そして、語り部は30年、40年の介護を覚悟している。
それなのに、5年で母親は亡くなってしまった。
さらに語り部は「苦しめてしまった」と言っている。
つまり、語り部は介護に疲れ、我慢ができず、母親を手に掛けてしまったのである。