意味が分かると怖い話 解説付き Part141~150

意味が分かると怖い話

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海賊

最近、海で海賊が出るらしい。
 
時代錯誤かと思うかもしれないが、海賊というのはどこの時代にも存在する。
ただ、今回、有名になっている海賊は少し変わっていて、誰も知らないというのだ。
 
誰も知らないのに有名というのも変な感じがするのだが、海賊の正体が一切わからないらしい。
どんな人間かいうのはもちろん、海賊の人数、そして、どんな船を使っているのかさえわからないのだという。
 
その原因としては、海賊は捕まえた人間をすべて殺してしまうらしい。
目撃者をすべて始末し、その船のありとあらゆるものを強奪し、あろうことか、その船まで沈めてしまうのだと言われている。
つまり、海賊に襲われた船は何の形跡もなく消えてしまうのだ。
 
普段、海に出ない人間からすると興味がないかもしれないが、私は小さなクルーズ船の船員をしているので、毎日が気が気じゃない。
 
航海中は何人かであたりを監視することは絶対に怠らない。
私が見張りに立つ際は、何もないことを祈りながら監視している。
 
そんな中、一人の監視員が小さな船が漂流しているのを見つけた。
小さいとはいえ、もしかすると例の海賊かもしれない。
船長は細心の注意をしながら、その船に遠くから呼びかける。
 
するとその小さな船の中には3人しかいなかった。
夫婦とその子供が1人。
しかも船にはろくな備品も食べ物も置いていないような状態だった。
 
船長はさすがに海賊ではないだろうと判断して、3人を船に上げた。
 
その夫婦の話では、船で進んでいる途中で、例の海賊船を見かけたのだという。
怖くなって慌てて逃げてきたらしい。
 
船長はすぐに国の会場警備隊に連絡し、夫婦から聞いた、海賊船の位置情報を伝える。
ようやく得た海賊の情報。
国は威信をかけて海賊をとらえるだろう。
 
これでもうこの船は海賊に襲われる心配はなくなった。
クルーズ船の乗客はもちろん、私たち船員も安堵した。
 
危険のない海はこんなにも美しく、壮大なんだと改めて思った。
 
終わり。

解説

誰も見たことがないはずの海賊船を、なぜ夫婦は「海賊船」だとわかったのか。
また、航海している中、食料も備品も積んでいないというのはおかしい。
つまり、この家族を装った3人が海賊だという可能性が高い。
このあと、乗客や船員は全員殺され、船ごと奪われてしまうだろう。

 

リピーター

世の中では毎年、8万人の行方不明者が出ている。
 
もちろん、届け出があれば捜査するが、すべての行方不明者を探すことはできない。
刑事には他にも色々と事件を抱えているのだ。
 
なんとなくの肌感だが、5年くらい前から捜索願が多くなっている気がしていた。
それは数字的に出ているわけじゃなくて、なんか多いな、くらいの感覚だった。
 
捜索願を受け取りながらも、俺は他の事件の捜査で忙しかった。
失踪者だけでなく、事件も多くなっていたんだろう。
毎日毎日、俺はほんとうにヘトヘトになるまで捜査を頑張った。
 
そんな俺にも密かな楽しみがある。
それはあるステーキ屋に行くことだ。
 
安月給の俺からするとかなり厳しい金額だが、それを考慮しても十分通うに値するお店だ。
 
本当に美味しい。
ステーキを食べている間だけはその美味しさに没頭でき、すべてを忘れることができる。
だから、疲れた時はこのお店に行くことにしている。
……というより、このお店がなければ俺はこの忙しさを乗り越えることはできなかっただろう。
 
もちろん、このお店は誰にも教えていない。
1人でこっそりと行っているのだ。
 
このお店に通い続け、店長とも顔見知りになり、すっかり常連となっていた。
そんな中、突然、店長がお店を閉めると言い出した。
 
それを聞いたとき、冗談ではなく、目の前が真っ暗になった。
もう、お店に通えなくなるなんて信じられなかった。
それくらい、俺はそのお店の虜だった。
 
なんとか続けて欲しいと頼んだが、店長は首を横に振った。
 
落ち込んで家に帰る途中、世間は連続殺人犯が捕まったというニュースに沸いていた。
犯人は5年前から犯行を重ねていたようで、さらにはその被害者の死体はほとんど見つかっていないのだという。
 
刑事の俺が言うのはいかがなものかと思うが、そんなニュースはどうでもよかった。
俺にとってはあの店が閉店になる方がよっぽど重要だった。
 
なんとかならないかと考えていたとき、ふとあることが思いついた。
そのことを店長に伝えると、店長は「常連にだけ」という条件で店を開けてくれることを了承してくれた。
 
本当に良かった。
これでこれからもお店に通うことができる。
 
俺は前よりも頻繁に2人でお店に行くようになった。
今日も、俺は一緒にお店に行ってくれる人を探している。
 
終わり。

解説

そのお店で出している肉は人肉。
店長は連続殺人犯から肉を買っていた。
なので、犯人が捕まってしまうと材料が用意できないので閉めると言い出した。
 
語り部は、最初は「1人」でお店に通っていたが、今では「2人」でお店に通っている。
つまり、今度は語り部が「材料」を調達し始めたということになる。

 

私が住んでいたところはかなり田舎だった。
 
高校のときは電車通学で、当時からも電車の利用客は少なかった。
駅で降りるときも、学生しか降りてなくて、学生が下りたら電車にはほとんど乗客は残ってなかった。
 
その当時は電車なんてそんなものだと思っていたから、東京に来た時に地下鉄を見た時はかなり驚いた。
 
そして、乗る人が少ないせいで電車の本数は極端に少なかった。
朝の登校時は10分おきに来たけど、下校時は1時間おきなんていうのはザラだった。
 
でも、私はそんな電車が好きだった。
いや、電車というより駅が好きだったんだと思う。
 
小さい駅で本当に改札しかないような駅。
お店が入っているわけでも、自販機が置いてあるでもない、本当に簡易的な駅だ。
 
なにより私が好きだったのは駅員さんだ。
その駅員さんはいつも明るく挨拶してくれる。
そして、驚くことに学生の名前も覚えていたりする。
おそらく、定期券を見て覚えたんだろう。
下手な学校の先生よりも生徒の顔と名前を憶えていたと思う。
 
中にはそれが怖いという友達もいたけど、私はなんとなく嬉しかった。
学校でも先生にあまり名前を呼ばれることもなかったし、クラスでも地味で存在感がなかった。
だから、駅員さんに名前を憶えてもらったことは、本当にうれしかった記憶がある。
 
あの当時で駅員さんはまだ20代だったと思う。
……今だと30代くらいかな。
 
都会の大学に行くことになったから、最後に駅を使ったのは高校の卒業式のときだ。
最後に、その駅員さんに「卒業おめでとう」と言われたことは、下手をすると高校で一番の思い出かもしれない。
 
大学を卒業し、就職をして毎日を忙しく過ごす中、ある一つの連絡がきた。
 
それは通っていた高校が閉校になるというものだった。
確かに、私が通っていた時からクラスは2クラスだったから、少子化の今ならもうほとんど学生がいなくなっていてもしょうがないだろう。
 
それよりもショックだったことは駅も閉鎖されることだった。
閉校された次の日に閉鎖されるのだという。
確かに学生しか使っていなかった駅だったから、高校が閉校になるなら仕方ないだろう。
でも、それでもショックだった。
 
そして、友達から高校が閉鎖される前に一度、集まらないかという提案があった。
 
私は行くと即答した。
正直、高校よりも駅が閉鎖される前に一度行っておきたいと思っていた。
 
なにもない平凡な高校生活で、少しだけ私に思い出をくれた駅。
私は最後に駅員さんに「お疲れさまでした」と言おうと決めていた。
 
そして、駅が閉鎖される当日。
 
珍しく高校の前の駅で人身事故があったようで、3時間ほど待たされてしまった。
最後だというのに、なんとも締まらない。
まあ、私らしいといえば私らしいけど。

長く待たされたのち、私は10年以上ぶりに駅に降り立った。
ホント、なにも変わっていなかった。
 
一気に当時の記憶が思い出される。
もう少し感傷に浸りたかったが、辺りも暗くなり始めている。
 
私は用意した小さな花束を持って改札へと向かった。
「長年、お疲れさまでした」
それを言うためだ。
 
だが、駅には乗客はおろか、あの駅員もいない。
 
私は大きくため息をついた。
 
そっか。
あまり使われていない駅だったから無人駅になってしまったのかもしれない。
それに、あの駅員が10年以上もこの駅にいるとも限らなかったということにも気づいた。
 
私は虚無感に包まれながら、帰りの電車が来るまでの1時間を駅のベンチに座って過ごした。
 
終わり。

解説

語り部の思い出の駅は「学生以外」は人が降りない。
そして、閉鎖の日はすでに高校は閉校しているので、乗客は誰もいないはずである。
では、この駅で起きた「人身事故」は誰によるものだったのだろうか。
それは「駅員」だった可能性が高い。

 

焼き肉

焼き肉が好きな人は多いと思う。
実際、俺も大好きだ。
 
学生の頃は小遣いを貯めて、友達と食べ放題によく行っていた。
けど、就職して少しはお金が使えるようになってからは、もっぱらバーベキューにハマっている。
 
夏になれば友達を集めてバーベキューをする。
大体、月に1、2回のペースだ。
 
ただ、最近の悩みはバーベキューをする場所がないということ。
適当な川辺でやっていたら、警察を呼ばれたこともあった。
かといって、バーベキューをする場所に行くと金を取られる。
そこに金をかけるくらいなら肉にかけたい。
 
それになんでかしないが、数か所のバーベキュー場では出禁になっている。
ちょっと、うるさくしただけなのに。
お酒を飲んでたら誰だってあれくらい騒ぐと思うんだが。
 
あとは今年の夏は、例の感染症のせいで自粛だか何だかで余計、外でバーベキューをしていると何かと苦情を言われるから、ほとんどできなかった。
ホント、最悪。
 
そんな中、俺はある画期的なアイテムを見つけた。
それは『煙が出ない炭』というものだ。
 
半信半疑で買ってみたんだが、全く出ないというほどではなかったけど、普通の炭と比べると格段に煙は出ない。
これで、屋内でバーベキューができる。
 
俺が借りている借家の一階は車を停めるスペースになっている。
いわゆる車庫になっている状態だ。
だから、車を出してしまえば、そこそこのスペースができる。
ちょっとしたバーベキューをするにはちょうどいい。
 
さっそく、次の休みの日に友達を誘ってバーベキューをすることにした。
ここなら、いくら騒いでも文句は言われないだろう。
 
肉と酒をたくさん用意し、バーベキューを開始する。
久しぶりのバーベキューに友達も喜んでいた。
 
肉を食って酒を飲んで、いい感じになってきたときだった。
友達の一人が寒いと言い出した。
 
見ると入り口のシャッターが少し開いている。
シャッターや開いている隙間を閉めて、またバーベキューを楽しむ。
明日も休みだから、今日は夜通し騒ぐつもりだ。
 
よし、来月もまたやろう。
 
終わり。

解説

開いている隙間を塞いでしまったため、その密室状態になっている。
このままでは語り部はもちろん、その場にいる友人たちも一酸化炭素中毒になってしまう。
そして、全員、酔っているので異変に気付かない可能性が高い。

 

年中無休

僕の町には小さくて古い駄菓子屋さんがある。
 
お父さんが言うには今どき、駄菓子屋さんというのは珍しいらしい。
だから、子供だけじゃなくて、大人もその駄菓子屋さんに結構、来ているのだ。
 
駄菓子屋さんに行ったときに、誰かのおじさんが来ていたらラッキー。
そのときはおじさんに駄菓子を奢ってもらえるからだ。
 
その駄菓子屋さんはおじいさんが一人でやっている。
ビックリするのが、いつでも駄菓子屋さんが開いていることだ。
 
一番びっくりしたのが、台風の日にコンビニもお休みだったのにこの駄菓子屋さんが開いてたことだ。
そこで僕はおじいさんに、お休みはないの?と聞いてみた。
すると。
 
「私が生きている間は年中無休だよ」
「私は天涯孤独だからね。こうやってお客さんに会うのが一番の楽しみなんだ」
「休むってことは誰にも会えないってことだろう? そんなのはもったいないじゃないか」
 
そう言っておじいさんが笑っていた。
 
よくわからないけど、お客さんに会うのが楽しいらしい。
確かにお店で、子供たちを見てニコニコと笑っている。
 
お父さんも「あの駄菓子屋はコンビニよりも信用できる」なんて言って笑っていた。
 
僕たちからしてもお店がいつでも開いているというのは安心だ。
スーパーなんかだと、行ってみたら休みなんてことも結構ある。
かといって、コンビニだと安いお菓子の種類が少ない。
 
だから、僕たちの中ではお菓子といえば、駄菓子屋さんだと決まっていた。
 
だけど、1日だけ駄菓子屋さんがお休みの日があった。
 
その日は開校記念日で学校がお休みだった。
だから、友達とお菓子を食べながら遊ぼうってことになった。
さっそく駄菓子屋さんに行ってみたら、なんと閉まっていた。
僕は駄菓子屋さんのシャッターが閉まっているのを初めて見た。
 
僕たちは「なんだよ! 年中無休って言ってたじゃん! 嘘つき!」と悪口を言いながらスーパーに行った。
 
次の日。
僕は駄菓子屋さんに行って、謝った。
 
だって、おじいさんは嘘を付いてなかったから。
 
終わり。

解説

おじいさんは「生きている間は」年中無休と言っている。
つまり、「生きていない場合」はお店が休みでも嘘は言ってないことなる。
 
今は駄菓子屋さんはおじいさん以外の人が開いているということなるのだが、おじいさんは天涯孤独と言っている。
駄菓子屋をやっているのは、いったい、何者なのだろうか。

 

カミングアウト

俺には付き合って3ヶ月の彼女がいる。
 
大学のサークルの飲み会で出会い、可愛かったことと酔った勢いで付き合うことになった。
基本的に彼女は優しく、気が利くタイプなのだが、怒るとかなり怖いところと強引な部分が気になっていた。
 
ただ、話も合うし、趣味や嗜好も似ているから彼女と一緒に過ごすのは楽しかった。
何度もデートをしたし、そろそろ……と思っているが、なかなかカードが固い。
 
自然な感じでと思い、泊りで出かけようと言ったがどうも反応が鈍かった。
お預けを食らっている反面、彼女と過ごすのは楽しいということもあり、俺の中では段々と彼女というより、女友達のような感覚になっていった。
 
だけど、それが彼女にも伝わったのか、最近はやたらと彼女アピールをしてくるようになった。
女の子と出かけることはもちろん、男同士の集まりでも行かないで欲しいと言い始めた。
 
……それならさせてくれよと思うが、それは拒否される。
純情なのはいいけど、ほどほどにしてくれ。
 
そんなことが続き、俺は彼女に対して冷めつつあった。
そんなとき、彼女に対してある噂を耳にした。
 
なんでも、彼女が前に付き合った彼氏に危害を加え病院送りにしたのだという。
原因は男側が別れ話を切り出したかららしい。
 
確かに彼女にはそんな部分があった。
一旦、火が付くと止めるのが難しいくらい狂暴になるのだ。
 
しかも執念深いところもある。
その前の彼氏も病院送りにしたのに、その後、しばらく付きまとってストーカー化したのだという。
 
その話を聞いて、俺は完全に引いた。
彼女に対しての好きという感情も一気に冷めた。
 
だけど、別れ話なんてできるわけがない。
俺もその前の彼氏と同じ道を辿ることは火を見るよりも明らかだった。
 
だから俺は女友達に相談した。
どうやったら、あっちの方から分かれて欲しいと言わせることができるかって。
 
その友達はうんうんと唸って考えていたが、ふと冗談じみた感じでこう言った。
 
「本当はゲイなんだってカミングアウトしてみたら?」
 
最初は馬鹿か、と思った。
けど、考えてみればなかなかいい手なんじゃないかと思う。
別れさえすればいいのだ。
 
彼女が他の男を好きになれば、俺のことなんか構わなくなるだろう。
それにゲイだと言えば、ストーカー化することもないはずだ。
 
俺はその案に乗ることにした。
そして、その夜、さっそく彼女を呼び出して俺はゲイだとカミングアウトした。
 
すると彼女は――。
 
「よかった」
 
そう言って微笑んだ。
 
終わり。

解説

彼女は実は男だった。

 

アルバイト

SNSで友達が炎上した。
アカウントからすぐに特定されて、今は精神的に病んで家に引きこもっている。
 
その友達と撮った写真なんかも、私のアカウントでアップしてたりしたから、慌てて友達に繋がるツイートは全部消した。
そんなにフォロワーもいないし、私の方までは飛び火しないだろう。
 
だけど今回のことで、SNSは怖いものだと思い知った。
簡単に個人情報が特定されてしまう。
これからは絶対に個人的なことがバレるようなことはツイートしないように気を付けよう。
 
そんなことを考えているとき、1通のDMが届いた。
 
アルバイトしませんか?
 
いかにも怪しいDMだ。
どう見ても詐欺としか思えない。
 
私はすぐに送ってきたアカウントをブロックしようとした。
だけど、送ってきたのは昔から私をフォローしてくれていて、私のツイートにもよく反応をしてくれたアカウントだった。
 
だから簡単にブロックとするというのは気が引けた。
念のため、DMを開いてみる。
 
アルバイトの内容は「ある物を作る動画を撮ってほしい」というものだった。
その動画は顔や声を出すのではなく、単に作っている手元をスマホで録画するだけらしい。

10分くらいの動画で報酬は1万円。
正直に言って学生の私には喉から手が出るほど欲しい金額だ。
 
でも、詐欺じゃないとは言い切れない。
だから私は詳しい話を聞いてもいいですか?と返した。
 
もし、初期費用がかかるとか言い出したら、すぐにブロックしようと思っていた。
だけど、相手からの返事は初期費用もかからないし、報酬もギフト券で払うとのことだ。
これなら住所や名前などの個人情報も出す必要もない。
なにより、ギフト券のIDをDMで送ってきてくれるから、親にもバレない。
これは美味しいと思った。
 
だから私は、やりますと返した。
 
すると次に用意するもののリストが送られてきた。
マニアックなものばかりで、リストのほとんどを、私は持っていなかった。
 
相手は「ホントはこっちから送ってあげたいんだけど、住所とか教えるのは嫌でしょ?」と送ってきた。
 
そのへんも配慮してくれるのは嬉しかった。
 
そして、すぐにギフト券のIDが送られてきて、「これ、初期費用分。先に送っておくね」と来た。
正直、ここでIDだけもらってブロックすれば、この分は丸々得する。

でも、ここまでしてくれたのは、相手が私を信用してやってくれたということでもある。
私は、相手が悪い人じゃないと思い、最初に疑ってごめんと心の中で謝った。
 
とはいえ、動画は結構急ぎらしく、今日中に撮って欲しいらしい。
なので、リストにあるものはネットで買うんじゃなく、お店に買いに行って欲しいと送られてきた。
 
でも、正直、それがどこに売っているのかが見当もつかない。
それを伝えると、「近くに●●●(店名)ない?」と返ってきた。
 
だけど、私の記憶を探ってみてもそんなお店は思い浮かばない。
それでもなんとか思い出そうとしていると、またDMが来た。
 
「図書館の斜め前にあるんだけど、知らない?」
 
それを見て、ピンと来た。
そう、確かに図書館の斜め前にお店があった。
 
行くことがないだろうと思っていたから気にしていなかったけど、確かにそんな店名だった気がする。
 
すぐにこれから買いに行くと伝えて、家を出た。
言われたものを買いそろえるのに少し時間がかかったが、無事に買い終えて家へと戻る。
 
そして、「買ってきました。次はどうすればいいですか?」とDMを送る。
 
すると、こう返ってきた。
 
「今から説明する」

同時に、家のインターフォンが鳴った。
 
終わり。

解説

語り部の住んでいる街を知らない限り「図書館の斜め前にある」という情報は出てこないはずである。
つまり、相手は語り部がどのあたりに住んでいるかを知っていることになる。
おそらく、友達が炎上して個人情報が特定された際に語り部の情報のアタリもつけていたと思われる。
また、写真もアップしていたことから、顔もバレている可能性が高い。
そして、「今から買いに行く」と来たら、あとはそのお店で張っていれば語り部がやってくる。
さらに帰るところをついていけば、家がわかるということになる。
相手はもう語り部の家の前にいる可能性が高い。

 

ゴーストライター

僕はある出版社の編集をやっているんだけど、入社当時からずっと担当している作家さんがいる。
 
20年前、担当のご挨拶をする際にあったとき、先生が70歳だったことに、当時とても驚いたことを今でも覚えている。
だって、先生はバリバリのお色気路線のラノベ作品を書いていたからだ。
 
僕が担当に着くときにはもう売れっ子作家として安定していて、筆も早く、納期に遅れたこともなかったので、新人の僕に任せるのにちょうどいい作家さんだったのだろう。
 
最初の頃は先生が僕に気を使って、打ち合わせをしてくれていた。
今考えれば、それは打ち合わせというよりも、この業界のことや作家への配慮などを教えてくれていた時間だったと思う。
先生はずっと独身で天涯孤独だったためか、僕のことを息子のように可愛がってくれた。
先生には本当に頭が上がらない。
 
でも3年も経つと僕は仕事にも慣れたし、担当している他の先生のことで忙しくなり、その先生との打ち合わせはほとんどしなくなった。
原稿ができたらメールで送ってもらい、それを僕が読んで直して欲しいところがあれば、電話で伝えるということが続いた。
 
それも数年が経つと、電話さえすることなく、届いた原稿をざっと読んでとりあえず誤字脱字がないか程度を確認して出稿していた。
それくらい先生の作品は安定していて、僕としてもいうことがなかったのだ。
 
まあ、時間がないのと面倒くさいというのも多少はあったんだが。
 
特に担当が変わるなんてタイミングもなかったし、編集長も僕とその先生は上手くやっていると思い込んでいるのか、担当を変えようとはしなかった。
 
だけど、そんなあるとき。
……っていうより、その傾向は数年前から徐々に表れていた。
 
というのも、執筆速度が遅くなったのと、本が売れなくなってきたのだ。
 
僕からするとここまで長く人気を維持している方が凄いと思うのだが、先生はかなり焦っているようだった。
先生の方から出版社の方に来たときは、本当に驚いた。
 
そこで僕は本当に久しぶりに先生と顔を合わせて打ち合わせをした。
その話し合いで見えてきたのは、感性のアップデートが出来ていないということだった。
つまり、古いということだ。
また、小説を書き切る体力もなくなったことにも悩んでいた。
 
それは先生の方から言い出したことで、こればかりはどうしようもないということもわかっているようだ。
 
そこで先生が提案してきたのが、ゴーストライターを充てて欲しいというものだ。
若い作家がネタとキャラクターを作り、それを先生がストーリーとして構築するという流れだ。
 
つまり、若い作家がネタとキャラクターを作り、先生がプロットを作って、そのプロットを元に若い作家が小説を執筆するというものだ。
僕は文体まで変わったらさすがに読者にバレるんじゃないかと思ったが、意外とバレないどころか好評だった。
どうやら、先生の名前であれば読者はすんなりと受け入れてくれるみたいだ。
 
それからはまた本が売れ出し、僕はホッと一安心した。
 
だけどそれから数年後。
突然、先生からゴーストライターと喧嘩別れをしたというメールが届いた。
どうやら作家性が合わないとのことで、クビにしたのだという。
 
またゴーストライターを探さないと、と思っていたが先生はもう一度自分一人でやってみるとメールで返ってきた。
 
僕はまた売り上げが落ちたら考えようと思い、そうしましょうと返した。
 
だけど僕の心配は無用だったみたいで、執筆のペースも本の売れ行きも変わらなかった。
さすが先生だ。
 
そして、またいつも通り、先生から原稿が送られてきて、それを出稿するという流れ作業に落ち着いた。
 
それからしばらくして、僕は遅れながら編集長へと昇進した。
入社して30年。
ここまで短かったような、長かったような。
 
そこで僕は久しぶりに先生に直接挨拶しようと思い、メールを送った。
 
終わり。

解説

最後に語り部が先生に直接会ったのはゴーストライターを付ける前である。
ゴーストライターと喧嘩別れをしたことは「メール」で報告されている。
そして、ゴーストライターではなくなったのに、売り上げは好調のままということは、『内容はゴーストライターの時と変わらない』ということになる。
喧嘩別れでクビになったのは、ゴーストライターではなく先生の方だという可能性が高い。
ゴーストライターは先生の名前を乗っ取って、今も小説を出し続けている。
 
さらに先生は高齢(現在は100歳を超えている)で小説を書き切る体力もなくなったと言っているのに、同じペースで書き続けているのもおかしい。
では、先生はどうなってしまったのか?
天涯孤独な先生はもうこの世にはいないのかもしれない。

また、この後、語り部が直接挨拶に行きたいとメールをしても断られるはずである。

 

終電

今日は会社で新年会があった。
年末は忙しくて、忘年会が出来そうになかったので、新年会にしたというわけだ。
 
仕事も落ち着いたということもあり、俺は会社の忘年会が終わった後、仲のいい同僚と二次会に行った。
忙しさからの解放と、久しぶりのお酒ということで少々飲み過ぎてしまった。
 
帰るとき、同僚にタクシーで帰った方がいいと言われたが、今ならギリギリ終電に間に合う。
それでなくても、二次会で結構、出費したので少しでも金は浮かせたい。
 
俺はヨロヨロとしながらも駅へと向かった。
 
久しぶりの酔いは実に心地よかった。
柱に寄りかかって電車を来るのを待つ。
 
数分が経つと電車がやってきた。
ドアが開くと一気に乗客が電車に乗り込んでいく。
もちろん、俺もその人の波に乗って電車へと乗り込む。
 
ギュウギュウ詰め。
この時間はいつもそうだ。
座れることなんてほとんどない。
 
せっかくの酔いが冷めそうだとイラつきながらつり革を掴む。
重いため息をついて、ふと顔を上げると、あることに気づく。
 
――あ、逆だ。
 
酔っていたことと、いつもと違う駅からだったということもあり、家とは逆の方向の電車に乗ってしまったことに気づく。
 
うわ、最悪……。
 
次の駅で慌てて降りる。
 
はあー、ついてないな。
でも、すぐに気づいたからまだマシか。
これでずっと気づかずに乗ってたらと考えたら、ゾッとする。
 
駅のベンチに座って逆側の電車が来るのを待つ。
 
10分くらいすると電車が到着したので乗り込む。
椅子に座り、ホッと一息をつく。
 
明日が休みでよかった。
これは二日酔いで、明日は動けないだろうな。
 
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
 
終わり。

解説

最初の電車に乗った時に、既に『終電ギリギリ』だったはず。
つまり、既に終電は過ぎてしまったはずである。
そして、語り部は「この時間(終電)」はいつも電車が混んでいると言っている。
なのに、容易に椅子に座れている。
今、語り部が乗っている電車はなんなのか?
それは本来存在していない電車なのかもしれない。

 

連続殺人犯

俺は長年、ある殺人事件を追っている。
被害者に共通点はなくバラバラで、犯行を行う期間も法則性はない。
唯一わかっているのは、同じ凶器を使っているということだけだ。
 
おそらくナイフを使っているようで、刺し傷は独特な形になっている。
その凶器で被害者の心臓を一刺しという犯行だ。
 
既に被害者は2桁に達するというのに、犯人像はもちろん、手がかりさえもつかめない。
上司にはずっと小言を言われ、世間からは警察は無能だと叩かれる。
 
正直、精神的にもキツくて何度も警察を辞めようかと悩んだ。
 
だが、そんなとき俺を支えてくれたのが妻だった。
いつも愚痴を聞いてくれ、事件についての相談にも乗ってくれる。
俺の推理も、うんうんと頷いて聞いてくれるのだ。
これだけで、どんなに癒されたことか。
 
そんな彼女は格闘技をやっていたらしく、囮捜査に協力しようか? なんて冗談も言ってくれた。
 
ただ、冗談だとしてもそれは絶対にやめて欲しい。
いくら格闘技をやっていたからといって、危険ということに変わりはない。
だが、妻は「じゃあ、私もナイフを持っていけば、格闘技をやってる差で勝てるよ」なんてことを言う。
 
妻はわかっていないようだが、武器を持っていても奪われてしまっては逆効果だ。
自分の持っていた武器で刺されて死ぬなんてこともある。
 
だから俺は妻には事件には関わらないで欲しいと言っている。
とはいえ、犯人の手がかりも人物像も、犯行の規則性もわからないので、気を付けようがないとは思うが。
 
とにかく、一刻も早く犯人を捕まえるしかない。
それ以外、この町の脅威は消えることはないのだ。
 
だが、犯人はそんな俺の決意をあざ笑うように犯行を続ける。
いつも警察の裏を突いてくる犯人。
 
捜査員を増やしても一向に状況は変わらない。
俺は日々、苛立ちを募らせていた。
 
そんな中、事件は意外な方向へと動く。
 
なんと、犯人が捕まったのだ。
そして、その被害者は妻だった。
 
妻は何度もナイフで刺され、出血多量で死んだ。
 
そんな犯人はなんと正当防衛だと主張した。
だが、凶器が今までの被害者の傷口と一致したことにより警察はそれを証拠に逮捕した。
 
上層部もこれ以上、事件を長引かせたくないという思惑もあったんだろう。
連続殺人犯が逮捕されたことは全国に大々的に放送された。
 
裁判が行われて、犯人の死刑が確定したことで世間は満足したのか、事件のことを忘れ去っていった。
 
犯人が捕まってから既に5年が経った。
あれから新たに被害者は出ていない。
やはり、あいつが犯人だったのだろう。
 
唯一、心残りがあるとするなら、もう少し早く逮捕していれば妻を失うことはなかったということだ。
妻を亡くしたことのショックで虚無感に悩まされ、俺は警察を辞めた。
 
終わり。

解説

連続殺人の本当の犯人は語り部の妻。
犯行を行おうとして、返り討ちに遭ってしまった。
 
今まで連続殺人犯は心臓を一刺しだったのに、そのときは何度も刺されている。
凶器は一緒でも、犯行の方法が異なっている。
また、いつも警察の裏をかかれていたのは、語り部である夫から情報を聞いていたからである。
 
新たに被害者が出ないのは、真犯人の語り部の妻が死んでいるので当然である。

 

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