意味が分かると怖い話 解説付き Part171~180

意味が分かると怖い話

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ホラーゲーム

俺は今、ゲーム会社でシステムエンジニアをやっている。
 
務めている会社は個人サークルかってくらい少人数の零細企業だ。
まあ、会社のメンバーが馬鹿ばっかりなので仕方ない。
 
大体、今の時代、ゲームを作るといえばソシャゲだろう。
なのに、この馬鹿会社はコンシューマーゲームを作っている。
宣伝が重要なのに、零細企業が大手に勝てるわけがない。
ホント、終わってる。
 
当たり前だけど予算もギリギリでいつも、こっちは超ハードなスケジュールでやっている。
2、3日連続の徹夜なんて当たり前だ。
ホント、頭おかしいだろ。
 
で、今作ってるのはホラーゲームなんだけど、これも内容が酷い。
この話を書いてるのも会社のやつなんだけど、ホント終わってるだろ、これ。
これのどこがホラーなんだよ。
コメディの間違いなんじゃねーのか?
こんなの、俺が書いた方がマシだろ。ホントに。
 
けど、俺はエンジニアだから、そこは口出ししないことにしてる。
俺は俺の仕事を完璧にやればいいだけだ。
ついでに言えば、この会社の社長もシステムエンジニアだ。
 
まあ、言わなくても想像つくと思うけど、社長ももちろんヤバい。
ホントにエンジニアなのか?って問いただしたいくらいレベルが低い。
こんなの専門学生の方が全然、マシだろ。
俺はいつも、この社長が書いたシステムを修正して尻拭いしてる。
 
それなのにいつも「早くしろ早くしろ」とオウムのように同じことしか言わない。
ホント、マジでクソな会社だ。
 
今日ももちろん、徹夜で作業だ。
眠気も限界を超えると目が冴えてくるのが不思議なんだが、いったい、どうなってるんだろうか。
 
いつも通り、コードを書いていると俺はふと、いいことを思いついた。
いわゆる仕込みというやつだ。
ある条件を行うと、用意したメッセージが表示されるというもの。
 
そのメッセージにはこの会社の馬鹿な奴らの悪口と、最後にこのゲームを買ったやつが呪われるという意味のことを書いた。
しかも、この条件はかなり厳しいので、普通にプレイしてるだけでは、まあ、表示されない。
100万回に1回くらいってところだろうか。
 
だからテストプレイをしたところで見つからないだろう。
まあ、システムを解析できるやつがいれば別だけど。
どちらにしても、この会社の中にはそんなことができるやつがいないから、まず見つからないだろう。
 
コードを仕込み終わって、満足してた俺に社長が話しかけてきた。
 
「おい、真面目に仕事しろよ。ホラーゲームなんだから、ふざけて作ってたら呪われるぞ」
「あ、すみません……」
 
ホント、頭の中までお花畑だなこいつ。
呪われるって……。
んなのあるわけねーだろ。
 
社長はこういうところがある。
このゲームを作る際にホラーゲームってことで、社員全員でお祓いに行っている。
そんな金があるなら、給料上げろよって話だ。
 
とはいえ、ローンチも近い。
ここからはスピードを上げてやっていこう。
 
そして、その日から2週間後。
ゲームはほぼ完成し、社内で最終的なデバックを行うフェーズになった。
もちろん、エンジニアの俺も最終チェックをやる必要がある。
 
そこで俺はあの仕込みがちゃんと出るかも検証してみた。
特定の条件を満たして、メッセージを表示させる。
 
俺は思わず、悲鳴を上げてしまった。
 
なぜなら、画面いっぱいに「やめろやめろやめろやめろやめろやめろ」と赤い字で表示されたのだ。
俺は慌てて仕込んでいたメッセージを削除した。
 
今考えてもあれは怖かった。
呪いって、ホントにあるんだと思い知った。
 
これからホラーゲームを作るときはふざけるのはやめよう。
 
終わり。

解説

語り部が、仕込んだものはコードを解析できるエンジニアがいれば見つけられると言っている。
つまり、これは呪いではなく、エンジニアによる単なるメッセージの書き換えである。
そして、この会社のエンジニアは語り部以外では社長だけとなる。
そう考えると社長に「社員の悪口」を見られていることになる。
この後、語り部が社員たちからどんな仕打ちをされるのかは、火を見るより明らかであろう。

 

殺人マニュアル

昔っていうか10年前くらいだろうか。
殺人マニュアルって本が大学で流行った。
 
あの頃は世間では不景気で、俺たちの時代は就職氷河期だなんて言われてた。
そのせいかどうかはわからないけど、その頃は全体的になんか暗いって言うか変だった。
 
テレビ番組でも心霊系が流行ってたし、終末論とかも毎日のようにやってた気がする。
そんな時代だったせいか、この殺人マニュアルって本はかなり売れていた。
もちろん、俺も買った。
 
こういう方法なら人を殺せる、ということがたくさん書いてあった。
当時、それを見て面白なーと思った記憶がある。
中にはその本を参考にしている漫画家や小説家もいたらしい。
 
俺も本に書いてある内容を使って、殺人トリックなんて考えてたりもした。
周りにも同じようなことをしているやつが多かったから、よくトリックを見せ合って、ああでもないこうでもないと議論したものだ。
 
そんな中、特に仲が良かったEにもその本を見せた。
 
Eはパラパラと本をめくって「はい、嘘」「こんなんじゃ人は死なない」とダメ出しを始めた。
当時の俺はEのことを空気が読めないやつだなと思っていた。
せっかく、人が楽しんでるのに水を差すなんて、って。
 
でも、最近、押し入れの中の段ボールから殺人マニュアルが出てきた。
懐かしくなって読んでみたら、確かに嘘ばかりだった。
 
終わり。

解説

語り部とEはなぜ、その本の内容が「嘘」だとわかったのか。
二人とも、実際に試していたのかもしれない。

 

外科医

男は世界でも有名な外科医だった。
命を救った患者の数は4桁を超える。
男の手術を受けるために1年以上順番待ちをする必要もあるほどだ。
 
だが、その男が大切にしているのは家族と金だけだった。
手術も一番多く金を出す患者から順番にやっている。
 
周りからは守銭奴だの、金に汚いだのと陰口を叩かれているが男は気にしていなかった。
金を稼ぐために医者になったのだから、当然だという考えが男を支えている。
 
そんな考えを持っているせいか、見切りが早かった。
手術を開始し、状況を見た瞬間にダメだと思ったら何もせず手術を止めてしまう。
男の判断は的確で正しいのだが、やはり周りからは冷たい人間だと罵られてしまう。
 
だがそんなある日、ある火災事件が起こった。
死者が多数出たこともあり世間でも注目される。
 
その中で1人だけ生存者が発見された。
ただ、その生存者は全身火傷でほぼ虫の息の状態だった。
ほとんどの医者はこの生存者は助からないだろうと判断する。
 
だが、男は自分で名乗り出てこの生存者の手術を請け負った。
報酬が高いわけでもなく、見知らぬ人間だったにも関わらずにもだ。
 
手術中、周りの助手さえも何度も諦めかけたが、男は鼓舞し、全力を尽くした。
そして、誰しもが助からないと諦めていた生存者の手術を成功させたのだった。
 
数年後。
その生存者が殺されたことがニュースで報じられた。
男はそのニュースを見て、微笑み、手術を成功させて本当に良かったと心の底から思ったのだった。
 
終わり。

解説

火災事件と言っていることから、この火事は「放火」によるものである。
そして、生存者とはその放火した「犯人」。
語り部が助けたことにより、犯人は法で裁かれることになり、「死刑」となった。
「死刑執行」のニュースを見て、語り部は喜んだのである。
この語り部がここまで必死になったということは、その火災で「家族」の誰かが犠牲になったのかもしれない。

 

霊障

小学校来の友人が最近、元気がない。
 
激痩せして、目も虚ろでいつも疲れたような顔をしている。
まるで幽霊にとり憑かれたような感じだ。
 
考えてみれば覚えがある。
あれは去年の夏休み。
遊びで心霊スポットと噂されている廃病院に行った。
 
確かに不気味だったけど、そのときは特に何かが起きたということはなかった。
その後も霊が付いてきたということもなかったし、友人もそんなことは言っていなかったはず。
 
でも、よくよく思い出してみれば、友人の両親が離婚したのもその頃だったような気がする。
もしかしたら、友人は知らず知らずのうちに呪われたのかもしれない。
両親の離婚はその呪いのせいなんじゃないだろうか。
 
俺も友人も霊感がない。
だから、とり憑かれても気づかなかっただけなんじゃないだろうか。
 
そんなことを思っている最中のときだった。
気晴らしに友人を釣りに誘っていたのだが、その友人がふらふらと歩き出して、海に落ちた。
それはまるで何かに引き寄せられるように。
 
俺は慌てて海に飛び込んで友人を引き上げた。
友人は眩暈がしただけと言っていたが、俺は霊に引き寄せられたのではないかと思う。
 
とにかく友人には濡れたままだと風邪をひくので着替えさせた。
着替えている途中も心配で、俺は友人に少し嫌がられたが着替えを手伝った。
でも、俺は手伝ってよかったと思う。
 
なぜなら、友人の体には無数の傷が付いていたのだ。
ひっかき傷や、何か鞭のようなもので叩いたような傷が付いていた。
それは背中にも付いていて、自分で付けられるような場所じゃない。
 
俺は確信した。
友人は悪霊にとり憑かれている。
この傷は霊によるものに違いない。
 
すぐに友人を連れて、地元の有名なお祓いをしてくれるところへ連れて行った。
そして、その霊媒師に友人を見てもらった。
 
だが、その霊媒師は笑って諭すようにこう言った。
 
「大丈夫です。この人には悪霊は憑いていませんよ」
 
その言葉を聞いて、俺はホッとした。
どうやら俺の考え過ぎだったらしい。
 
終わり。

解説

傷が霊の仕業ではなければ、「誰」が付けたのだろうか。
つまり、霊ではなく人間が付けたということになる。
友人の両親は離婚しており、引き取られた方の親に虐待を受けている可能性が高い。

 

効果音

これはあるローカル局のラジオを番組のお話。
 
その局の一番の人気はラジオドラマを放送する番組なんだ。
別に脚本家や声優も有名人を使っているってわけじゃない。
逆に無名って言ってもいいくらいの人たち。
俺も聞いていてクレジットが流れた時に、誰一人聞いたことのある人はいなかったくらい。
 
でも、だからって質の悪い物が出来上がるわけではない。
有名な作家や声優を使っても駄作が生まれてしまうようにね。
 
このラジオドラマ番組が凄いところは熱量だ。
なんていうかな。
本気で作ってるって感じ。
 
あー、いや、別に他の番組が不真面目に作ってるって言ってるわけじゃなくて……。
 
そう。命をかけてるって感じかな。
一言で言うと凄い。
……ごめん。語彙力がなくて。
 
実際にその局では亡くなった人もいるらしい。
過労死なのかな?
それでも、素晴らしい作品を作ろうって気持ちが伝わってくる。
 
とにかく、聞いているとまるでその場にいるような感覚を覚えるんだ。
自分も登場人物の一人になったような感覚。
 
だから、サスペンス物だと凄くドキドキするし、ホラーだと冷や汗をかくくらい怖い。
感動ものだと本気で泣くし、恋愛ものだと本気で応援してしまう。
 
やっぱり作家と声優がいいんだろう……なんて思っていたら違っていた。
スタッフのインタビュー記事に書いてあったんだけど、あの番組が一番こだわっているのは『効果音』なんだってさ。
いわゆるSEってやつ。
 
今の時代はパソコンで音を作るのが当たり前なんだけど、この番組のスタッフは昔ながらの物を使って効果音を作っているらしい。
その方が音に重みが出るのだとか。
 
たとえば、鳥が羽ばたく音に傘を使ったり、卵の殻を擦り潰すことで物を食べている音を作ったりと色々としているみたい。
それでも納得できない場合は、何度も音の収録を繰り返したり、最悪、本当にその場所に行って実際の音を撮ったりすることもあるらしい。
そのせいで、スケジュールがギリギリになってしまい、寝不足のスタッフも多いのだとか。
 
そりゃ、過労死する人も出るってものだ。
 
そんなハードスケジュールになっても、絶対に妥協はしないらしい。
どんなにギリギリになっても、音にはこだわるというのがポリシーと書いてあった。
 
効果音でここまでこだわるのだから、そりゃ、作家も声優も気合が入るというものだ。
死ぬ気で頑張るよね。
 
で、これはテレビ局にいる友人から聞いた話なんだけど、業界の中で、この局が作ったある効果音が有名らしい。
 
それは刀で人を斬る音。
 
かなりリアルで、今まで誰一人、この音を超えるものを作った人も再現できた人もいない。
昔の人はキャベツを包丁で切るときの音が、それに近いらしいんだけど、実際にその方法でやってみても、全然違うらしい。
 
俺はそのとき、「いやいやいや。なんで刀で人を斬った音を知ってるんだよ」と友人に突っ込んだ。
そしたらさ、オフレコっていうか誰にも言わないで欲しいって言われたんだけど、ネットで実際に人を斬り殺す動画があったみたいで、それを聞いたことがあるのとのことだった。
 
中には、その音を貰うためにわざわざ、その局に連絡してその効果音を貰っているところもあるらしい。
そのときに、「どうやって作ったんですか?」って聞く人もいたらしいんだけど、教えてくれないらしい。
 
でも、正直、聞く方からしてみればどうやって作ったなんか関係ない。
聞いていて凄いと思えるならそれでいいのだ。
 
さて、今日もその番組のラジオドラマが始まる。
俺はヘッドホンをして部屋の電気を消した。
 
終わり。

解説

ラジオドラマを作成している番組スタッフからは死者が出ている。
語り部は過労死と言っているが、それは語り部の予想であって真偽はわからない。
そして、人を斬る音を作る際に、スタッフはどうしても納得が出来ず、実際に人を斬って収録した可能性が高い。
人を斬り殺した動画のように。
つまり、このような方法でスタッフが何人か死んでいるのである。

 

お化け屋敷

地元に閉園した古い遊園地がある。
 
バブル時代のときに創って、バブルが終わったときに採算が取れなくなって潰れたらしい。
俺が生まれた時には既に潰れた後だったから、どんなところだったのかはよくわからない。
 
ただ、俺が学生だったときは遊園地というよりも、心霊スポットとして有名だった。
その遊園地の中にお化け屋敷があったらしいんだけど、どうやらそこが『出る』みたい。
 
なんでも、そのお化け屋敷では本物の死体を使ってるだのなんだのって噂だったらしい。
当時はその噂もあったせいで、結構客が来ていたって話。
 
そんな場所だから心霊スポットとして肝試しに行く奴らが多かった。
俺の同級生も何人かは行ってたっぽい。
まあ、そのほとんどは収穫なしだったみたいだけど。
 
でも、その中の何人かは本当に幽霊を見たとか、幽霊に追いかけられたとかあったらしい。
あくまで噂だけどね。
いわゆる都市伝説みたいなものかな。
 
大学を卒業して、就職してから3年くらい経った頃だったと思う。
お盆休みが取れて実家に帰ったとき、友達も帰省していたみたいだから会うことになった。
高校時代、スゲー仲がよかった2人。
 
飯食いながら高校時代の思い出話をしてたときだ。
急にSが心霊スポットの話をし始めた。
 
懐かしさと、結局学生時代に行かなかったということもあり、3人で行ってみようという話になった。
まあ、よくある話だよね。
 
酒も飲んでなかったから、車で行こうと言うことになって、俺が車を出した。
そんなに遠くない場所だったから、すぐに着いた。
 
俺たちの予想では、この時期なら結構人がいると思っていた。
だけど、まったく人気がなかった。
少し怖かったけど、せっかく来たんだからと、俺たちは遊園地の中に入った。
 
お化け屋敷を見つけて入ってみる。
確かにスゲー怖かった。
本物が出るって話だし、元々お化け屋敷って人を驚かせるために作ってるから、本当に怖かった。
俺たち全員、ずっと悲鳴を上げてたと思う。
 
とりあえず一回りして、車へと戻る。
するとTが「誰かいなくなってたりしてな」なんてことを言い出す。
怪談話じゃよくあることだ。
 
だけど、3人しかいないのに1人いなくなったらさすがに気づくだろうと突っ込みを入れた。
馬鹿々々しいが点呼を取り、ちゃんと3人が揃っていることを確認する。
 
じゃあ、帰るかと車を出して数分後、警察に止められた。
何をしてたのか聞かれて、肝試しとは言えないので、ちょっとドライブと言って濁した。
 
Sは警察官に「やっぱり、この時期は肝試しに来る人が多いんですか?」と質問する。
すると警察官はきょとんとした顔した後、すぐに「ああ、あの遊園地のこと?」と思い出したようだ。
 
警察官の人の話では数年前からピタリと来る人がいなくなったらしい。
俺たちはなんでだろ、と不思議に思ったが、とりあえず警察官に頭を下げて出発しようとしたら、止められた。
 
同乗者がシートベルトをしてなかった、ということで罰金や減点はなかったが、注意された。
警察官がパトカーに乗って行った後、俺は2人に「なにやってんだよ!」と文句を言った。
すると、2人はポカンとした顔をして、ちゃんとシートベルトをしてると主張する。
確かに2人ともシートベルトをしていた。
 
Tが「職質的な感じで止めたんじゃねーの」と言ったので、妙に納得した。
もし、酒を飲んでたらと思うとゾッとする。
そして、その日は何事もなく家に帰った。
 
次の日、Sから電話があって、3人でお祓いに行こうと言う話になった。
なんでも、あの遊園地は本当にヤバいらしい。
だから、最近では全く人が来なくなったのだろう。
 
3人とも特になにかあったわけじゃないが、念のためということでお祓いに行った。
お祓いが終わって帰るときに、寺の住職から紙の封筒を貰った。
 
中にはお札が入っていた。
それぞれ、1つずつお札を渡す。
Sはポケットに、Tと俺は財布の中に入れる。
 
そして、その帰り道、お祓いって意外と高いんだなと愚痴をこぼした。
 
2人を家に送り届けると、また来年も集まろうということになった。
俺も家に戻り、車から降りようとしたとき、運転席にお札があった。
 
俺は落としたのかなと思い、車のバックミラーのところにお守りを括りつけた。
 
終わり。

解説

語り部はお札を「財布」に入れているので、落とすはずはない。
なのでお札は4枚あったと考えられる。
では、なぜ4枚あったのか。
それは住職が4人と見間違えたため。
そして、前日に警察に止められた際も、3人ともシートベルトをしていたはずなのに、注意されている。
つまり、お化け屋敷に行った後、「1人」憑いて来ていることになる。

 

芸術家

江戸時代中期。
現代では知られていないが、江戸にその名を知らぬ者はいないと言われるほど、高名な画家がいた。
 
もちろん、その名前は将軍家にも届いており、画家の元へ屏風の絵を描いてほしいと依頼がきた。
だが、その画家はこだわりが強く、特に色に関しては妥協できず、納得ができない場合は9割完成している状態でも、破り捨ててしまうほどだった。
なので、画家が完成させた絵は極端に少なく、下手をすると10年間、まったく絵が完成しなかった時期もあった。
 
当然、将軍家はそんなに長い期間を待ってはくれなかった。
画家はせめてと言って、1年間の創作期間を貰う。
 
すぐに5人の弟子と共に山奥にこもり、絵を描き始めた。
最初は順調に創作が進んでいた。
しかし、残り3ヶ月となったときに、画家の手が止まってしまう。
 
描いているうちに、背景の色を黄色から茶色にしたくなったのだ。
それは少し濁った独特の色味が必要で、持ってきていた染料ではどうしても作り出せない。
今の段階で、納得できる色は黄色しかない。
 
時間がない。
たとえ、このまま黄色で塗ったとしても、おそらくは将軍家も気にしないだろう。
だが、画家のプライドがどうしても許せなかった。
 
そこからは壮絶な試行錯誤が繰り返される。
青の染料を片っ端から取り寄せたり、花などの植物をすり潰してみる。
だが、納得できる青色が出ない。
 
もうダメだ、終わりだと絶望の淵に立たされていたとき、画家はあるものを発見する。
それは蝶が潰れたものだった。
羽の色には青色は全く入っていないのに、飛び出た体液は青色を放っていた。
 
まさに理想の青色だった。
画家はすぐに弟子たちにその蝶を大量に採ってくるように命じた。
 
集められた大量の蝶。
その蝶をすり潰して青色を作っていく。
 
そこからの画家の手は早かった。
間に合わないのではないかと心配したのが嘘のように、絵は期限の1ヶ月前に完成した。
 
その出来栄えは素晴らしく、将軍家もたいそう喜び、画家に対して多額の褒美を与えた。
 
ホッと安堵した画家は、その日に弟子たちを集めて宴をした。
この日だけは師弟関係もなく、5人全員は朝まで眠ることなく、喜びを語り合ったのだった。
 
終わり。

解説

画家が最終的に必要だった色は『茶色』である。
最初、画家が納得できる色は『黄色』だけだと言っている。
その後、蝶を潰して『青色』を手に入れたが、これだけでは『茶色』は作れない。
まだ『赤色』が足りていない状態である。
 
また、山にこもる際に『5人』の弟子を連れている。
しかし、将軍家に絵を渡した後では『画家を含めて5人』で宴を行っている。
つまり、『1人』足りないことになる。
この画家は、弟子の『血』を使って『赤色』を入手したのかもしれない。
 
さらにここまで有名な画家が現代で伝わっていないのは、絵を作る際に『人間』を使ったことがバレて、歴史から抹殺されたからかもしれない。

 

仲のいい母子

ある仲の良い家族がいた。
その家族には一人息子がいて、その息子は夫の連れ子だったが、妻はその子のことを目に入れても痛くないというほど可愛がっている。
 
あるとき、夫が妻に「あの子は俺の連れ子なのに、どうしてそこまで可愛がってくれるんだ?」と問いかけた。
すると妻は「あなたの子供ということは、もう一人のあなたと同じよ。だから、あなたを愛するのと同じようにあの子を愛するの」と答えた。
 
その言葉は嘘ではなく、妻はその子のためならどんなことでもやる覚悟があった。
その証拠にその子が欲しいというものは、例え、どんなに品薄だったとしても手に入れたし、その子がイジメに遭っていれば、人知れずイジメた子に仕返しをして精神的に追い詰めた。
 
お受験の際は、絶対に受かるわけがないと言われた、最難関の小学校の入試試験の問題を非合法な手を使って手に入れて、無事にその子を合格させたほどであった。
 
当然、その子は自分のためにそこまでしてくれることに感謝し、父親よりも母親の方を慕うようになり、懐いていた。
いつしかその子は母親のためだけに頑張るようになっていく。
 
だが、そんなとき、夫の不倫が発覚し、夫婦は離婚することになった。
夫の方は実の息子であるその子を引き取るつもりであったが、妻の方が絶対にその子を引き取りたいと言い、また、その子自身も母親の方に行きたいと言ったため、夫の方は親権を妻に譲った。
 
2人で暮らすようになってからも、その仲の良さは変わらず、休みの日になれば一緒に出掛けて、楽しそうに過ごしているのを周りの住人は何度も見ている。
 
そんな中、その子が中学受験の時期に入った。
母親とその子は有名な中学に入って、父親を見返してやろうと話していた。
母親はその子の受験に全力で応援する。
あなたなら絶対にできる、できないわけがないと励まし続けた。
 
母親は、お受験のときのように中学校の問題を入手して、その子にその問題を徹底的にやらせた。
 
そして、中学受験の合格発表の日。
その子は不合格だった。
母親が手に入れた問題は本物であったにも関わらず。
 
その子は母親の期待を裏切ってしまったことに絶望し、自殺した。
 
そして、その子のお葬式にやってきた父親は号泣する。
そんな元夫を見て、元妻はにっこりとほほ笑んだ。
 
終わり。

解説

母親が入手した「問題」は本物だったが、「受験する中学のもの」とは言っていない。
つまり、母親は「違う中学の試験問題」を渡していたことになる。
 
なぜ、母親がそんなことをしたのか。
母親はこう言っていた。
「あなたの子供ということは、もう一人のあなたと同じよ。だから、あなたを愛するのと同じようにあの子を愛するの」
つまり、母親は浮気して自分を捨てた元夫を「憎んで」おり、それと同じようにその子も「憎んで」いた。
 
全ては元夫に復讐するため、その子を自殺に追いやるための計画だった。

 

生存者

男は刑事で、凶悪連続殺人事件の犯人を追っていた。
 
犯人はランダムに家を選び、一家全員を惨殺するという手口だ。
また、犯人は全く証拠を残さないというのが特徴で、捜査は難航している。
物的証拠はもちろん、一家全員を殺すことで目撃者もいない。
中には家を出るときに見られたという理由で、通行人も数名殺している。
 
そんな事件がもう、5件続いているのだ。
これ以上、犠牲者は出せない。
刑事の男はもちろん、警察の威信をかけて捜査を続ける。
 
そんなあるとき、犯人はある孤児院を狙った。
もちろん、孤児院にいる全ての子供たちと保母を殺すつもりだったのだろう。
だが、たった一人だけ生き延びた子供がいた。
 
その子供は事件の前日に孤児院に入ったため、犯人はその子のことを把握していなかったのだろう。
しかも、その子は一瞬だが犯人の姿を見ている。
 
男は好期だと感じ、辛抱強く生存者の子供から話を聞く。
だが、その子は事件のショックから、なかなか口を開こうとしない。
まだ8歳なのだから仕方がないことだろう。
ここは気が逸るのを押し殺し、時間をかけてゆっくりやるしかないと男は覚悟した。
 
そんな中、事件の生存者がいることをマスコミが嗅ぎつける。
さすがに名前や年などの個人情報は洩れなかったが、生存者がいたことは世間に知られてしまった。
 
男は犯人がその子を殺しに来るのではないかと危惧した。
中にはその子を囮にして犯人を捕まえようという刑事もいたが、もちろん却下された。
そこで、生き残った子は別の戸籍を用意し、別人となってもらうことになった。
元々、孤児だったので、やりやすかった。
 
男は、これで犯人が焦ると考えていた。
今まで完璧に証拠を消してきていた犯人は、ミスを犯した自分が絶対に許せないはず。
ここから必ず綻びが出るはずだと踏んでいたのだ。
 
そして、男の予想は当たった。
再び、一家が襲われて、その家族の一人が生き残っていたのだ。
 
生き残ったのは前と同じく子供だった。
今度は10歳の女の子だ。
 
しかし、その女の子もショックが強かったようで、完全にふさぎ込んでしまっている。
家族を殺されたのだから、当然だろう。
 
今度は絶対にマスコミにバレないように情報を封鎖し、女の子に話を聞きに行く。
すると女の子は、震えながら「気になったことがある」と呟いた。
だが、確信が持てないらしく、それを確かめるために前の生存者の子に話を聞きたいと言い出した。
 
男は二人を会わせるのは危険かと思ったが、一刻も早く事件を解決しなければならない。
そこで、男は自分の立ち合いの元でなら良いと許可を出した。
女の子はそれで納得する。
 
数日後。
男は前の生存者の子を連れて、女の子の元へ行った。
 
その後、男と生存者の子、そして女の子の死体が発見されることとなった。
 
終わり。

解説

まず、女の子はなぜ、前の生存者が「子供」だと知っていたのか。
マスコミは名前も「年齢」も出していない。
そう考えると、生存者を殺すために、自分も「生存者」として近づいた可能性が高い。
つまり、犯人は女の子。
 
ここまで殺人事件が成功したことも、犯人が「子供ではない」という心理をついたからかもしれない。
 
最後になぜ、男と生存者の子と女の子の死体が発見されたのか。
生存者の子は犯人である自分を見たことにより、そして男は生存者の子を殺すところを見られたために殺した。
そして、女の子はミスした自分を許せないと考えて、自殺したのである。

 

食材

私の友人に、凄くグルメな女の子がいる。
 
彼女の家はお金持ちだったこともあり、小さい頃から美味しい物を食べていたということがあると思う。
中学校のときには、すでに世界三大珍味も食べ飽きたと言っていた。
私なんて1つも食べたことがないのに。
 
高校生になったとき、彼女と一緒に外食に行くと「美味しくない。普通の味」なんて言って、そのお店の評価をしていた。
しかも、出された料理の食材も完璧に当てるなんてこともしている。
そんな性格だったからか、彼女にはあんまり友達はいなかった。
 
一番仲がよかったのは私だと思う。
私も彼女の「お店の評価をする」ところはあまり好きじゃなかったけど、話も合ったし、一緒にいて楽しかった。
 
あるとき、彼女に自宅に招待された。
行ってみると、料理を出された。
それはすごく美味しくて、私はびっくりした記憶がある。
 
すると彼女はなんと「私が作った」のだと言っていた。
彼女が言うには「お店の味には飽きたから自分で作ってみた」らしい。
 
それからはよく、家に招待されて、彼女の手料理をご馳走になった。
彼女の料理は本当に美味しいし、珍しい料理も食べれたから、彼女に誘われるのを心待ちにしていた。
 
それから数年たった時、私はさらに驚くことになる。
なんと、彼女は親に別荘を作ってもらって、そこで食材を育て始めたのだ。
牛、豚、鶏、羊。
数は多くないが、どれも品質のいい動物を揃えていた。
 
やはり、こだわって育てているせいか、とてもいい食材になるらしい。
実際、彼女の料理はさらに美味しくなった。
私はお店でも出せばと提案したが、「そういうんじゃないから」と笑った。
あくまで自分で美味しい物を食べるために頑張っているとのことだった。
 
大学を卒業後、しばらく彼女とは疎遠になった。
結婚をし、そろそろ子どもが欲しいと思ったとき、なかなか子供ができなかった私たちは養子を迎え入れようと思い、孤児院へと行った。
 
なんと、そこで彼女と再会した。
会っていない空白の時間を埋めるように、私たちはたくさん話をした。
彼女は独身で、今も料理を続けているそうだ。
 
今は栄養学を勉強しているそうで、バランスのいい料理を教わった。
野菜が嫌いでも食べられるサラダや、血液をサラサラにする料理なんかも教えてもらった。
彼女は、昔は肉料理ばかり作っていた印象だったが、サラダや魚料理なんかも作っているのだという。
 
そしてまた、彼女の家に招かれた。
久しぶりに食べる彼女の料理。
 
今まで食べたことのない肉料理だった。
どんな食材を使っているのかさえわからない。
でも、本当に美味しい。
 
私はまた、お店を出せばと言ったが、やはり「自分が美味しい物を食べたいだけだから」と笑っていた。
彼女との友情は学生時代よりも強くなっていた。
一ヶ月に2回くらいは彼女と会うくらいになっていた。
 
そんなある日。
彼女の家に行くと、彼女は暗い顔をしていた。
どうしたのかと聞いたら、痛風になってしまったのだという。
 
彼女は「やっぱりバランスの取れた食事が大事だね」と言った。 
 
終わり。

解説

彼女は栄養学を学び、バランスのいい料理を知っていた。
ならば、なぜ、痛風になったのか。
それは『彼女自身』は偏った食事をしていたから。
では、『バランスのいい料理』を食べていたのは『誰』だったのか。
 
ここで彼女が『食材にこだわっている』ことがポイントになる。
そして、語り部が彼女と再会したのは『養子を考えいるときに訪れた孤児院』である。
 
つまり、彼女は子供を引き取り、育てて『食材』にしていた可能性がある。
そして、語り部はその『食材』の料理を食べているということになる。

 

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