意味が分かると怖い話 解説付き Part201~210

意味が分かると怖い話

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真夜中の事故

その日は出張で遠くに来ていた。
 
取引先との重要な会議を終わらせ、ホテルでのんびりと過ごしていた。
だが、突然、次の日の朝からの会議に出て欲しいと連絡がきたので、深夜に車を走らせているというわけだ。
 
ゆっくりと過ごすつもりが長時間の運転を強いられている。
ドライブが好きなので、旅費を浮かせるためにも車で来ていたのが失敗だった。
やっぱり電車を使えばと考えるが後の祭りだ。
 
いくらドライブが好きだからと言っても、それは天気のいい昼間の話で、深夜の峠道なんて本当にごめんだ。
 
しかも、この峠道は『出る』との噂の場所である。
 
峠道なので街頭なんてほとんどなく、対向車や後続車も全くいないから、明かりと言えば自分の車のヘッドライトだけだ。
 
頼むから出るなよ。
 
そう祈りつつ、車を走らせる。
怖さを紛らわせるために、音楽を爆音で流しながら。
 
だが、峠の8合目付近だった。
不意に、流していた音楽が止まった。
 
USBに入れたものをループしていたから、曲が終わったから止まるなんてことはない。
 
嘘だろ。
 
運転しながらも、デッキを操作する。
が、そのときだった。
 
不意に、目の端に光が見えたから、慌ててハンドルを切った。
 
それは車のライトだ。
ヘッドライトではなく、赤の点滅した光。
つまりハザードランプだ。
 
間一髪、ぶつかることは免れた。
ハザードランプがなければ、完全にぶつかっていただろう。
付けてくれていて、本当に助かった。

ハザードランプを付けていた車は、どうやらガードレールに激突したようで、車の後部が道路に飛び出している状態だった。
つまりほぼ、真横になっている。
 
停車して、チラリとその車の方を見る。
本当はそのまま通過したい気持ちだったが、事故を起こした人も、こんな場所に一人で待つのは心細いだろうと思い、車の方へ向かった。
 
そして、すぐに違和感を覚える。
なぜなら、車の近くに誰も人が立っていないのだ。
 
おかしいと思い、車の中を覗き見る。
すると、運転席には頭から血を流した男が前のめりになっていて、ピクリとも動かない。
 
既に自分で通報したのかもしれないが、念のため、俺も警察と救急に通報した。
 
1時間ほど経ったころ、ようやく警察と救急が到着する。
俺も色々と話を聞かれえて、面倒くさいことになった。
やっぱり、あのまま通過すればよかったとも思ったが、どうやら、事故を起こした運転手は通報はしてなかったらしい。
俺が通報しなければ、発見は朝になっていただろう。
 
しかも、運転手は通報も虚しく、亡くなってしまった。
というより、警察の人の話では事故を起こしたときに、即死だったらしい。
 
……あれ?
ちょっと待ってくれ。
 
それだと、おかしくないか?
 
終わり。

解説

事故を起こしたときに運転手が即死したのであれば、ハザードランプを付らけれないはず。
いったい誰がハザードランプを付けたのだろうか?

 

VIP

ある都市伝説を聞いた。
 
世界的に有名な遊園地に、一般的には知られていないVIP待遇を受けられるチケットがあるのだという。
それは、アトラクションを並ばずに乗れるのはもちろん、アトラクションまでの移動は車で送ってくれるらしい。
 
そして、何より凄いのが地下に一般客では乗れないアトラクションとホテルがあり、それが利用できるのだ。
 
もちろん、入場料は物凄い金額らしい。
噂では億かかるとか。
 
まあ、私には関係ない話だ。
と、思っていたのだが……。
 
本当に、ひょんなきっかけで、私は外交官の娘と知り合い、そのツテで一緒にその遊園地に行くことになった。
 
その子も都市伝説のことは知っていたらしく、入園する前のチケット販売所で、そのことをスタッフに聞き出した。
最初はそのスタッフもただの噂だと誤魔化していたが、その子が身分証明書を見せると、違う場所に案内された。
 
そして、すぐに偉い人らしき、男の人が出てきた。
その男の人の話では、そのVIPの場所への入場料は1000万なのだという。
 
そのとき、私は「さすがに億はないのか」、なんてトンチンカンなことを考えていた。
その子は凄くこの遊園地のことが好きらしく、1000万を払うと言い出した。
 
そして、その男の人は「あなたはどうしますか?」と聞いてくる。
 
さすがに1000万を奢ってくれとは言えず、「私はいいです」と断った。
だが、その子はすごく寂しそうな顔をして、せっかくなら一緒に回りたいと言い出す。
 
冗談じゃない。
その子と違って、1000万なんて払えるわけがない。
 
でも、その子は食い下がって、「借金したら?」と言い出す始末だった。
正直、その発言に、私は引いた。
金銭感覚がおかしい。
1000万なんて気軽に借金できる金額じゃない。
 
すると男の人の方が、少し考え、「ある条件をクリアすれば、入場料は無料になります」と言い出してきた。
どうせ、その条件はクリアできるものじゃないと思い、どんな条件かを聞いた。

すると、「健康診断を受けて貰うだけ」なのだという。
凄く胡散臭かった。
 
1000万が健康診断を受けるだけでタダになるなんて、明らかにおかしい。
なので、色々とその男の人に聞いてみた。
 
「入場は完全無料です。もちろん、入場してからもそちらの方と全く同じサービスを受けられます。なので、そちらの方と同じように過ごすことは可能ですよ。……何か心配しているようですが、園内で我々があなたに危害を加えたりすることは一切ありません」
 
その説明を聞き、その子の方が「タダなんだし、試しにやってみたら?」と言った。
そして、私は押し切られる形で、健康診断を受けることになった。
 
結果は、クリアとのことで、私は本当に無料で入場できた。
そして、入場した後、すぐに地下へ案内される。
 
本当に別世界だった。
ここの遊園地は何度も来ている。
 
でも、この地下の遊園地は何もかもが、いつも来ていた遊園地とは違っていた。
アトラクションも自由に乗れるし、グッズも一般に売り出されていない物もある。
食べ物も全然違う。本当に美味しい。
 
私たちは夜遅くまで、地下の遊園地を堪能し、その後、ホテルに泊まった。
一流ホテルとはまさにこんなところなんだろう。
全てがなんというか、ゴージャスだった。
 
本当に最高に幸せな時間を過ごせた。
私はその子に「誘ってくれてありがとう。いい思い出になったよ」と言った。
 
その子は笑顔で「また、一緒に来ようね」と言い、「そうだね」と私は返した。
 
夢のような1日を体験し、退園する時間になった。
 
たくさんのお土産を持ち、園から出る。
すると、スタッフの人に私だけが呼び止められた。
 
終わり。

解説

語り部は入場料『だけ』が無料になっていた。
つまり、アトラクションに乗ることや、食事、ホテルの宿泊料は料金がかかるというわけである。
そして、スタッフは語り部がその金額が払えないだろうと知っている。
なぜなら、語り部に「健康診断」を受けさせているから。
 
この後、語り部は臓器を売られる可能性が高い。
また、スタッフは「園の中では危害を加えない」と言っている。
これは逆に言うと「園の外では危害を加える」と言っているようなものである。
 
語り部はひと時の楽しみのために、人生を終わらせられてしまう。

 

ストーカーブログ

青年は最近、疲れが取れないことが悩みだった。
 
寝ても寝ても眠い。
大学も休みがちになっていた。
 
病院に行ってみたが、いたって健康と診断された。
ギリギリ、バイトだけは何とか行くくらいの生活が続いている。
 
起きて、バイトに行って寝るだけという毎日。
睡眠を12時間以上は取っているのに眠い。
疲れが取れない。
 
そして、不思議だったのが、まったくお腹が減らないというところだった。
お腹が減らないので、食べないで寝るということも少なくない。
かといって、それで体重が落ちることはなかった。
 
大学が休みがちな青年を心配して、よく遊びに来る友人が、ある日、慌てた様子でやってきた。
 
その友人が言うには、変なブログを見つけたのだという。
そのブログには青年のことが書かれていた。
 
青年のことが好きで、直接会うことはできないがその愛は誰にも負けないと書かれている。
見ているだけで幸せなのだという。
 
そんな青年への思いがつらつらと書かれていた。
青年はそのブログを見て、照れ臭かったが、書いている内容が過激すぎた。
友人は、これは完全にストーカーだから気を付けた方がいいと忠告してくる。
 
ブログは毎日更新されていて、書いてある内容もドンドン過激になっている。
何より怖いのは、青年の写真も載せてあったのだが、青年自身、その写真がどこで撮られたものかわからなかった。
隠し撮りをされていると思い、青年は引っ越しを決意した。
 
その友人に手伝ってもらい、すぐに引っ越しした。
だが、引っ越した日に、ブログで青年が引っ越したことが書かれていた。
 
そして、ツーショットと書かれた写真にはピースした青年が映っている。
その写真は引っ越した記念に、友人と撮った写真で、青年が写った場所だけを切り抜いて載せていた。
一瞬、青年は友人を疑ったが、そんなことをする人間ではないことは知っている。
 
どうやってこの写真を手に入れたのかわからないが、きっと、新しい住居もバレているだろう。
青年はノイローゼになりそうだった。
 
そのストーカーが書くブログを見るのが怖いが、見ないのも怖い。
何が書かれているのが気になって仕方がない。
 
そして、その日もストーカーのブログを開く。
 
すると青年はあることに気が付いた。
ブログの右上に『ログイン』というボタンが出ている。
 
試しに押してみると、ブログの管理画面が開いた。
 
終わり。

解説

ブログの管理画面が開いたということは、青年が使っているデバイスからブログを掲載しているということになる。
 
さらに、ブログには青年しか映っていない写真(友人と一緒に撮った写真で、青年のところを切り取っている)を、『ツーショット』と書いている。
青年しか映っていないのに、ブログの投稿者と青年の2人が映っているということを意味している。
 
また、青年はずっと眠気と疲れ、そして、食べていないのに痩せない、健康だと診断されている。
このことから、青年は『多重人格』で、もう一人の人格がブログを書いていることがわかる。
 
会うことができないのも、青年が寝ている間にしかもう一人の人格が出て来れないので、「会うことはできない」というわけである。

 

人形

男には妹のように思っている幼馴染がいる。
その幼馴染はオカルト好きで、いつも人形を使って降霊術をしていた。
男はいつも、幼馴染が人形を動かすのを見て驚かされていたのだった。
 
月日が流れ、男はある女性と結婚をした。
子供こそできなかったが、男は幸せな日々を過ごしていく。
そんな男のことを幼馴染も祝福してくれていた。
幼馴染は男の妻とも仲が良く、幼馴染が妻にこのシャンプーがいいとか、このドライヤーは髪を痛めないなど、色々と言ってくれていた。
 
妻の方もそんな男の幼馴染のことを妹のように思っているようだった。
 
しかし、その頃から世間ではある殺人事件が話題になる。
発見された遺体は必ず、一部分切り取られているというものだった。
 
右手、左足、右目や鼻など、実に様々な場所が切り取られている。
被害者には共通点が鳴く、男でも女でも見境なく襲われていた。
 
男は怖いと思いながらも、どこか他人事のように考えていたのだった。
自分や周りの人たちが犠牲になるわけがないと。
 
だが、その考えは裏切られることになる。
男の妻が犯人にさらわれ、遺体となって見つかった。
その遺体からは『髪』が剥ぎ取られていた。
 
それを見た男は心のどこかで確信じみたものを感じる。
 
犯人は幼馴染ではないだろうか、と。
 
そして、その予想は奇しくも当たってしまう。
幼馴染の家に行くと、ある『人形』を見せられる。
 
その人形は男にそっくりな人形だった。
幼馴染は男と似た部位を持っている人間を殺し、その似ている部分を奪っていたのだ。
奪った部分を継ぎ接ぎし、人形を作り上げたのである。
 
既に人形の肉体は完成していた。
肉体の最後のパーツが、妻の髪だったのだろう。
 
男はなぜ、こんなことをしたのかと問いかける。
すると幼馴染は男を自分のものにするためだと言った。
 
本物の男は他の人のものになったが、人形なら自分のものにできると思ったのだという。
 
絶望し、座り込む男に、幼馴染はナイフを持って歩み寄る。
そして、こう言った。
 
「来てくれてありがとう。これで完成するよ」
 
終わり。

解説

幼馴染は降霊術が得意である。
肉体のパーツは男の妻の髪で揃っている。
最後に必要なのは、降霊する魂。

幼馴染は男を自分のものにしようとしていた。
つまり、自分で作った男の肉体に男の魂を降霊させて完成にいたるわけである。

 

妊娠詐欺

UFOを見たという人は結構いるかもしれない。
だけど、UFOに連れ去られたという人はほとんどいないだろう。
 
俺は5年前、学校帰りにUFOに遭遇して浚われた。
何をされたのかは覚えていないが、ものすごい恐怖心だけが残っている。
 
その時の俺は、よせばいいのにみんなにこのことをしゃべってしまった。
おかげで、高校時代はおろか大学時代も変人扱いされ、彼女はもちろん、友達さえもできなかった。
 
大学を卒業し就職する際に、俺は地元を離れた。
俺を知る人間のいない、遠くをわざと選んだのだ。
 
おかげで周りからも変人扱いされることもなくなり、ごく普通の生活を手に入れた。
仕事は結構キツかったが、同僚と一緒なら苦ではなかった。
 
友達と言うか話せる人がいるだけで、随分と生活が変わるものだ。
そして、同僚とは休みの日も一緒に遊ぶようになり、俺はまるで学校生活のときの孤独を晴らすように、色々と同僚と遊びまわった。
 
大学デビューならぬ、社会人デビューだろうか。
さすがに髪を染めたりはしなかったが。
 
そんなある日、同僚が合コンに誘ってくれた。
今まであまり異性と話すことがなかったので、俺はその合コンを受けようと思った。
だが、直前になり、俺は体調を崩し、合コンにはいけなくなってしまう。
 
同僚の方はせっかくだからと言って、合コンに参加していた。
それから数ヶ月が経っち、何回か合コンに誘われたが、まるで体が拒否反応を起こすように具合が悪くなってしまう。
 
そんな中、同僚が青ざめた顔をして、ある相談というか愚痴を言ってきた。
それは妊娠詐欺にあったというものだった。
 
酔っぱらって、気が付いたらホテルにいて、一緒にいた女が後日、妊娠したと言ってきて多額の慰謝料を要求されたのだという。
 
同僚は俺にも気を付けろと言ってきたが、そもそも合コンに行ったことないしと言ったら、苦笑いしていた。
 
そんなことを話していた数日後。
いきなり俺の家に、5歳くらいの子供が訪ねてきた。
見たことのない子供だった。
 
どうしたのかというと、その子は「お父さんに会いに来た」と言い出したのだ。
 
俺は笑ってしまった。
妊娠詐欺もここまでくれば、ギャグだ。
合コンにも行ったことのない俺に、子供をよこしてくるなんて。
 
俺はその子供に「お母さんの所へ連れてってくれるか?」と言った。
しかし、子供は首を横に振った。
 
仕方がない。
面倒くさいけど、警察に連れて行くか。
 
俺は見も知らない子供と手を繋いで、警察署へと向かった。
 
終わり。

解説

一見すると、その子供の父親は語り部だということはあり得ないように思える。
だが、語り部はUFOに連れ去られている。
語り部が連れ去られたのは5年前で、子供は5歳くらい。
 
そして、語り部は何をされたかは覚えていないが恐怖心は残っているという。
合コンに誘われても、急に体調が悪くなるのは、異性と関わることに無意識にトラウマがあるからではないだろうか。
 
現れた子供は語り部と宇宙人の子供の可能性がある。
 
そして、語り部が言った「お母さんの所へ連れてってくれるか?」と言ったことに首を振ったのは、宇宙にいるから無理という意味なのかもしれない。

 

ナンパ男

私の実家は海の近くにある町だ。

普段は人も少なく活気のない町だが、夏になると様子が一気に変わる。
観光客が大量に押し寄せてくるのだ。
 
小さい頃はそれがとても嫌だった。
知らない人が町中に増えるのが、なんか不気味に感じたのだ。
 
そんなこともあり、私は就職で地元から離れてからはあまり実家に帰っていなかった。
だが、こっちできた友達から、海を観光したいと言われ、今年の夏は実家に帰ることにしたのだ。
 
友達は私の実家に泊まるので旅費が浮くと喜んでいた。
 
さっそく友達と海に遊びに行こうと用意しているとお母さんから「気を付けなさい」と注意された。
 
なんでも最近、この辺りで行方不明者が増えているのだという。
しかも、いなくなっているのは若い女の子らしい。
 
そのことは町の中では結構有名らしく、海の家を経営しているおじさんにも、注意された。
 
「行方不明が出るくらいにさ、ちょうどナンパ男が現れるようになったんだよね。しかも、これは噂なんだけど、いなくなった子はみんなそのナンパ男に声を掛けられたって話なんだよ。警察もそいつをマークしてるんだってさ。だから、本当に、ナンパとかについてっちゃダメだよ」
 
私は生まれてこのかた、ナンパなんてされたことがない。
いらない心配だと、心の中で笑っていたら、いきなりナンパされた。
 
「君、地元の子じゃないでしょ? いや、どっちかというと休みだから実家に戻ったってとこかな?」
「え? どうしてわかるんですか?」
「なんていうかな、垢抜けてる感じ? でも、どっか清楚な感じがするからさー」
 
すごく嬉しい言葉だった。
垢抜けているっていうところも、清楚な感じがするってところも。
 
ナンパしてきた人はまさしくチャラ男って感じだった。
おそらく、警察がマークしてるのはこの人のことだろう。
 
だが、初めてあったとは思えないくらい、話が合い、私は明るいうちは大丈夫だろうと思い、その人についていった。
その人は遊ぶというよりも、歩きながら話をするという感じだった。
 
話は盛り上がり、気づけば人気のない場所にいることに気づく。
 
すると男は急に「いいだろ? 夏の思い出にさ」と言って、抱き寄せてきた。
私は必死に男を振りほどこうとしたが、男は思ったよりも力強い。
 
とにかく大声を上げるしかない、そう思っていたときだった。
 
「嫌がってるだろ。放してやれよ」
 
現れたのは真面目そうな青年だった。
夏の海辺なのに、水着ではなくきっちりとした服を着ている。
 
「……なんだよ、またお前か」
 
チャラ男は舌打ちして、私を解放してそそくさと立ち去っていった。
 
「大丈夫だった?」
「ありがとう」
「膝が震えてる。怖かったよね? 少し休もうか」
 
こんなことは初めてだったので、私はかなり動揺していた。
そんな私を察してか、その人は優しく岩場までエスコートしてくれた。
 
素敵な男性だ。
怖い思いをしたけど、おかげで素敵な出会いができた。
 
私は少しだけチャラ男に感謝した。
 
終わり。

解説

この青年が本当の誘拐犯。
チャラ男は青年に「またお前か」と言っている。
つまり、何度もチャラ男から女の子を助けていることになる。
それは逆に言うと、全員、チャラ男に声を掛けられた女の子ということ。
 
青年はチャラ男から守ったことで安心しきった女の子を手に掛けているというわけだ。
なにより、チャラ男が既に人気のないところに誘い出してくれている。
そこからは簡単だろう。
 
また、真面目そうということで、青年よりもチャラ男の方を警察がマークしている。
そのため、青年には疑いがかかっていない。
 
この後、語り部がどうなったかは、想像に難くないだろう。

 

反面教師

私には憧れの人がいる。
その人を追って、私は警察官になった。
 
念願の刑事課に配属になり、私は先輩の部下になった。
本当に幸運だった。
今、私は10年続いている連続殺人事件を、先輩と一緒に追っている。
 
先輩は若いのに、本当に頭が良く、論理的かつ勘も冴えわたるのだ。
署内でも10年に1人の逸材と言われている。
 
そして、先輩は私を女扱いせず、ちゃんと1人の刑事として扱ってくれる。
私はそれが嬉しくて、必死に先輩から色々吸収しようと頑張った。
 
ただ、先輩も順風満帆とは言えず、連続殺人犯の捜査は難航している。
10年も逃げ続けている犯人はとても知能が高く、狡猾で鮮やかな手口だと先輩は苦い顔をしていつも言っていた。
 
だけど、どんなに絶望的な状況でも先輩は諦めない。
どんな小さな手がかりさえも絶対に見逃さなかった。
 
そして、その日は訪れる。
 
ついに先輩は連続殺人犯を捕まえたのである。
 
もちろん、その場には私もいた。
犯人が捕まる前は、本当に胸が高まるほど興奮もした。
 
だが、結構、あっさりと犯人は捕まってしまった。
なんて言うか、あまりにもあっさりしすぎて冷めたくらいだ。
 
私は人知れずため息をつく。
 
よし、この人を反面教師にしよう。
 
終わり。

解説

語り部の憧れの人というのは先輩ではない。
語り部は先輩に憧れているとは1度も言っていないのだ。
 
そして、反面教師にするという発言。
これらを考えると、語り部が憧れていたのは連続殺人犯の方である。
その鮮やかな手口で人を殺す犯人をもっと深く知りたくて、刑事になったわけである。
 
さらに、その犯人を反面教師にするということと、先輩の捜査方法を吸収した語り部は、この後、恐ろしい連続殺人事件の犯人になる可能性が高い。

 

サブスク

サブスク。
今や、いろんな種類のものがサブスクのサービスが出てきている。
 
その中でも利用が多いのは動画配信ではないだろうか。
いつでも24時間動画見放題。
それを結構、低額で利用出来るんだから、世の中便利になったもんだよ。
 
少し前に、新たな動画配信サービスが出てきて、今、それが物凄い話題だって聞いたことがある。
みんな夢中で見てるらしい。
 
でも、そういう動画サービスって入っている内容はどこも同じようなものなんじゃないかと思っていたんだけど、どうやら違うようである。
 
あまりにも友達から話題で振られるので、少しずつ興味が湧いていた頃だった。
 
いきなりそのサブスクのサービスに当選したというハガキが届いた。
ちょうど、登録しようかと思っていたので、さっそく契約することにした。
 
だけど、いつまで経っても動画配信にアクセスできるパスワードが届かない。
ムッとして、問い合わせようとしたところ、口座にお金が振り込まれた。
 
遅延か手違いのお金だろうか?
そういうことなら、苦情を入れるのはもう少し待ってあげよう。
 
それと、最近、なぜか知らない人に声を掛けられるようになった。
 
一体、なんなんだろう?
どこからか個人情報が漏れたのかな?
ちょっと、怖いなぁ。
 
終わり。

解説

語り部が登録したサブスクは見る側ではなく、見られる側である。
なのでお金が振り込まれ、知らない人に声を掛けられるようになった。
つまり、語り部は24時間監視され、それを動画配信されていることになる。

 

コレクター

俺の友人にプロレスマニアがいるんだよね。
プロレスラーの中でも、マスクを被ってる、覆面レスラーっていうのかな?
そういうレスラーが好きなんだってさ。
 
あるとき、そいつの家に遊びに行ったらさ、壁にズラーっとマスクが貼ってあったんだよね。
 
その友人が言うには、そのマスクは全部本物で本人が被ってたものなんだってさ。
手に入れるのに、凄い手間とお金がかかったやつもあって、中には非合法っていうか犯罪になるようなことをして入手したのもあるらしい。
 
それで俺は今なら、ネットオークションとかで売ってることもあると教えてやったんだけど、そうじゃないと怒られた。
本物じゃないと意味がないし、写真とかじゃダメなんだってさ。
 
で、今、狙っているレスラーがいて、色々と調べてるみたい。
そのレスラーの名前を聞いても、全然、聞いたことなくて、ネットで調べてみても記事がほとんどヒットしなかった。
どうやらかなりマイナーなレスラーみたいだ。
 
なんでも、その友人がいうにはその覆面レスラーは徹底してて、普段、家で生活しているときもマスクを被ってるんだってさ。
そういうレスラーの方が燃えるんだよね、と興奮気味に言ってたんだけど、俺はちょっと引いた。
 
だって、それって四六時中付けてるマスクでしょ?
なんていうか、失礼かもしれないけど、色々とキツそう。
 
で、それから数ヶ月後、いきなり親から連絡がきた。
なんでも、親戚の人が事故で亡くなったらしい。
一応、葬儀に顔を出しておきなさいと言われて、渋々、葬式に行った。
 
いや、ビックリしたね。
言ってみると、なんとその親戚っていうのは、友人が言ってた覆面レスラーだった。
 
まさか、自分の親戚にレスラーがいるなんて知らなかった。
 
まあ、一度も会ったことなかったし、当然と言えば当然かもしれないけど。
 
で、不謹慎かもしれないけど、笑ったのが、遺影がマスクを被った写真だった。
何でも、最近の写真はこれしかなかったらしい。
 
葬式が終わった後、ダメ元でその人の親に、マスクを貰えないか言ってみた。
最初は渋ってたけど、熱心なファンがいると伝えたところ、譲ってもらえることになった。
 
数日後、俺は友人にそのマスクを持って行った。
きっと、喜ぶはずだ、と。
 
けど、友人は驚くほどテンションが低くなっていて、「ごめん、いらない」と言われてしまった。

もしかして、生きているレスラーのマスクじゃないとダメなのかと思ったが、以前、見せてもらった部屋に貼っていたマスクの中には亡くなったレスラーのものもあった。
だから、死んでしまったから、というのは違うと思う。
 
あのレスラーが最後まで被ってたマスクなんだから、なおさら価値が上がると思うんだけどな。
 
うーん。コレクターの心はわからん。
 
終わり。

解説

語り部の友人は、価値のありそうなマスクをいらないと言った。
これは集めているのはマスクではなく『素顔』の方なのではないだろうか。
では、友人が言っていた、犯罪のようなことをしたというのは、いったい、何をしたのだろうか?
気になるところである。

 

猫吸い

私は猫を1匹飼っている。
 
家の近くの草むらの中に、生まれてすぐの状態で、段ボールに入れられて捨てられてたのだ。
住んでいる家はペット可のところだったし、一人暮らしで寂しかったこともあり、私は拾って育てることにした。
 
生まれたばかりの猫は弱弱しく、放っておけばすぐ死んでしまうんじゃないかって思った。
だから、一ヶ月くらいはほとんど寝ずに猫の世話をした。
 
そして、私はこの猫に、ももと名前を付けた。
 
2年も経つと、ももはすっかり大人の猫に変貌した。
子供の頃の可愛さはなくなってしまったけど、今は今で本当に可愛い。
あのとき、ももを拾って帰って、本当によかった。
 
今、私の中の流行りが猫吸いである。
 
まあ、猫吸いなんていっても、猫に抱き着いて思い切り臭いを嗅ぐってやつだ。
猫を飼ってる人なら、1度はやったことがあると思う。
なんていうか、あれ、癖になるんだよね。
 
でも、それで最近はちょっと困ったことがある。
 
というのも、2年間も歯を磨いてないからか、毛繕いした後のところを猫吸いするとちょっと臭い。
今度、歯磨きセットを買ってこようかな。
 
あと、そろそろ、家が手狭になってきたかも。
ももは結構、走り回るから今の家だと狭いかも。
外にも出してないからなおさらね。
 
ベッドの上でスマホをしていたら、ももが頭を摺り寄せてきた。
私の中で可愛さが爆発して、思わず抱きしめて、猫吸いをする。
 
うっ!
ももの後頭部が濡れていて臭い。
どうやら毛繕いをした後だったみたいだ。
 
終わり。

解説

猫の体の構造上、自分の後頭部は舐めることはできない。
語り部は一人暮らしをしていると言っているし、ももを外には出していないと言っている。
では、ももの後頭部はいったい、誰が舐めたのだろうか?

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