指名手配

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本編

最近、バイト先で仲良くなった友達と、バイトの無い日も遊んでいる。
凄く気が合って、一緒にいることが自然に感じるほどだ。
それで色々と遊びに行ったりしているせいで、バイト代だけでは足りなくなってきた。
 
だから、お金がかからないように街をぶらぶらとしながらしゃべるっていうのが定番になりつつある。
最初はバイトを増やそうかと思ったけど、それで自分の時間が無くなるのもなんか違う気がした。
 
「なんか、割のいいバイトないかな」
 
なんて冗談で言ったら、その友達が笑いながらある場所を指差した。
それは指名手配の犯人の写真が貼られている掲示板だった。
 
「賞金稼ぎでもしてみれば?」
 
犯人の下に金額が書かれているものがある。
いわゆる報奨金ってやつだ。
300万とか600万だとか、金額が大きいのも載っている。
 
「いや。見つからないから高額なんでしょ」
「まあ、そうだな。簡単に見つかるならもう逮捕されてるよな」
 
友達とゲラゲラと笑う。
そのとき、ふとある部分に目が行く。
それは写真じゃなくて似顔絵だった。
その絵は、なんていうか、素人が描いたような微妙なものだ。
 
「俺、思うんだけどさ。なんで、こういう似顔絵って、もう少しリアルなものにしないんだろうな? 警察も画力が高い人とかに頼めばいいのにさ」
「ああ、こういう絵柄なのには理由があるみたいだぞ」
「どんな?」
「あまり上手く描き過ぎると、その顔にイメージが引っ張られちゃうんだよ。ちょっと違ったら、別人かって思っちゃうらしい」
「そうなの?」
「だから、逃げるかも? と思うほうがいいんだよ。その方が見逃さないから」
「あー、なるほどな」
「だから、この似顔絵も特徴だけを引き立てて描いてあるな」
「確かに、なんか鼻がちょっと特徴的だもんな」
「いやー、でもこれ、特徴も間違ってるよ。的外れ。これじゃ捕まえられないな」
 
俺はその友達の言葉に固まってしまう。
思わず、ゴクリと唾を飲み込んでしまった。
 
「あはははははは。なんで、俺が犯人の顔を知ってるんだ? って思った? もしかして、俺が犯人じゃないかーって?」
 
俺は何も言えず、ジッと友達を見る。
だけど、友達は手を顔の前でブンブンと振った。
 
「残念でした。親戚が刑事やっててさ、それで写真見せてもらったんだよ」
「……あー、なるほど」
「お前、ビビり過ぎ―」
 
友達がゲラゲラと笑い、俺もつられて笑ってしまう。
 
いや、ホント、そういう冗談はシャレにならないって。
 
終わり。
 

■解説

警察が犯人の写真を持っているのなら、似顔絵ではなく写真を出しているはずである。
つまり、友達は嘘を付いていることになる。
この友達は犯人であるか、犯人と顔見知りなのかもしれない。

 

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