意味が分かると怖い話 解説付き Part191~200

意味が分かると怖い話

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いわく付きの廃アパート

俺には霊感がない。
だから、幽霊とかそういうオカルトは全く怖くない。
本当に怖いのは人間だということを、俺は知っている。
 
けど、都合がいいことに世の中には事故物件っていうものがある。
その部屋で人が死んだという理由で家賃が安くなるのだそうだ。
 
俺からしたら、なんで?って思っちゃうね。
前の住人が死んだからなに?って感じ。
俺に関係ない奴がどこで死のうと気にする必要はないだろ。
 
だから、俺は事故物件に住んでいる。
家賃が安くていいね。
学生の俺には大助かり。
 
でもさ、それでもやっぱり家賃で万金かかるわけじゃん?
俺なんか、部屋にはホント寝に帰るだけだからさ。
それなのに万金払うのはちょっともったいないって思うわけよ。
 
そしたらさ、見つけたの。
良いところをさ。
 
そこは廃アパートなんだけど、噂によると心霊スポットらしい。
幽霊の目撃情報が多くて、肝試しに行っていなくなった奴もいるみたい。
それも、結構な数。
 
幽霊の目撃情報があまりにも多いのと行方不明になった奴が何人出たみたいで、今では肝試しで来る奴もいないって話。
しかも、その噂はかなり有名で、ホームレスなんかも立ち寄らないんだってさ。
 
警察とかが中に入らないようにって、柵とか作ったらしんだけど、見回りもほとんどしてないんだってさ。
まあ、人が寄り付かない場所なら、見回りもしないのは当然だよね。
 
ってことはさ。
使えるんじゃね?ここ。
 
俺は幽霊とか気にしないし、部屋は寝れればいいから、どんなに古くても気にならない。
しかもここなら家賃もかからないし。
シャワーとかは友達ん家で借りればいいから、問題ない。
 
ってことで、俺はさっそくそこに住むことにした。
 
その廃アパートに行ってみると、意外と綺麗だったことに驚く。
掃除しなきゃと覚悟してたけど、これなら大丈夫そうだ。
 
いつの間にか手についていた赤いペンキを洗面所で洗った後、俺はアパートを後にした。
そして、布団を持ってくる。
寝転がって目を瞑ってみると、本当に静かだ。
 
本当にいい物件を見つけた。
しかも、これでタダなんて、幸運過ぎる。
 
浮いた家賃の金で何買おうか、なんて考えているうちに、俺は眠りについていた。
 
終わり。

解説

元々は幽霊スポットで人がたくさん来ていたはずなのに、部屋の中が綺麗というのは違和感がある。
また、語り部は洗面所で手を洗っているが、水が出るのはおかしい。
つまり、ここには幽霊ではなく『誰か』が住んでいる可能性が高い。
 
さらにこの場所で何人も『失踪者』が出ている。
そして、ここにはホームレスや警察さえも立ち寄らない。
 
語り部は最初に言った通り、『本当に怖いのは人間だということ』を、身をもって体験することになる。

 

メイドインジャパン

ブラジルで暮らしていると、まだまだメイドインジャパンというのは憧れの的のようである。
確かに俺も電化製品はもちろん、食器とか日用品を買うときは帰国して日本で買っている。
そして、意外なところでもメイドインジャパンが人気な分野があって、驚いた記憶がある。
 
俺は貿易会社の現場担当をしている。
いわゆる輸入品のチェックをする仕事だ。
とはいえ、担当しているのはごくごくわずかな品だけだ。
倉庫の端でほそぼそと検品をする日々を送っている。
 
だが逆に言うとあまり注目されないということだ。
つまり、違法なものを通すには良い場所と言えるだろう。
だから俺は地元のギャングと繋がることで、結構なお金を得ているのだ。
 
今日も検品をしていると、品物の奥の方から死体が出てくる。
 
「死体、届いた?」
 
そう言いながら若いギャングがズカズカと倉庫内に入ってくる。
こういういかにもという見た目のやつは、あまり倉庫に入ってきてほしくないのだが。
 
「ちょうど、見つけたところ。これ」
「おー! ちゃんと届いたか。じゃあ、これ、貰ってくな」
「いつも思うんだけど、何に使うんだ?」
「見せしめ」
「なるほど。そいつは何やったんだ?」
「金の持ち逃げ。まあ、この世界じゃよくあることだよ」
 
若いギャングが死体を持ち上げようと近づく。
 
「あー、メイドインジャパンじゃん!」
 
死体は服を着た状態だった。
おそらく日本で買った服なのだろう。
腕時計なんかもしてあった。
 
「いーなー。俺もどうせだったら、メイドインジャパンがいいな」
「……やっぱり、違うのか?」
「そりゃそうだよ。技術力が違うね。綺麗なもんさ。芸術的ってやつ?」
「あー、確かに」
「ホント人気だよ。俺と同じようにどうせなら、メイドインジャパンがいいってやつは多いんだぞ」
「そんなものか? 俺にはさっぱりわからん。それよりさ」
「ん?」
「いつものやつはどうしたんだ?」
「ああ。あいつか。あいつはボスの女に手を出したのが見つかってさ。今頃バラされてるんじゃないかな」
「……なるほど」
「あいつはメイドインブラジルだな」
 
若いギャングはガハハと笑いながら、死体を持って行った。
まったく、笑えない冗談だ。
 
終わり。

解説

若いギャングがどうせだったらメイドインジャパンが「いい」と言っていて、技術力が違う、綺麗なもんさとも言っている。
そして、ボスの女に手を出した男が殺されて「メイドインブラジル」と言っている。
また、語り部は「メイドインジャパンがいい」ことに対して「さっぱりわからない」と返している。
最初に電化製品などは日本で買っていると言っているのに、こういうのはおかしい。
つまり、送られてきた死体は「日本」からで、メイドインジャパンは「死体」のことを指している。
綺麗な状態で殺して送ってきているということになる。
若いギャングはどうせ殺されるなら、日本で殺されたいと言っているのだ。
それに対して、語り部は殺され方を考えていることが「さっぱりわからない」と返したというわけである。
 
さらに若いギャングは「メイドインジャパンが人気」と言っていることから、頻繁に日本で綺麗な死体が「作られている」可能性が高い。

 

左利きの幼馴染

俺には幼馴染がいる。
そいつはすごく不器用で、ちょっと抜けてて、とても泣き虫だ。
 
よく左利きは頭がいいなんて話を聞くけど、あんなのは都市伝説だ。
普通に運動も勉強もダメで、何よりおかしかったのが、俺が左手で書く文字よりも字が下手なところだ。
左利きなんて、あいつの嘘なんじゃないかと疑った。
 
だから俺は幼馴染というよりは保護者に近いような意識を持っていた。
それは大人になってからも同じで、あいつが仕事で重大なプレゼンを任されたと聞けば、資料作りやプレゼンの練習も手伝った。
 
おそらく、俺がこいつから解放されるのは、こいつが結婚した時だろう。
結婚してからもさすがに面倒は見切れない。
あとは旦那に頑張ってもらおう。
 
だが、あいつはいつまでたっても彼氏を作らなかった。
それは学生の頃もそうで、俺はずっと不思議だった。
 
確かにあいつは不器用で抜けてて泣き虫だが、可愛いと思う。
愛嬌だってある。
言い寄る男はいくらでもいそうな気がするのに。
 
そんなことを考えていたときだった。
いきなりある事件が起こる。
それはあいつがある精神病にかかってしまった。
 
解離性同一症、つまり二重人格だ。
 
最初はなにかの冗談だと思ったが、会った瞬間、いきなり右の頬を殴られたときは二重の意味で衝撃を覚えた。
あいつが人を殴るなんてことはできないのは知っている。
 
あいつのもう一つの人格の方は、本人とは真逆で乱暴でずる賢い。
すぐに周りの人間を騙そうとしてくる。
 
もちろん、病院にも行ったがなかなか回復には向かっていかない。
医者の言うことでは、その人格が満足すれば、おのずと消えていくものらしい。
だが、もう一つの人格が満足するなんて思えなかった。
 
諦めずに何かいい方法がないかと探していると、あいつが俺にぽつりと言った。
 
「死にたい」
 
俺に迷惑をかけていることをずっと気に病んでいたらしい。
俺は「そんなの今に始まったことじゃない」なんて冗談じみたことを言って慰めた。
だが、それでもあいつは自殺未遂をしてしまった。
 
病院で寝ているあいつを見て、俺は始めてあいつのことを愛していたことに気づいた。
保護者面していたのは、あいつの傍にいたかったからだ。
 
俺はあいつが目覚めたとき、プロポーズをした。
あいつは俺にしがみついてずっと泣いていた。
そして、最後に幸せそうな笑顔を浮かべた。
 
その頃から、あいつのもう一つの人格は徐々に顔を出さなくなっていった。
 
結婚生活も落ち着き、子供が生まれた頃、あいつはポツリと話し出した。
おそらく、二重人格になったのは俺に振り向いてもらえないことが原因だったんじゃないかということだった。
子供の頃からずっとアピールしていたのに、気づいて貰えず、さらに彼氏を作れなんて残酷なことを言われたのが切っ掛けだったんだと思うと笑って話していた。
 
これに関しては反省しかない。
俺自身、あいつへの想いに気づいてなかったくらいだ。
 
さらに、子供が出来てからか、あいつはしっかり者になった気がする。
子供が悪さをしたとき、あいつはコツンと右手でゲンコツをした後、ちゃんと叱っていた。
 
昔のあいつからは信じられないことだ。
昔のあいつなら、どうしていいかわからなくてアタフタしていたことだろう。
 
やっぱり、母は強しといったところだろうか。
 
終わり。

解説

幼馴染は「左利き」だったはずである。
しかし、子供にゲンコツをしたときは「右手」でしている。
さらに、医者は「満足すれば、その人格は消えていく」と言っていた。
そして、幼馴染の望みは「語り部と結ばれること」である。
つまり、語り部がプロポーズしたことで、満足したのは「幼馴染」の方である。
 
以上のことを考えると、消えた人格は幼馴染の方で、語り部と生活しているのは「もう一つの人格」の方である可能性が高い。
また、もう一つの人格の方は「ずる賢く」「人を騙そうとする」性格である。

 

健康マニア

人間ってさ、やっぱり死ぬって言われると本気を出すよね。
長年の不摂生がたたって、心臓病になりペースメーカーを付けるハメになった。
 
そして、医者からはこのままの生活を続ければ、成人病も併発して死ぬと言われたのだ。
俺は35歳。
結婚はおろか、彼女も作らないで死にたくはない。
 
そこで俺は心機一転、生まれ変わったつもりで生活を変えた。
どんなにお金がピンチでも全然止められなかった、酒とタバコをピタッと止められた。
 
やっぱり命がかかってると違うね。
酒とタバコを止めるくらいなら、俺は死ぬね、なんて周りに言ってたけど、死ぬとなれば簡単に止められた。
 
暴飲暴食も止め、あれだけ夜更かしが当たり前の生活だったのに、今はどんなに遅くても夜の12時には就寝している。
 
肉、お菓子、ジャンクフードが大好きだったけど、今は野菜や魚を中心にした食生活に変えた。
 
いやー、なんていうか、今更だけど野菜も魚も美味しいな。
なんであんなに毛嫌いしていたのか、今では不思議でならない。
 
もちろん、肉を一切食べないわけじゃない。
それはそれで不健康だから。
ちゃんと定期的に肉を食べるようにはしている。
食べなくていいなら、食べたくはないんだけどね。
健康のためなら仕方ない。
 
毎日のように食べてたお菓子やジャンクフードも、前に食べたのはいつだったか思い出せないほどだ。
 
そして、なにより変わったのが運動だ。
歩いて5分のところにあるコンビニに行くのも億劫で、ウーバーを使ったこともあったくらい、俺は全く運動をしていなかった。
 
暴飲暴食と運動不足で、俺は正直デブの分類に入っていた。
というより、完全にデブだった。
いつも健康診断では太り過ぎと書かれていた。
 
でも、朝は6時に起きるようになってからは、朝のジョギングと夜のヨガ、休みの日はジムトレーニングとテニスという趣味を見つけた。
あんなに寝つきが悪かったのに、運動すると夜は布団に入ったら3分くらいで寝られる。
あとは、なんといっても体を動かしたときの爽快感がいいよね。
本当に癖になる。
 
そのおかげか、俺の体脂肪率は30%オーバーだったのが13%になった。
いわゆる細マッチョってやつだ。
で、その頃になるとなんと、念願の彼女もできた。
 
俺は周りから健康マニアと呼ばれるようになったけど、自分ではマニアってほどじゃないと思ってる。
 
ただ、食べ物は天然素材にこだわって、早寝早起き、運動に気を使っているだけだ。
まあ、健康にいい温泉があれば行くし、新しいサプリメントが出たらとりあえず使ってみるけど、これくらいは趣味の範囲内だろう。
 
あとは最近ハマってるのが低周波治療器。
あれはいいね。
血行が凄く良くなる。
 
まあ、これは俺の気分の問題だけど。
 
とにかく俺は健康を気にし始めてから人生が変わった。
本当に楽しくなった。
医者に死ぬって脅されて、本当に良かったと思う。
 
さてと、今日も寝る前に体重計に乗る。
 
体脂肪率13%。
うん。今日もまずまずだ。
ホント、健康っていうのは気分がいいね。
 
終わり。

解説

語り部は『ペースメーカー』を付けている。
そして、ペースメーカーは『低周波治療器』と『体脂肪計』は禁忌とされている。
語り部は健康に気を使っているが、実は一番危険な行為をしていることになる。
語り部は近いうちにペースメーカ―に誤作動が起こり、死んでしまうかもしれない。

 

後ろにいる

久しぶりの連休で、家でゆっくりと過ごしていた女のところに、電話がかかってきた。
それは親からで、ぎっくり腰になってしまったから、家に来て欲しいというものだった。
 
時間は夜の10時過ぎ。
車で向かって2時間近く。
実家に着くころには深夜の12時くらいになってしまう。
 
こんな遅い時間に外に出るのは嫌だったが、明日も休みだし、実家には3年以上帰っていかなかったということもあり、重い腰を上げた。
 
サッと着替えて、車へ向かう。
すると後部座席に、友人から預かっているチャイルドシートと赤ちゃん用品が積んである。
一瞬、家の中に入れようかと考えたが、休み明けには返すのでそのまま車で走り出した。
 
女の家は町からやや離れたところにあるので、道にも街灯が少なくて暗い。
いつもよりも不気味な感じがした。
 
女はなんとなく、音楽ではなくラジオを付けた。
音楽よりも人の声が聞きたかったのかもしれない。
 
だが、女はすぐにラジオを付けたことを後悔した。
ラジオで殺人事件のニュースが流れていたからだ。
 
女性を狙った連続殺人事件。
被害者は全て後ろからナイフで刺されて殺されているのだという。
そして、なによりも嫌だったのが、事件が起こっているのが住んでいる地域だったからだ。
 
こんなニュースを聞くと、防犯のためにスタンガンを買っておいたことが正解だったと思える。
友人には大げさだと言われたが、備えをしておくことに越したことはない。
運転しながら、片手でカバンの中にあるスタンガンを確認する。

そして、ラジオから音楽に切り替え、運転に集中する。
だが、こんなときに限って、ガソリンが少なくなっていることに気づく。
途中でガソリンが切れて立ち往生になったら最悪だと考えて、ガソリンスタンドを探す。
 
すぐに見つけることができたが、そこはセルフで、自分でガソリンを入れなければならない。
なるべく車からは降りたくない。
女は殺人犯が後ろから襲うというのを思い出した。
 
人気のないセルフのガソリンスタンドは避けよう。
そう思って、他にガソリンスタンドを探す。
郊外ということと遅い時間ということで、他に客がいるガソリンスタンドが見当たらない。
 
どうしようかと考えていると、珍しく、スタッフがガソリンを入れてくれるスタンドを見つけた。
これで車から降りなくて済む。
 
女はそのガソリンスタンドに寄った。
すぐに男性スタッフが駆け寄ってくる。
窓を開けて、レギュラー満タンでと告げる。
 
すると男性スタッフは車のライトが割れていると言い、会員になれば無料で直すと言ってきた。
車を降りたくなかった女は、その提案を断った。
すると男性スタッフは会員になってくれれば、今回のガソリン代も無料にすると言い出す。
 
それでも女が渋ると、男性スタッフはノルマに達してなくてピンチなんですと何度も頭を下げてきた。
そして、ポイントも3000円分付けるとまで言ってくる。
 
ライト、今回のガソリン代、3000円分のポイント。
女にとっては実に美味しい条件だった。
 
カバンの中のスタンガンを確認しつつ、男性スタッフと共に事務所へと向かう。
 
女が事務所に入った瞬間、男性スタッフは鍵を閉めた。
女は血の気が引いたが、カバンの中のスタンガンのスイッチを入れていつでも取り出せる準備をする。
 
だが、男性スタッフは安堵のため息をついた。
 
「危なかったですよ」
「え?」
「……後ろに男の人が潜んでましたよ」
 
女の頭の中にラジオの事件のことが思い出される。
被害者は後ろから刺されているとのことだ。
おそらく、潜んでいて、後ろから刺していたんだろう。
 
「とにかく、すぐに警察に連絡してください」
「わ、わかりました」
 
女は握っていたスタンガンを離し、スマホをカバンから取り出した。
 
終わり。

解説

女が乗っていた車の後部座席にはチャイルドシートや荷物が置いてあったはずで、男が忍び込める空間はないはずである。
さらに、一度、後部座席を見ているので、誰かが潜んでいればそのときに気づくはず。
そして、女はガソリンスタンドに寄るまで、一度も車を停めていないので、途中で男が入ってくる可能性はない。
つまり、ガソリンスタンドの男性スタッフが嘘をついていることになる。
また、警察への連絡を女に任せるのも、考えてみるとおかしい。
事務所には電話があるはずなので、スタッフが連絡するのが自然である。

 

人工知能

最近はAIの技術も格段に進歩してきている。
AIは計算やパターンから選ぶことなど、人間の苦手な部分を超えた存在となった。
しかし、まだまだ人間的な感情を作り出すことが難しい状況となっている。
 
そんな中、男は人間と同じような感情を持ったAIの研究に没頭していた。
様々な人間からアンケートを取り、それを覚えさせたり、AIに様々なことを教えたりしてAIの性能を上げていった。
 
しかし、結局は覚えさせたものから選ぶというもので、AIが自ら何かを創作することはできなかった。
男は意地になって、十数年も研究に没頭したが全く良い結果が得られなかった。
 
そこで男はあることを思い付いた。
そして、男はある場所に引きこもり、その研究に打ち込んだ。
 
それからさらに数年後。
男は感情を持ったAIを完成させた。
 
だが、そのAIの知能はまだ低く、5歳児程度の知能しか持ち合わせていない。
このAIの凄いことは自らが考え、新しいものを生み出すというものだった。
想像で絵を描いたり、質問に対して、突飛な答えを出したりなど、今までのAIとは革新的に違っていた。
 
そのAI自体は別の場所にあり、そのAIがある場所にアクセスして会話をするという形式を取っている。
ある国の研究所は、実際にAIの本体を見たいと言ってきたが、男はずっと秘密にしていた。
 
最初は様々な人間の興味を引いていたが、AIの知能的な成長が遅いことと、計算など本来AIが得意とする分野が不得意などもあり、徐々に、男が開発したAIのことは世間から忘れられていった。
 
そして、その頃から男は深く悩むようになった。
AIの本体がある場所に閉じこもり、ずっとAIと会話をする日々。
 
やがて男は年を取り、死んでしまう。
それから数年後。
男が開発したAIは後を追うようにして死んだ。
 
終わり。

解説

AIは機械のはずなので、『死んだ』という表現はおかしい。
また、このAIは普通のAIよりも成長速度が遅く、計算なども不得意だった。
さらに、この男はAIの本体がある場所を決して教えようとしなかった。
このことから、男は「人間の脳を取り出して」機械と結合させる形でAIを作り出していたということになる。

 

不動産

男は不動産会社に勤めていて、社内でも1、2位を争うほどの優秀な営業マンだった。
しかし、そんな男が担当している中で、数年間残っている不動産があった。
 
そこは郊外ではあるが、決して悪い場所ではない。
最初は色々な人間が、なぜ売れないかと不思議がっていたが、男自身は特に気にしていないようだったので、そのことを指摘する人間はいなくなった。
 
そんなある日。
一人の老人が男の元へ訪れる。
 
既に天涯孤独になってしまったその老人はある程度の金持ちで、郊外に家を建ててそこでゆっくり余生を過ごしたいと思っていた。
そこで老人はある土地を売って欲しいと言ってきたのだ。
それは、男が担当している、あの売れない不動産だった。
 
だが、男はここの土地は売れないと言い、違う土地を紹介した。
確かに男が進めてくる土地は魅力的な場所が多かったが、老人は一度断られたことで、逆にその土地に興味を持つ。
 
老人は持ち主の希望の2倍を出すと持ち掛けるが、男は持ち主に確認も取らずに断ってしまう。
 
だが、老人の気持ちは『気になる』から『疑惑』に変化する。
そこで老人は一度、その不動産を後にした。
 
老人はその土地の所有者を調べ、なんと不動産会社を通さずに持ち主に会いに行った。
 
次の日。
老人は再び、不動産会社に行く。
そこで、男に対して「持ち主から売って貰える許可を得た」と言って、詰め寄った。
 
男は「わかりました」と言い、不動産を買うための書類が必要だという。
すると老人は既に全ての書類を作成していた。
 
男は老人にその土地を売った。
 
そして、それから数年が経つ。
しかし、その土地に新しい家は経っていない。
 
終わり。

解説

老人は新しい家を買うために土地を買ったはずである。
それなのに家を建てていないのはおかしい。
これは老人が「家が必要なくなった」と考えると納得できる。
では、なぜ、家が必要なくなったのか。
それは老人が死んでいるからである。
 
不動産の営業マンである男はその土地に人に見つかってはいけないものを埋めた。
なので、誰かに買われることは避けなければならない。
そこで、『天涯孤独』である老人に権利を売った後、殺害し、この土地に埋めた。
これでこの土地は『売りには出されていないことになる』ので、もう誰かに買われる心配はなくなったというわけである。

 

悪魔の所業

ホント、人間って奴は脆くて愚かでどうしようもない存在だよ。
 
ついこの間も、いきなり俺を呼びつけておいて、命令するんだぜ?
アホかよ、と思ったね。
この俺に命令って、なんなんだよ。
 
呼び出されたら命令を聞かなきゃならないなんて、誰が決めたんだ?
 
……まあ、いいか。
 
で、なにを命令するのかと思っていたら、魔術を教えてくれってさ。
面倒くせぇって思ったけど、生贄をくれたからしょうがなく、教えてやったよ。
 
けどさ、全然、できねえの。
こっちはちゃんと教えてやったんだぜ?
 
そしたらさ、癇癪起こしたようにちゃんと手取り足取り教えろって。
 
仕方なく、言う通りにしてやったよ。
まあ、こっちは数人の生贄を貰ったからさ。
貰った分は返さないといけないだろ?
俺ってホント、優しいよな。
 
けどさ、そいつ、苦しみだして死にやがったの。
一体、なんなんだよ、って思ったね。
 
ホント、人間って奴は脆くて愚かでどうしようもない存在だよ。
 
終わり。

解説

語り部の悪魔は文字通り、呼び出した人間の「手」を捥ぎ「取り」、「足」を捥ぎ「取った」わけである。

 

動物園の人気者

あるテレビ番組でジャングルを探検するという、ドキュメントが放送された。
その中で、タレントは親とはぐれたらしき、赤ちゃんのチンパンジーを保護した。
視聴者から、そのチンパンジーが可愛いとコメントが数多く寄せられる。
 
そこでテレビ局はこのチンパンジーをタレント化しようと考えた。
そして、世話係には新人の飼育員を充てるなどをして、その新人飼育員の奮闘記として番組で放送した。
 
瞬く間にチンパンジーと飼育員は大人気となった。
 
連日、そのチンパンジーを飼育している動物園に大勢の客が訪れる。
その客たちの前で、飼育員とチンパンジーは芸を見せて、大いに観客を沸かせていた。
 
世間ではそのチンパンジーと飼育員がまるで兄弟のようだと持て囃す。
テレビ局も動物園も、そのチンパンジーが金の生る木として、とても大切に扱っていた。
飼育する場所も餌も良い物が与えられ、悪さをしてもあまり怒るようなことはしなかった。
 
だが、その人気も10年も経てば陰りが見えてくる。
商品としての価値が下がってきたチンパンジーに対して、テレビ局は引退させようと考えた。
そして、最後の一稼ぎとして、ものすごい芸を仕込んで欲しいと飼育員に注文を付ける。
 
しかし、この頃になるとチンパンジーは飼育員の言うことをあまり聞かなくなってきていた。
それどころか、時折、攻撃してくる始末だ。
 
テレビ局の期待も背負っていた飼育員は苦悩する。
どうしてもチンパンジーが言うことを聞いてくれない。
そんなことを友人に愚痴っていた。
 
その友人が、優しすぎるからだと言う。
きっと、そのチンパンジーに舐められているから言うことを聞かないのだと。
 
飼育員は確かにと思った。
考えてみれば、そのチンパンジーはずっと甘やかされて育ってきた。
ここいらでガツンと教育するのも悪くないのかもしれない。
 
次の日、調教用の棒と鞭を持って、チンパンジーの元を訪れた。
厳しく調教を施していく飼育員。
 
そして、その日からチンパンジーは飼育員に逆らうことは全くなくなった。
 
それから数ヶ月後。
動物園に新しいチンパンジーと飼育員がやってきた。
 
終わり。

解説

もし、調教が成功していたのなら、新しいチンパンジーと『飼育員』がやってくるのはおかしい。
そう考えると調教は失敗したと考えられる。
では、なぜチンパンジーは飼育員に逆らうことは全くなくなったのか。
それは飼育員が『死亡』もしくは『引退せざるを得ないほどの怪我』をしたためである。
つまり、チンパンジーは飼育員を襲ってしまったと考えられる。
その事件を起こしたことで、チンパンジーは処分されてしまい、新たなチンパンジーが動物園にやってきたのである。
 
また、チンパンジーは5歳を過ぎると狂暴になり、人を殺すのも珍しくない。
中には生きた状態で、顔を食いちぎられた人間もいるのだとか。
事件後の飼育員の姿は凄惨なものになっている可能性が高い。

 

ロシアンルーレット

男は高校を卒業してから20年間、ずっと引きこもりをしていた。
働けと言った際に暴力を振るい、暴れまわったことで両親も、男のことは諦めている。
最低限の食事と、月1万円の小遣いだけを渡して、両親は男を見て見ぬ振りを決め込んでいた。
 
だが、そんなある日。
 
男の両親が事故で亡くなってしまう。
数年は両親が残した遺産で食いつないでいたが、両親がいなくなったことで歯止めをかける者がいなくなり、男は散財した。
 
お金がなくなり、完全に追い詰められた男は闇サイトで、ある賭け事をしているのを見つけた。
 
ロシアンルーレット。
銃を順番に引き金を引いていき、弾が出た方が負けという賭け事である。
 
勝てば3億円という破格の値段だ。
だが、参加費は5000万円かかるのだという。
 
男は考えた。
負ければどうせ死ぬんだから、と。
 
5000万を借金し、男はロシアンルーレットに参加した。
 
ロシアンルーレットは1対1で行うもので、7発入りのリボルバーに1発だけ弾が入っている。
それを交互に、自分のこめかみに当てて引き金を引く。
 
男と対戦相手はテーブルを挟んで向かい合う。
そのテーブルの中央には銃が置いてあった。
 
だが、男にとって死というものはどこか他人事で、今もなんとなく自分が勝てると思っている。
だが、対戦相手はそれを見てか、薄く笑った。
 
「言っておくけど、これは現実ですよ」
 
対戦相手は中央のテーブルの銃を握ると、男に向って発砲した。
男の耳の横を弾が通過していく。
 
それを感じ、男の夢見心地な気分は一気に醒めた。
汗が大量に噴き出してくる。
 
男が「やっぱり止めたい」と言おうとした時だった。
対戦相手が自分のこめかみに銃を充てて引き金を引く。
 
カチン。
 
空砲の音が部屋に響く。
 
「次は貴方の番です」
 
銃を差し出される。
男は手に取った銃がかなり重いことに驚いた。
 
本物の銃というのはこんなに重い物なのか、と。
それがさらに、男に現実感を与えた。
 
男は震えながら自分のこめかみに銃を充てて、引き金を引いた。
 
カチン。
 
空砲だった。
安堵感が男を包む。
 
――しかし。
 
カチン。
 
またも対戦相手の銃は空砲だった。
 
カチン。
カチン。
 
お互い、空砲になり、再び男の番になる。
6発目。
ついに2分の1の確率になってしまった。
 
男は決死の思いで、銃をこめかみに当てる。
そして、引き金に指を当てた。
 
だが、そのとき、対戦相手が薄く笑いながらこう言った。
 
「いいんですか? 今なら、もう5000万払えば、賭けを降りることを許しますよ」
 
男は最初、何を言っているのか分からなかった。
2分の1の確率まで来た。
ここで弾が出なければ勝ちだ。
 
自分も対戦相手を追い詰めているはず。
 
そう思った時だった。
男はハッとする。
 
ゲームを開始する前に1発撃っていることに。
 
現在、6発まで撃っていることになるのだ。
つまり、2分の1の確率ではなく、100%弾が出ることになる。
 
男はうな垂れ、追加で5000万を払うことでロシアンルーレットから降りた。
死ぬよりはマシだと。
 
しかし、男はそもそも参加費の5000万を借金している。
追加で払えるわけがなかった。
 
そこで対戦相手は男を捕まえ、臓器を売り払った。
 
結局、男は賭けを降りても死んでしまったのである。
 
終わり。

解説

引き金を引いても、賭けを降りても男は死ぬ運命だったように見える。
だが、それは違う。
 
なぜなら、このリボルバーは7発装弾できるタイプで、『1発』しか弾が入っていない。
そして、その1発は「男を脅すため」に撃ってしまっている。
 
つまり、男が引き金を引いても空砲だったわけである。
 
対戦相手は弾が出ないことを知った上で、賭けを続け、男にプレッシャーをかけて賭けを降ろそうとしていた。

 

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