深夜の物取り

意味が分かると怖い話

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本編

最近はもう、本当にどうしようもないくらい不景気だ。
巷ではよく人が足りないなんて言うが、そういうところは大概はやりたくない仕事だったりする。
 
俺だって一度は我慢してそういうところで働いてみたが、やっぱり自分に合わない仕事は苦痛でしかない。
だから辞めてやった。
 
けど、やりたい仕事なんてそうそう見つからない。
というより、俺自身、なにがやりたいのかよくわかってない。
 
とはいえ、親から絶縁された俺としては、金がないと生きていけない。
このままでは死んでしまう。
受け子みたいな危険な仕事もしたくない。
そういうのは大抵、騙されて終わりだから。
 
じゃあ、どうするかというと、持ってる人から分けてもらえばいい。
 
ということで、俺は夜な夜な家に忍び込んでは、少しずつお金やお金になりそうなものを分けてもらう。
 
俺は一軒から根こそぎ持って行くことはしない。
本当に少額だ。
それこそ、無くなっているのが分からない程度。
これは分けてもらうのだから、当然だろう。
必要以上に貰っていくのは、ポリシーに反する。
 
俺は一気に貰うのではなく、コツコツと何軒も回るようにしているのだ。
 
そして、何軒も回る上で、あるコツがある。
それは夜に忍び込むということだ。
 
普通は夜だと、住人がいる可能性が高いといって避けるだろう。
昼間の留守を狙っての空き巣だ。
だが、俺はそれだと目撃される可能性が高いんじゃないかと思う。
家の住人はいなくても、周りの人たちや道路を歩いている人たちだっている。
 
それなら、ほぼ周りに誰もいない夜を狙った方がいいと、俺は考えた。
 
けど、それだと家に住人がいる可能性が高い。
ただ、ここで俺はあることに気付いた。
 
それは最初から住人がいる前提で入ればいい。
住人が寝静まったころに入り、まずはブレーカーを落とす。
そうすれば、仮に住人が起きてきても電気が着かないので慌てるだろう。
その隙に逃げればいい。
それに、住人は慌てるから、こっちも相手が起きてきたと気づける。
いきなり、通報されることもないってわけだ。
 
俺は夜目が利く方だから、暗闇でも割と動ける。
住人が慌てている間にササッと逃げることが可能だ。
 
いや、俺って天才だね。
 
この方法はやってみると思惑通り、上手くいく。
 
その方法で大体1年が過ぎた頃だろうか。
 
俺はある一軒家に忍び込んだ。
結構、金持ちそうだ。
これならいつもより、少し多めに分けてもらってもいいだろう。
 
さっそく、俺はブレーカーのところへ行き、ブレーカーを落とそうとした。
だが、既にブレーカーは落とされた状態だった。
なんだかわからないが、ちょうどいい。
手間が省けた。
 
俺は次にリビングへと向かう。
 
それにしても、この家は随分と歩きやすい。
物もあんまりないし、家具なども端に寄せている。
あまり、物を買わない人なんだろうか。
 
俺はタンスを見つけ、順番に漁っていく。
 
すると突然、後ろから足音がした。
俺は慌てて振り向く。
 
そこには暗闇の中にぼんやりと立っている人が見えた。
ここの住人だろうか。
 
それにしても暗闇なのに随分と落ち着いているものだ。
とはいえ、こっちは落ち着いていられない。
すぐに逃げないと。
 
人影はふらふらとキッチンの方へと向かった。
なんだろう?
よくわからないが、その隙に逃げることにしよう。
 
俺は廊下を忍び足で歩く。
 
すると相手は手に包丁を持って、フラフラと歩いている。
 
少し背筋が凍ったが、こんな暗闇でまともに包丁をつかえるわけがない。
ここは、相手の脇をすり抜けて、家から脱出することにしよう。
 
終わり。

■解説

ブレーカーが落ちていたのに気づかないことや歩きやすい家具の配置、そして、暗闇でも落ち着いて行動している。
この家の住人は視覚障害者である可能性が高い。
このあと、語り部は住人の脇をすりぬけようとするが、そのときに刺されてしまうはずである。