意味が分かると怖い話 解説付き Part161~170

意味が分かると怖い話

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ある奴隷の話

その少年の家は、元々は富豪であった。
 
そのため少年は幼い頃から何一つ不自由なく、周りには奴隷を従わせて生活していた。
少年にとってそれが当たり前で、当然のことだと思い込んでいた。
 
しかし、父親が事業に失敗し、一気に没落した上、奴隷たちに恨まれていたこともあって少年以外の家族は皆殺しにされてしまう。
かろうじて命を奪われなかった少年だったが、奴隷として売られてしまうこととなった。
 
売られた先は強欲で非情な大富豪の男の元だった。
その男は誰も信じることはせず、家族も持たず、大勢の奴隷だけを従わせて生活している。
まるで、以前の少年のように。
 
だが少年と違うところは、男は奴隷を家畜のように扱い、時には腹いせにいたぶり殺すことも少なくなかった。
奴隷たちはいつも男に怯えながら暮らしている。

少年は、今までとは正反対の生活に、最初は戸惑ったがすぐに受け入れて真摯に働くようになった。
数年が経つと、少年は奴隷たちの中で信頼されるようになっていった。
 
それを知った主である富豪の男は、面白くなく感じ、また、元は同じような立場だった少年をいたぶり殺そうと考えて部屋に呼んだ。
 
少年は男の目を見るなり、殺されることを悟った。
狂気に満ちた目はまるで獣のようで、人間とは思えなかった。
 
恐怖にさらされながらも、少年は男に対してあるお願いしをした。
 
それは、奴隷を殺すのはこれで最後にしてほしいというものだった。
 
男は薄く笑い、わかったと頷いた。
少年は自分の命が無駄に終わるわけではないことに喜び、男に命を捧げる覚悟を決めた。
 
しかし、それが嘘だということに気づくのに、長い時間はかからなかった。
 
次の日。
男の部屋から無残にも喉が引き裂かれた死体が運び出された。
 
その死体を見て、奴隷たちは涙して、神に祈りを捧げた。
 
そして、その日以降、この家で奴隷が殺されることはなくなった。
 
終わり。

解説

殺されて部屋から死体となって出てきたのは大富豪の男の方。
それを見た奴隷たちは歓喜の涙を流し、神に感謝の祈りを捧げた。
少年が大富豪に成り代わったことで、奴隷の迫害は行われなくなった。

 

快速電車

その日は大事な会議のため、取引先のところまで電車で移動する必要があった。
 
ただ、会議は夕方からだったので、昼過ぎに出発すれば十分間に合う。
逆にいつもより家でゆっくりできるからラッキーだ。
 
なんて考えていたのが間違いだった。
前の日に夜更かしをして、なぜか酒まで飲んでしまい、あっさりと寝坊してしまったのだ。
 
時計を見て、一気に血の気が引いた。
慌てて準備をして家を飛び出す。
一応、前の日に資料やパソコンの準備をしていたのは不幸中の幸いだ。
 
駅までダッシュする。
いつもの出勤時間とは違い、昼過ぎだったせいか駅は割と空いていた。
 
これなら座れるかも、なんてことを考えながら待っていると電車がやってくる。
 
ドアが開き、電車の中に入る。
案の定、電車の中はガラガラで座ることができた。
 
心を落ち着かせて、スマホの時計を見る。
これならまだ少しの余裕をもって相手の会社に到着することができそうだ。
 
安堵して、背もたれに寄りかかる。
ふと、電光掲示板を見たとき、驚きのあまり立ち上がってしまった。
 
自分が乗ってしまったのが快速電車だと気づいたからだ。
相手の会社がある駅は当然、普通じゃないと止まらない。
しかも、次に止まるのは、相手の会社がある駅を遥か先の駅だ。
降りてから、戻りの電車に乗っていたのでは確実に間に合わない。
 
ヤバい!
 
なんとか降りる方法はないかと考えるが、そんな方法はあるわけがない。
ここで緊急停止ボタンなんか押せば、さらに時間を取られるだけじゃなく、下手をすれば訴えられてしまう。
 
神様、お願いします。なんとかしてください。
 
椅子に座り祈るように手を合わせた。
 
そのとき、奇跡が起こった。
なんと電車が停まったのだ。
そして少ししてから近くの駅に停車して、ドアが開く。
 
奇跡だ! 助かった!
 
慌てて降りてそこからはタクシーを使って相手の会社へと向かった。
かなり痛い出費だったが、そんなことは言ってられない。
 
だが、そのおかげかなんとか会議に間に合うことができた。
 
無事、会議が終わった後、名前も知らない誰かにありがとうと感謝した。
 
終わり。

解説

電車が停まったのは飛び込み自殺があったから。
語り部はその自殺した人間に対してありがとうと言っている。
どうやら語り部は不謹慎な人間のようだ。

 

ノンフィクション

男は作家をしている。
 
だが出す本、出す本、すべての売り上げが鳴かず飛ばずだった。
このままでは食べて行けず、引退を考えていた男は物の試しでノンフィクションのホラーを書いた。
 
すると意外なことにその本は大ヒットした。
出版社からは次の本も出して欲しいとオファーが来るくらいだ。
 
しかし、そうそうホラー系の本当の話は引き出しにない。
各地を回ってホラー系の話を収集してみたが、どれもインパクトが弱く、聞いたことがあるような話ばかりだった。
 
さらに出版社からは人気があるうちに次の本を出さなければ一発屋になってしまうと急かされる。
そこで男は聞いてきた話にかなり脚色した上で、ノンフィクションとして本を出した。
 
その本もたちまち人気となり、なんと前回出した本よりも売れる結果となる。
 
そうなると出版社や読者からも次の本を求められる。
 
男は悩んだ。
また脚色して出せば、今度はノンフィクションじゃないとバレてしまうのではないかと。
 
だが、また売れない作家に戻るのは嫌だった。
男は半分ヤケクソ気味に、次々と脚色した話をノンフィクションとして出していく。
しかも、徐々に脚色の部分が多く、派手になっていった。
さらには完全に創作した話さえも、ノンフィクションとして出版するようになった。
 
数年が経った頃、男はそろそろバレるだろうと思っていたが、意外と世間は気づいていないようだった。
それどころか、男が書いた本は預言書などと呼ばれて、ありがたがる読者さえもいた。
 
男はあるとき、そんなにバレないものだろうかと不思議に思った。
そこで、男は色々と調べてみたのだが、驚愕する結果となる。
 
なぜなら、脚色したはずの話が現実に起こっていたからだ。
それどころか創作の話さえも実際に起こっている。
 
男はゾッとした半面、この偶然を神に感謝した。
これでしばらくは大丈夫だと考え、再び、次々と創作の話を作り続ける。
 
さらに数年後が経つと、男は段々と虚しくなってきていた。
本が売れるためとはいえ、こんなものを書きたかったのか、と。
自分の話を読者が夢中になって読むというのを夢見て小説家になったということを思い出す。
 
そこで男は心機一転してやり直すことにした。
ペンネームを変えて、新たな作家人生を歩もうと決意したのだ。
 
ホラー作家としても終わらせるため、男は最後に作者が自殺して死ぬという話を書き、最後の本として売り出した。
 
これで出版社からも世間からも、ノンフィクションの本を望まれることはない。
男は解放された気分で、新しい小説の執筆を始めた。
 
終わり。

解説

創作したお話が現実になるということが続くのはまずあり得ない。
そして、その男の本を「預言書」と言われていることから、その本が書かれてから「その本の内容のことが起こった」と考えられる。
つまり、男の本を読んだ誰かが、その本の内容に合わせて事件を起こしていると考えられる。
男は最後に「作者が自殺して死ぬ」という話を書いたということはその誰かが作者を自殺に見せかけて殺しにくる可能性が高い。

 

純粋無垢

ある少女がいる。
その少女はまるで生まれ落ちたばかりの天使のように純粋無垢だった。
 
少女の両親は高齢で子供を諦めていた時に授かったこともあり、少女をとても大切に育てていた。
ほとんど外にも出さず、危ないことからはすべて遠ざけ、過保護に育ててきた。
純粋無垢のまま育ってほしい。
それだけが両親の願いだった。
 
だが、そんなある日。
父親は外で遊ぶ少女が猫を棒で叩いているのを見つけた。
 
なぜそんなことをしているのかと聞くと、撫でようとしたら引っかかれたというのだ。
 
父親は、少女が痛かったことや怖かったことを慰め、抱きしめた。
だが、父親は少女に対して、痛みはみんな平等にあることだと教える。
棒で叩かれた猫も、少女と同様に痛い思いと、恐怖を感じているはずだと諭した。
 
少女は父親の言ったことを理解し、自分がしたことに対しての罪悪感で涙を流した。
父親は少女を抱きしめながらも、命の大切さや命を奪うことの罪の重さを語った。
すると、少女は二度とこんなことはしないと誓った。
 
そして、その日の夜。
少女は夕食中に突然、ハッとしたように目を見開き、青い顔をしてブルブルと震え始めた。
両親は心配し、どうしたのかと尋ねても理由を言おうとしない。
 
少女はついに立ち上がり、自分の部屋に閉じこもってしまった。
 
次の日の朝。
部屋で少女が首を吊った状態で見つかった。
 
終わり。

解説

少女は食事中(肉を食べた時)に食べ物は生き物だと気づき、自分が生き続ける限り命を奪っていることに気づき絶望した。
これ以上、罪を重ねないため、自ら命を絶ってしました。

 

交換殺人

高校生になるまでは普通の、幸せな家庭だった。
けど、高校2年になる頃、突然、親父のDVが始まった。
 
いつもイライラしていた親父は俺の顔を見るたびに暴力を振るった。
母さんは親父のDVに気づいていたようだったが、庇ってはくれない。
親父と母さんの関係も明らかに悪くなり、同居内別居という状態だ。
 
だから家にはなるべく帰らないようにしていたが、学生の身ではそれもなかなか難しい。
バイトを始めてみたが親父はなぜかそれさえも邪魔してくる。
 
本当に理由がわからない。
ただ、イラついているのは会社をクビになったからだと思う。
一時期、親父は鬱のような状態になって、1、2ヶ月休職だとかなんとか言って、部屋に閉じこもっていた。
 
その休職が終わり、部屋から出るようになった頃から暴力が始まったと思う。
最初はあんなに優しかった親父が突然、そんなことをしてきたことに驚いた。
俺は鬱のせいだろうと思い、我慢してきた。
 
だが、間もなく会社をクビになり、ずっと家にいるようになってからも親父の暴力は続いた。
親父が働かなくなった分、母さんがずっと働きづめという状態だったから、家では親父と俺の2人だけということも多い。
 
どうしていいかわからなかった。
家に帰りたくなくて町をぶらぶらしていると、俺と同じくらいのやつに声を掛けられた。
夜中に町をうろついている同級生ということで、俺たちはすぐに仲良くなった。
 
話を聞いてみるとあっちも俺と同じような環境で、家族の中がギクシャクしていて家の中に自分の居場所がないのだという。
それから俺たちは毎日のように遊ぶようになった。
半年もすると、親友と言えるような存在となっていた。
 
そんなあるとき、あっちがいきなり変なことを言い出した。
それは「交換殺人をしよう」というものだった。
 
相手の殺したい人間をそれぞれが殺すことによって、動機がバレにくく捜査を困難にできるらしい。
しかも、俺たちは別々の学校で、第三者から見ればまったく繋がりがあることはわからない。
これなら絶対に成功すると、あっちが熱弁した。
 
正直、俺も親父に死んでほしいと思っていた。
そこで、俺たちはお互いの父親を殺すことを決めた。
 
お互い、自分の父親の行動は熟知しているから、犯行は簡単だった。
俺はあっちの親父を殺し、あっちは俺の親父を殺してくれた。
 
数日は警察やマスコミが家にやってきていたが、2週間もすれば収まった。
家はびっくりするほど平和になった。
 
しばらくはあいつから、会わない方がいいと言われ、あの日以来会っていない。
あと数ヶ月したら、会いたいなと思っていると、いきなり警察が家にやってきた。
 
俺は逮捕され、取り調べを受けた。
あいつの父親を殺したという証拠を並べられ、俺は認めるしかなかった。
 
なんで、こんなに早く警察は俺に辿り着いたんだろう?
あいつの話では俺にはあいつの親父との接点はないから、動機がなく、バレにくいと言っていたはずだ。
 
まさか、あいつがチクったのか、と思ったがそうではなかった。
 
ついに俺の裁判が始まった。
俺の罪状は『父親殺し』だった。
 
終わり。

解説

語り部の本当の父親は「あいつの父親」だった。
DVをしていた父親は、子供が自分の子供ではなかったことを知り、鬱になり、精神が病んだ。
それにより会社をクビになり、語り部に暴力を振るうようになった。
母親は浮気をしていた負い目があり、語り部を庇うことができなかった。
そして、「あいつ」もそれを知っていて、語り部に声を掛けて交換殺人を持ちかけたのだ。

 

ペット人間

俺は今、人間を飼っている。
同居ではなく、飼っているのだ。
まあ、あっちからしたら飼われているとは思っていないのかもしれないけど。
 
どういうことかというと、あるとき、俺は天井裏に何かが住み着いていることに気づいた。
それが人間だと気づくまで、そう時間はかからなかった。
 
冷蔵庫の食料の減りが早い。
電気、ガス、水道の料金が上がっている。
家を出たときと、帰ってきたときで微妙に物の位置が変わっている。
 
そのことから天井裏には人が住み着いていると判断できた。
 
普通ならすぐに警察を呼ぶところだろうが、俺は逆に気づかないふりをすることにした。
そんなの危ないと思うやつもいるかもしれないが、危害を加える気なら、とっくにやっているはずだ。
それに、俺に危害を加えてもあっちにはなんのメリットもない。
 
だから俺はあえて気づかないふりをして、経過を見守ることにした。
食べ物も多めに買い、なるべく数が多い物を選ぶようにする。
すると気兼ねなく盗れると思ったのか、食べ物の減りが早くなった。
 
また、同じ種類で味の違うものを置いておくことで、好みも把握しつつある。
相手は隠れているとは言え、なにかしら形跡は残してあるから、そこから色々と推理できるのだ。
 
これがまた面白い。
なんて考える俺はきっと変わり者、というより一種の変態なんだろう。
昔からよく変態扱いをされていた。
 
こんなことをやっているうちに、俺はすっかり相手のことを可愛く感じ始めてきた。
顔はもちろん、年齢や性別さえも知らないのに、だ。
 
あと、自分の生活が覗かれていることにも抵抗はなかった。
というより、なんか見られると興奮する。
 
うん。やっぱり俺はかなりド変態みたいだ。
 
そんなこんなをしているうちに、数年が過ぎた。
その間はいつもと変わらない生活が続く。
最近は食欲が上がってきたのか、若干、食べ物の消費が早くなってきている。
 
だが、最近、ちょっとした異変が起き始めた。
というのも、異臭がし始めたのだ。
天井裏から。
何かが腐ったような臭い。
 
今までこんなことはなかった。
俺はとっさにあることが頭を過った。
だけど、信じたくなくて無視するようにしていた。
食べ物も減っているし、元気なはずだと自分に言い聞かせる。
 
だが、日に日に臭いがきつくなり、ついには大家から苦情がくるようになった。
そこで俺は覚悟を決めて、天井裏を覗いた。
 
やはりそこには死体があった。
すぐに警察に連絡し、俺は天井裏に人がいたことなんて気づかなかったと話した。
 
死体はほぼ白骨化するほどになっていた。
警察の話ではおそらく、男性ではないかと言っていた。
 
この部屋が一気に事故物件に早変わりとなったわけだ。
それでも俺はここを出る気はないと言ったら、大家はかなりびっくりしていた。
 
一度も顔を見ることもなく、言葉も交わすことがなかった男だったが、俺にしてみればペットを亡くしたような感覚がしていた。
今はまだ引っ越す気にはなれない。
 
そして、今日もいつもの癖で、食べ物を多く買ってしまった。
今は猫でも買おうかと検討している。
 
終わり。

解説

天井裏で見つかった死体が白骨化しているということは数ヶ月前には死んでいることになる。
では、なぜ食料が減り続けているのか。
天井裏には死体となった男以外に誰かがいる可能性がある。
また、白骨化した男は、もう1人に殺されたのかもしれない。

 

アラーム

運転免許を取った。
 
周りからは「お前がよく取れたな」とか、「お前が運転する車には絶対に乗りたくない」なんて馬鹿にもされた。
そりゃまあ、仮免で3回、本免で2回ほど実技試験に落ちてるけどさ。
 
親もそこが心配らしくて、成人したことも含めて凄い良い車を買ってくれた。
 
教習所では見たことのない、運転席からモニターで後ろも確認できる。
これなら後ろをぶつける心配もない。
 
あとは前の車との車間距離が近くなると自動的に減速してくれるところも安心だ。
 
さらに凄いと思ったのが、今の車は人間さえも検知してくれるところである。
人が通れば、それを感知してアラームを鳴らしてくれるのだ。
 
さすがにこれだけの高性能の車なら事故らないだろうと失礼なことを言う友人たちとドライブに行くことになった。
 
最初は楽しくドライブをしていたが、辺りが暗くなってから、突然、友達の一人が肝試しに行こうと言い始めた。
初めてのドライブテンションが上がっていたこともあり、その場にいる全員が「行こう行こう」と盛り上がった。
 
肝試しの場所は地元でも心霊スポットとして有名なダム。
ここでは何人も自殺者が出ているらしい。
 
そのダムに向っている途中だった。
いきなり車の中にアラーム音が鳴り響いた。
 
びっくりしてモニターを見ると『人』を感知したようだった。
前を見てみるが、人がいるとしているところには誰もいない。
ゆっくりと近づいていくと、アラーム音が大きくなっていく。
そして、その場所を通過すると、嘘のようにピタリとアラームが止んだ。
 
「幽霊だったんじゃね?」と友人の一人が言った。
なんでも、こういう人を感知するシステムは霊にも反応することがあるらしい。
 
その場の全員に鳥肌が立ち、その日はもう帰ろうということになった。
 
しかし、それからというもの、車の感知システムがおかしくなってしまった。
普通に道路を走っていても、突然アラームが鳴り始める。
もちろん、その場所には人はいない。
 
夜に車を乗っているときなんか、特に酷かった。
30分に一度は幽霊を感知してしまう。
 
さすがにこれだと運転ができないと親に相談してみると、保証の範囲でシステムを見てもらえるということになった。
 
それから1週間が過ぎてから車は無事に戻ってきた。
試しに走ってみるが、アラームが鳴ることはなかった。
 
でも、まだ直ったとは言えない。
夜に走ってみないと。
 
そして、夜に一人で車を運転してみる。
頻繁にアラームが鳴っていた場所へと侵入してみた。
すると、アラームが鳴り響き、ドンという衝撃が走った。
 
全然直ってない!
 
ため息をついて、もう一度点検してもらわないと、と考えながら車を走らせて家へと向かった。
 
終わり。

解説

今度は幽霊ではなく本当の人を轢いてしまった。
その証拠に、ドンという衝撃が走っている。
(幽霊なら衝撃はないはず)
そして、語り部はそのまま出発してしまっていることから、轢かれた人間を放置して逃げたことになる。

 

ボマー

世間では同時多発爆破事件が起きている。
 
その手口は卑劣極まりなく、子供が多く集まる場所をターゲットにしていた。
爆発に巻き込まれて亡くなった子供の数は2桁を超える。
 
また、犯人が自分の爆弾を芸術品と表現するように、使われた爆弾は手製で高度なものだった。
時限式を好んで使い、制限時間を「チャンス」だと言って挑発する。
その挑発に乗って爆弾の解体に挑戦し、亡くなった爆弾処理班の人間も決して少なくない。
 
そんな中、一人の爆弾処理班の男が犯人の爆弾の処理に成功した。
 
警察はこれを機に、犯人に対して声明を出して大いに煽った。
それは犯人の目を警察へと向けるためだった。
 
幸か不幸か、その作戦は成功する。
犯人のターゲットは警察の施設関連へと変わっていった。
 
警察官の殉職者は増えたが、子供への被害はほとんどなくなった。
それは決して良いことではなく、警察官が亡くなっていることに世間は警察の批判を強める。
 
だが、犯人が警察の施設にターゲットを絞ったことにより、場所の特定がしやすくなったという側面もあった。
そのことで、犯人の爆弾を処理した爆弾処理班の男が次々と爆弾を処理していく。
 
警察はさらに犯人に尻尾を出させるために、爆弾を処理したこと誇張して告知、犯人を煽り続けた。
 
自尊心の強い犯人はその作戦に見事に引っかかる。
 
なんと、男に対して挑戦状を送り付けてきたのだ。
そこには爆弾を仕掛けた場所が記されていた。
さらに以下の内容が記されていた。
 
時間内に爆弾を解除できれば出頭すること。
そして、その爆弾処理には命をかける必要があること。
 
男はすぐに挑戦状に書かれている場所へ向かう。
すると書いてあった通り、爆弾が設置してあった。
 
男は爆弾処理にかかるが、今まで解除できていた爆弾とは別物と言っていいほど、複雑なものだった。
時間が迫る中、淡々と処理をしていく男。
 
そして、ついに最後の工程へと差し掛かった。
原始的な2択を迫られる。
赤と黒のコード。
 
どちらかが解除のコードでもう一つが爆破のコードだろう。
男は時間ギリギリまで悩み、黒のコードを切った。
 
結果、目の前の爆弾は爆発することはなかった。
 
次の日。
犯人の首吊り死体が見つかった。
 
死後、3日が過ぎていたのだという。
 
終わり。

解説

犯人は爆弾を解除すれば「出頭」すると書いている。
だが、犯人は死体で見つかっていて、「出頭」したわけではない。
ということは、爆弾は「解除できていない」ということになる。
 
また、犯人は「命を懸ける必要がある」と言ってる。
だが、「爆弾処理の男の命」とは書いていない。
 
さらに犯人は男が爆弾の処理の作業に入る「前」に死んでいることになる。
それは犯人が既に「爆弾は処理できない」と知っていたからだ。
 
つまり、最後の2つのコードは爆発するか止まるかの2択ではなく、目の前の爆弾か「他の場所にある爆弾」が爆発するかの2択だった。
これにより、爆弾処理班の男がどちらを切っても、爆弾は爆発することになる。
 
今回、爆弾処理班の男の目の前の爆弾が爆発していないということは、別の場所に設置された爆弾が爆発したことになる。
また、犯人は「子供」を狙っていたこともあることと、ターゲットは警察に関連した場所に絞っていたことを考えると、別の場所に設置された爆弾は爆弾処理班の男の「子供がいた場所」という可能性がある。

 

楽なバイト

楽なのに給料が良いバイトってあるでしょ?
観光地によくある、観光シーズンだけの短期のバイト。
 
あれだよ。
一晩中、特定の場所を見張ってるってやつ。
 
まあ、時間は長いっちゃ長い。
なんせ一晩中だからね。
でも、昼夜逆転してる俺にとって、それは全然苦じゃなかった。
逆に、俺にピッタリなんじゃないかって思う。
 
大学の夏休み前に募集を見つけたときは募集の締め切りがギリギリだった。
それでもダメ元で応募したら見事受かったってわけだ。
 
「なんかあったら、この電話で知らせてくれればいいから」
「あの、番号は……?」
「ああ、これ、管理部屋に直通するから。電話があれば、すぐにじいちゃんが飛んでくるから。ね?」
 
説明してくれているのは俺よりも少し年上っぽいガタイのいいお兄さんだった。
その後ろには頼りなさそうな、ボーっとしたおじいちゃんが立っている。
 
「あと、別に一晩中、ずーっと見てなきゃなんないってわけじゃないから」
「そうなんですか?」
「うん。だって、なんもないところをジッと見てるなんて眠くなるでしょ?」
「ははは。そうですね」
「だから、基本はチラチラ見てくれるくらいでいいよ。本とかゲームとかやりながらでいいから」
「ホントですか!?」
「あはははは。随分食いつくね。でも、熱中しすぎないでね。一応は、見張るのが仕事だからさ」
「あ、はい。そうですね。すいません」
「いいよいいよ。俺も逆の立場なら、そんなリアクションになると思うし」
 
話がわかる人でよかった。
これなら2週間は楽しく過ごせそうだ。
 
「集中しすぎないために、音が出るやつは避けた方がいいかな。音で気づくこともあるし」
「なるほどです。じゃあ、テレビは止めた方がいいですね」
「うん。あと、ゲームするなら、音を切っておいた方がいいかな」
「わかりました」
「部屋にあるものは適当に使っていいから。冷蔵庫の飲み物もご自由に」
 
そう言って笑うお兄さんに、俺はずっと気になってたことこを聞いてみることにする。
 
「あの……こんなこと言うのもなんですけど、やっぱり、その……出るんですか?」
「出る? ……ああ! 幽霊ってこと? あはは。やっぱり気になる?」
「え、ええ。まあ」
「わかるわかる。このバイト、結構、給料良いからね。なにかあるじゃないかって思うよね」
「えっと、あの……はい」
「大丈夫。心配しなくていいよ。ここ3年間は一度も電話がかかってきたことないらしいから」
「そうなんですか?」
「うん。間違いないよ。ね?」
 
これで最大の懸念が解消された。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
 
「それじゃ、適当でいいから頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
 
お兄さんが手を振って部屋を出て行こうとする。
 
「じいちゃん行くよー」
 
おじいさんに声を掛けるが、気づいていないようだった。
 
「じいちゃん、ほら」
 
お兄さんがおじいさんの肩をポンと叩く。
すると、ハッとしたようにおじいさんがこっちを見る。
 
「それじゃよろしくお願いします」

 ぺこりと丁寧にお辞儀をしてくれる。
 
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
 
そして、お兄さんとおじいさんが部屋から出て行った。
 
「さてと。まずは何しようかな」
 
俺はさっそく持ち込んだゲームソフトを出して、吟味を始めた。
 
終わり。

解説

おじいさんは、お兄さんが声を掛けても反応しなかった。
肩を叩いて、初めて語り部の方を向いている。
また、たまにお兄さんがおじいさんに話を振っているがその反応もない。
以上のことから、おじいさんは「耳が遠い」可能性が極めて高い。
 
そして、「何かあった場合」は「おじいさんへの直通の電話」で知らせることになっている。
もし、語り部に何かがあって、電話をしたとしてもおじいさんは気づかない可能性の方が高い。
現に、3年間は電話がかかってきていないと言っている。
 
さらに「3年間」は電話がかかってきていないということは、逆に言うと3年前は「電話がかかってきていた」ということになる。
(3年前までは耳が遠くなかった)
何かが起こる可能性は十分にあるということだ。
 
また、こんなに割のいいバイトなのに、締め切りギリギリまで決まっていないと言うのも不思議である。
何事もなく無事に終わっているのなら、去年、このバイトをした人が続けて応募するのではないだろうか。

 

前人未踏

中世の大航海時代初頭。
様々な船乗りがまだ発見されていない未知の地を見つけるため、海へと乗り出した。
 
未知の地で金銀財宝を見つけ、大富豪になったという船乗りの噂は聞き飽きる程流れてきていた。
 
その噂を聞き、一念発起して船を購入して航海を開始した。
しかし、簡単に新しい島など見つけられるわけもなく、やがては交易船として一般的な航路を往復するだけとなる。
 
だが、それでも利益を上げることができ、乗組員を増やし船団として大きくしていくことに成功する。
 
そんなあるとき、男の船は嵐に巻き込まれ、いつもの航海ルートから外れて遭難してしまう。
数日海を漂流していると、遠くに島があるのを見つける。
明らかに地図にも載っていない島だ。
男たちはすぐに船を島へと向けた。
 
島に到着してみると、明らかに人の手が入っていないことを感じさせた。
少なくとも、文明は発達していないことがわかる。
前人未踏の島だということが証明されたようなものだ。
もし、先住民がいれば植民地にできるので、さらに莫大な利益が見込める。
 
男は船員を引き連れ、島の中を探索する。
すると、洞窟内に金銀財宝が置いてある場所を見つけた。
 
男は歓喜した。
これだけで十分な利益を得ることができる。
男は船へと戻り、船員たちに明日の朝に、運び出すことを告げた。
船員たちも大喜びし、その日は海岸で宴が開かれる。
 
宴が終わり、みんなが寝静まる中、男は海岸に寝ころんで星を見上げる。
そして、大富豪になる自分の未来を夢見て、眠りに落ちて行った。
 
終わり。

解説

前人未踏の島であれば「金銀財宝」があるのはおかしい。
文明を持つ誰かが持ち込んだとしか思えない。
ということは、この島は既に誰かが見つけているということになる。
では、なぜ、「地図にも載っていない」のか。
それは、島を見つけたが、「戻っていない」ということが考えられる。
つまり、この島で死んでいるという可能性が高い。
また、財宝が「洞窟内」にあったというところから、「人間」の存在が疑われる。
おそらく、先人たちはこの島に到着し、先住民の手によって消されてしまっている。
語り部も例外ではなく、明日の朝を迎える前に、先住民の手によって消されてしまうだろう。

 

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