■本編
大学に入ってから、すぐにストーカーにつきまとわれた。
私の前に出てくるのでもなく、陰からずっと、私を監視している。
被害といえば、毎日、私宛にどんなに好きかを書き綴ったものが送られてくる程度。
本当は部屋の中にも入られている気がするけど、これは証拠がない。
そんな程度の被害なので、警察も取り合ってくれない。
だから、私は引っ越しすることにした。
どこから情報が洩れるか分からないから、引っ越しのことは誰にも言っていない。
引っ越し作業自体も、業者に無理を言って早朝にパパっとやったくらいだ。
これでストーカーも、私がどこに行ったかはわからないはずだ。
とにかく早く見つけようとして、部屋探し自体は雑になっちゃったけど、いざ、引っ越してみると悪くない。
建物もしっかりしてるし、内装も割と好み。
ただ、ちょっと西日が強いのが欠点かな。
暑くなってきたので、エアコンを入れようとした。
だが、リモコンが見当たらない。
「最悪。今度、大家さんに言って、用意してもらわないと」
仕方ないので、エアコンなしで過ごすしかない。
今が秋で本当によかった。
数日後。
荷解きも終わり、少々足りないものもあるが部屋はそれなりに見れる状態になった。
これなら親友を呼べるかな。
小学校からの大親友。
ストーカーの件も、彼女がいなかったら、きっと精神的にもたなかったと思う。
明日は休みだし、パーっと朝まで一緒に騒ごうと思う。
連絡して一時間後、彼女がやってきた。
「へー、いいところじゃない」
「でしょ?」
「言ってくれれば、引っ越し、手伝ったのに」
「いやいや、悪いし、恥ずかしいでしょ」
「なーに? 私に見られて恥ずかしい物でも持ってるの?」
「ち、違うって!」
「ふーん。まあいいや。……はい。大量のお菓子。今日は朝まで盛り上がるんでしょ?」
「さっすが! よくわかってるじゃん!」
「あと、これ、エアコンのリモコン。うちと同じのだから、使えると思う」
「ありがとう! 助かるよー! 貰っておくね」
「ちょっとちょっと、貸すだけだから! 帰る時に持って帰るから!」
「ええー! 引っ越し祝いにちょうだいよ!」
「ダメだよ、あたしのエアコンが使えなくなるじゃん!」
「あははははは」
そんなバカなことを言いながら、親友と楽しい1日を過ごした。
終わり。
■解説
語り部は引っ越す際、誰にも教えていない。
それなのに親友は、なぜ「エアコンのリモコンがない」ことと、「同じエアコン」だと知っていたのか。
親友はここに来る前から、語り部の部屋の中を見たことがあることになる。
その点からもストーカーは親友である可能性が高い。