キノコ

意味が分かると怖い話

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■本編

その男は各地の都市伝説を調べて、書籍にする仕事をしていた。
 
ただ、都市伝説なんてそうそうあるものではない。
すぐにネタを切らしてしまう。
なので、男はいつもアンテナを張り、噂を収集していた。
 
そんなあるとき、男の元に『人間を苗床にしたキノコがある』という話が入って来た。
それはこの世の物とは思えないほど絶品で、食べることができるのは一部の、コネクションを持った大金持ちだけらしい。
 
もちろん、男はキノコの味にも興味があったが、人間を使っているという部分がいかにも都市伝説という感じで、気に入った。
 
すぐに各所から情報を集め、噂の出どころとなった、ある廃村の近くにある山を突き止める。
 
男が山に入ろうとしたところ、一人の老人が声をかけてきた。
その老人は、この山の所有者なのだという。
 
男はカマをかけるつもりで、「この山で、人間の死体からキノコを育ててる人がいる噂がある」と言ってみた。
すると、老人は苦笑いを浮かべて、「ここまで来たのはあなたで5人目です」と返してきた。
 
男は「本当なのか?」と老人を問い詰めると、老人は「一緒に山に入りましょうか」と言い出した。
 
男はもちろん承諾した。
噂が本当でも嘘でもいい。
写真の数枚でもあれば、信ぴょう性が増す、そう思ったわけだ。
 
山の中。
老人は色々とキノコや山菜のことを説明してくる。
 
老人は熱心に話すが、男にとってはどうでもいいことだった。
どうせなら、早く噂の真偽を聞きたかった。
 
そんな男の気持ちに気づかず、老人は座り出し、いきなり焚火を始めた。
どこから取り出したのか、老人は串にキノコを刺して焼き始める。
 
男はいら立ち、「そろそろ、噂のことを話してくれませんか?」と言った。
すると、老人は焼いていた、串に刺さったキノコを渡してきた。
 
「これを食べたら全部話すよ」
 
そう、老人に言われたので、男は食べるしかなかった。
恐る恐る口に入れると、そのキノコは、男が今まで食べたことのないような美味さだった。
男は顔を上げて、老人に尋ねる。
 
「これが、噂のキノコですか!?」
 
だが、老人はニコリと笑って、首を左右に振った。
 
「実は……人間を苗床にしたキノコなんてないんだよ」
 
老人が言うには、この辺りはたくさんの山菜やキノコが採れるのだという。
それを狙ってコソコソと山菜やキノコを採りに来る連中がいるらしい。
困った老人は、少しでも来る人間を減らしたくて、噂を流したのだと語った。
 
「だけど、それが逆効果になってしまったみたいだけど」
 
そう言って笑いながら、男の方をじっと見る老人。
 
その目に、ゾクッとした男は「もう帰ります」と言って、山を降りることにした。
 
道中、前を歩いていた老人がいきなり、振り向いてこんなことを言った。
 
「申し訳ない。実はあなたに1つだけ嘘を言っていました」
「嘘、ですか?」
「はい。それは、人間を苗床にしたキノコなんてない、ってところです」
「え? ということは……」
 
男が何か言おうとしたときだった。
男の動きがピタリと止まり、倒れてしまった。
 
終わり。

■解説

老人は1つだけ嘘を言ったということは、それ以外は本当のことということである。
まず、「人間を苗床にしたキノコなんてない」というのが嘘なのだから、人間を苗床にしたキノコは「ある」ことになる。
 
また、老人が男に食べさせたのは、そのキノコではない。
つまり、老人が男に食べさせたのは毒キノコだった。
そのため、男は今まで食べたことがなかったというわけである。
 
この後、男はキノコの苗床にされた可能性が高い。

 

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