イリュージョン

意味が分かると怖い話

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本編

男はマジシャンを目指している。
手先がかなり器用で、教えられたマジックは何でもそつなくこなしてしまう。
 
しかし、男にはマジシャンとしての華がなく、発想も平凡だった。
そのため、派手なマジックを作り出せないでいる。
そんな地味な男の元にはほとんど仕事が来ない。
 
そこで男はあるマジシャンの弟子入りをした。
師匠のマジシャンは独創的なマジックを数多く持っていて、マジシャンの中でもトップクラスの人気を誇っている。
そんな師匠のマジックを目の当たりにすることで感性が刺激され、男は斬新なマジックを思いついた。
 
これで一花咲かせられる。
そう思っていた矢先だった。
そのマジックを師匠に取られてしまったのだ。
 
先に披露されてしまったため、弟子である男がそのマジックをしても、教わったマジックと思われてしまう。
 
男は怒り狂い、師匠に詰め寄る。
しかし、師匠は取られる方が悪いと言って、あしらわれてしまう。
 
そんなときだった。
師匠が新しいマジックを思いついたと言い、練習しているのを、男は覗き見をする。
その新しいマジックというのはイリュージョンだった。
それはとても危険で、人々の目を引くこと間違いなしだ。
 
男はそのイリュージョンのマジックのタネを盗み見ることに成功する。
それはある特殊な金具が要となるものだった。
 
そして、男はその金具に細工を施す。
師匠はイリュージョンのマジックが失敗し、死んでしまう。
 
これで、このイリュージョンのマジックを知る人間は自分一人になったと喜ぶ男。
 
さっそく、マジックの練習に励む。
 
そんなとき、助手にしてほしいとある青年がやってきた。
人手が足りなかったこともあり、男はその青年を助手に雇うことにした。
 
男はリハーサルとして、青年にイリュージョンのマジックを見せることにする。
準備をしていると、青年が手伝うと言い出したので、買い出しなどをお願いした。
 
青年はテキパキと働き、男はいい奴を雇うことができたと喜ぶ。
 
そして、イリュージョンのマジックの準備が整ったときだった。
青年が慌てて、駆け寄って来る。
 
「金具、壊れてますよ。これ、新しいのです」
 
そう言って青年が金具を差し出してくる。
それはマジシャンの要になる重要な金具だ。
 
男は、本当に気の付くやつだと、褒めたのだった。
 
終わり。

■解説

イリュージョンのマジックを知るのは男しかいないはずである。
では、なぜ、青年は要となる金具のことを知っていたのか。
それは、師匠がその青年から、イリュージョンのマジックを盗んだからと考えられる。
つまり、青年はイリュージョンのマジックを取り返すために男の元に来たのである。
この後、男は「細工のされた」金具を使うことで、師匠と同じ運命を辿ることになる。