意味が分かると怖い話

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本編

私の趣味は山登りだ。
 
でも本格的な登山をする山ガールとかじゃなくて、自然を楽しむタイプの山登りだ。
どちらかというとハイキングに近いのかもしれない。
 
だから、富士山とかそういうガチの山登りはしない。
体力も続かないしね。
 
それで結構、植物にも興味があったりする。
珍しい花なんか見つけると、テンション上がっちゃうんだ。
もしかしたら、そういう花を見つけたいから山に登ってるのかも。
 
だって、散歩で見つけられる花で珍しいのなんてほとんどない。
そりゃそうだよね。
滅多に見れないから、珍しいんだから。
 
そういう目的だから、大体は私一人で山を登る。
同じ趣味の人がいればいいんだけど、そうそう花を見るために登山をする人はいない。
 
でも稀に山の中で出会いがあったりする。
そのときだけで、もう二度と会わないような人との出会い。
まさに一期一会ってやつだ。
 
そういうのも山登りの醍醐味かもしれない。
 
あるとき私はほとんど人が寄り付かないようなマニアックな山に登っていた。
そこで私は10歳くらいの女の子に出会った。
 
その女の子はかなりの軽装で、一人で山に来ていると言っていて、私はすごく驚いた。
話を聞いてみると、家が近くにあるらしい。
この辺は庭みたいなものだと言っていた。
 
この山が庭だというのは本当のようで、私はその女の子に、色々と穴場スポットを教えてもらった。
景色の良い場所、綺麗な水が流れる川、そして珍しい花が咲く場所。
 
私はいつも見てきたものとは全く違う幻想的な雰囲気に、魅了され、終始興奮気味だったと思う。
何度も女の子にお礼を言っていたを覚えている。
 
そんな私を見て、女の子はとっておきの花を見せてくれると言った。
 
山奥のさらに奥。
そこにひっそりと咲く、一凛の花。
 
それは青く淡い光を発する、不思議な花だった。
あまりに幻想的な花で、まるで夢の中のような光景だ。
 
もちろん、見たことのない花だった。
 
女の子の話によると、この花は10年に1度しか咲かない花で、しかも毎回、咲くときは色が違うのだという。
前回は黄色で、その前は琥珀色だったと言っていた。
 
黄色と琥珀色か。
それはそれで見たかったなぁ。
 
私はその花を目に焼き付け、立ち上がる。
そろそろ帰らないと暗くなりそうだ。
 
すると女の子は不思議そうな顔をして私を見上げた。

「お花、摘もうとしないの?」
「しないよ。だって、摘んじゃったら、あなたが見られなくなっちゃうでしょ?」
 
私がそういうと女の子は素敵な笑顔を浮かべた。
もしかしたら、その笑顔はその花よりも、印象が強かったのかもしれない。
 
女の子に連れられ、進んでいくと、あっという間に山の麓についていた。
私は女の子にお礼を言って、家に帰った。
 
本当に不思議で幻想的なものばかりだった。
 
また、あの子に会えるかな?
 
そう思いながら、ベッドに入る。
そして、今度はあの花とあの女の子の写真を撮ろうと心に決めたのだった。
 
終わり。

■解説

10歳の女の子が、なぜ10年に1度しか咲かない花の、前の花の色を知っているのだろうか?
もしかすると、この女の子は人間ではなく、山の精霊かもしれない。

 

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