■本編
俺は二重人格だ。
病院では一種の睡眠障害だと診断されたが、そんなわけはない。
ベッドから起き上がって、財布を持って玄関のカギを開けて、店に行く。
商品をカゴに入れてレジでお金を払って家に帰り、カギを閉めて家に入る。
知らない間に買い物をするなんて、睡眠障害じゃありえない。
夢遊病だったとしても、さすがにここまで出来るはずがない。
俺は深い眠りに落ちると、一定時間、どんなことをしても起きないという症状なのだが、その間に別人格に移り変わっているのだと思う。
幸いなのが、俺の別人格が何か外で問題を起こすことはないということだ。
別人格は他人に見つからないようにこそこそと行動する性格らしい。
その部分は本当によかった。
だけど、やっぱり勝手に買い物をされるのは辛い。
バイトも掛け持ちしないとやってなれない。
それと物を勝手に食べられるのも、正直イラっとする。
楽しみに取っておいたものが食べられた時は、本当に悔しかった。
今も起きたらテーブルの上にカップラーメンの空の容器が3つも並んでいる。
どれも期間限定のものばっかりだ。
今はもう売ってないやつで、楽しみに取っておいたものだったのに。
しかたない、違うのを食べるか。
俺はため息をついて、冷蔵庫を開いた。
終わり。
■解説
いくら二重人格でも胃袋は同じ物のはずである。
3つのカップ麺を食べたはずの後に、お腹が減っているのはおかしい。
つまり、語り部は二重人格ではなく、知らない誰かが家に住み着いている可能性が高い。
また、その誰かは語り部が睡眠障害であり、途中で起きないことを知っていて、勝手に語り部の財布を持って買い物に行っている。