レンタルショップ
うちの近くに、古いレンタルショップがある。
そこは、今流行のサブスクなんかにも絶対入っていないようなアニメ作品ばかりを揃えているせいか、あまり客が入っていなさそうだった。
ただ、俺の好みにモロ刺さりしているから、かなり愛用している。
今はそのショップが潰れないかが心配だ。
そして、今日もそのショップに一週間分のDVDを借りに行く。
俺は少し変わった視聴の仕方をしていて、続き物のアニメ作品でも一気に借りるではなく、週に7種類のアニメを借りて、月曜日にはAという作品、火曜日にはBという作品という感じで、順番に見ていくのだ。
つまり本当のアニメ番組のように見ている。
そんなあるとき、変な奴に嫌がらせをされた。
俺が借りていたアニメの次の巻を全部借りていった奴がいたのだ。
偶然なんてありえない。
だって、7種類全部やられている。
今までそのアニメを借りてたのは俺だけだ。
俺が借りていった巻以外はすべてレンタルされていなかった。
それにいきなり6巻から借りる奴なんてなかなかいないだろ。
これはどう考えても嫌がらせをされたに違いない。
ホント、こんなことして何が面白いんだろうか。
仕方がないので、今回はアニメ映画、つまりは1作で終わる作品を7作品借りることにした。
次の週。
借りられていた巻は全部戻ってきていた。
ホッとして俺は先週の続きを借りようとするが、1作品だけ、先週借りたアニメ映画が前編後編に分かれていたやつがあったので、その後編を借りた。
つまり、いつも通りのシリーズものを6本、アニメ映画の後編を1本を借りたのだ。
早速、家に帰って一本目を見ようと、パッケージを開けると小さなメモが入っていた。
それには「す」と一文字だけ書かれていた。
その時はたいして気にも留めず、メモをパッケージに戻した。
だが、次の日にアニメを見ようとパッケージを開けると同じように「願」と書かれたメモが入っている。
そして、次の日にも、「て」「い」「お」「け」と一文字が書かれたメモが入っていた。
なんだか不気味になって、俺は「お」と「け」のメモを捨ててしまった。
そして、最後の1本を見て、俺はそのアニメを返して、新しく7本のDVDを借りた。
終わり。
解説
語り部が順番にDVDを借りているのを知った人が、語り部に対してのメッセージを残していた。
そのメモの内容は「す」「願」「て」「い」「お」「け」である。
それを並べると「お」「願」「い」「す」「け」「て」となる。
そして、語り部は1本だけ、いつもの流れとは違い、「後編」の映画を借りている。
つまり、1本だけいつもの流れのアニメを借りていないことになる。
おそらく、その借りていないアニメのパッケージには「た」が入っている可能性が高い。
スパイ
男はスパイをしている。
今回は中国のマフィアのところへ入り込み、情報を収集するという任務だった。
男は日本人だったが、中国人の血も入っているため、中国人として侵入できると想定して、選ばれたのだ。
そこで男はマフィアのボスの娘に取り入り、ボスに気に入られることに成功した。
そして、ついにボスと娘の3人で食事をすることになった。
男はボスが料理に手を出すまで決して、手を付けなかったし、料理を取り分けるときも自分の箸を使った。
汁ものや麺を食べるときも音を立てなかったし、お皿に口を付けたりもしなかった。
当然、料理をすべて食べきることもせず、ちゃんと残した。
そして、いざ、食事が終ろうとしていたとき、突然、男は腹痛に襲われた。
ボスに謝罪をしてトイレへと駆け込んだ。
とても綺麗なトイレ。
トイレットペーパーも新品だった。
男は個室トイレと言うこともあり、思わず、一息をついた。
だがトイレを流すと同時に、すぐに気を引き締めた。
その日は円満にボスと別れた。
しかし、数日後。
男は変死体として発見された。
終わり。
解説
男は中国人ではないとボスにバレたため、殺された。
中国ではトイレットペーパーをトイレに流さず、ゴミ箱に捨てることが一般的。
元々、男は怪しまれていたので、そこでバレてしまった。
腹が痛くなったのも、ボスの仕業である。
身代金
ある資産家の男がいた。
男は金儲けばかりに執着し、家族を顧みずに仕事に専念していた。
そんなある日、息子が誘拐されたと警察から連絡が入った。
身代金の要求は1億円。
男は犯人と交渉はせずに、一方的に、「息子をすぐに返せば2億円払う」と言って電話を切った。
犯人は男の息子をすぐに返した。
男は約束通りに2億円を払ったが、すぐに絶望することになった。
終わり。
解説
息子は『死体』となって『返って』きた。
ハンターゲーム
男は昔、ハンターゲームに参加したことがあった。
ハンターゲームとは人間が人間を撃ち殺すというゲームである。
男はそのときに味わった、人間を撃ち殺すという背徳感に快感を覚え、また参加したいと思っていた。
だが、ハンターゲームは参加料がかなりの高額であることと、滅多に行われないと、そしてかなりの人気ということもあり、なかなか男が参加できる順番が回ってこない。
男はハンターゲームが行われるという情報を掴むと、毎回参加の申請を出していた。
しかし、やはり参加ができず、20年が過ぎていった。
長年の我慢が限界に達し、男は捕まってもいいという覚悟で、銃を買い揃えた。
そして、実行予定日の3日前。
男の元にハンターゲームへの参加が決まった通知が届いた。
男は歓喜した。
これで罪を犯さずに人を殺せると。
だが、男はハンターゲームが始まると絶望に包まれた。
終わり。
解説
男はハンターゲームに、撃ち殺される側として参加することになった。
番犬
男の家では番犬を飼っていた。
その犬は家族以外の人間に酷く吠えることもあり、近隣の人たちに評判が悪かった。
通りかかるだけで吠えられ、声を上げて驚く人も多い。
なので、近隣の住人はその家の前を極力通らないようにしていた。
そんな悪い噂も、男の耳には入らなかった。
なぜなら、男はIT企業の社長をしていて、仕事で忙しくてあまり家に帰っていなかったからだ。
だから、いつも男の妻が周りから嫌味を言われることに心を痛めて、家に引きこもるようになった。
男と妻の間には3歳の息子がいたが、妻が家に引きこもってることもあり、息子もほとんど外に出ることがなかった。
そんな中、男の一家に強盗が入り、一家が皆殺しにされた。
妻と子供は何度も刺されていて、男は首を切られて絶命していた。
警察の調べでは、犯人は庭からの窓から侵入して妻と子供を殺してから、家の中を漁り、そして最後の男を殺したようだった。
しかし、犯人が金目の物を取った形跡はなかった。
というより、取る物がなかったようだった。
そして、何より不思議だったのが、一家が襲われた際に番犬の犬の吠える声を隣人は誰も聞いていないということだった。
終わり。
解説
番犬は『家族以外』の人間に吠えるということから、犯人はその家族ということになる。
先に妻が殺害されているということから、犯人は男と言うことになる。
つまり、男は無理心中を図った。
IT会社の社長なのに、忙しさで家に帰れないところと、家に盗む物がないというところから、男の会社は倒産寸前だった可能性が高い。
脳
男は生まれつき、物凄い幸運の持ち主だった。
欲しいと思った物はすべて手に入ったし、こうなって欲しいと思ったことは実際に思った通りになる。
誰にでも好かれ、男の悪口を言うような人間は誰もいなかった。
世間では有名人というほどでもなかったが、町ではたまに声を掛けられるほどの人気者。
それでも男は慎ましく生きたいと思っているため、派手なことは起こらないが、決してお金に困るようなことも、トラブルも起きない。
その男はまさに神に愛された男だった。
生まれた時からこうだった男は、それが普通だと思っていた。
しかし、他の人と話したことで、そうではないと知った。
男は考えた。
なぜ、自分だけがこんなにも幸運なのだろうかと。
そこで男はある仮説を立てた。
それを確かめるため、男は手を空に掲げた。
すると、男の手に落雷がある。
しかし、男は生きていた。
男はやっぱりかとつぶやき、そして、自ら命を絶った。
それを見た研究者は、「またか」とため息をついた。
終わり。
解説
男は脳だけの状態で生きていて、研究の対象とされていた。
全てが思い通りになるのは、男が作り出した世界のためだった。
悪魔の貯金箱
少年はこらえ性のない性格だった。
お小遣いをもらっても、3日後には全て使い切ってしまう。
お小遣いを貰う前は色々と計画を立てて、お金を貯めようとするが、どうやっても上手くいかない。
そんなときだった。
少年の前に一人の悪魔が現れた。
悪魔は少年に特別な貯金箱を差し出す。
その貯金箱は条件を達成すれば、無限にお金が出てくるようになる魔法の貯金箱だと悪魔は言った。
その条件とは2つあり、1つは毎日1円を必ず入れること。
もう1つは決して貯金箱を開けないこと、だった。
ただし、途中で条件を破ってしまうと今まで入れた分のお金は戻ってこないのだという。
少年はそんな簡単な条件ならクリアできると考え、悪魔から貯金箱を受け取った。
それから少年の、1日1円の貯金生活が始まる。
お金が足りなくて、途中で何度も開けようとしたが、「途中で条件を破ってしまうと今まで入れたお金が戻って来ない」と言われていたため、我慢できた。
結局、開けてもお金が無くなっているのなら意味がないからだ。
いつしか少年は貯金箱を開けようとさえ思わなくなった。
そして、その貯金は今でも続いている。
終わり。
解説
「いつまで」という期限が提示されていないため、少年は1日1円、ずっと悪魔に搾取し続けられることになる。
そして、途中で止めても、貯金箱を開けても、結局は今まで入れてきたお金は戻らないので、少年は損をし続けることになる。
陪審員
ある日、突然、郵便受けにある封筒が届いた。
それは陪審員制度のもので、私が陪審員に選ばれたということだった。
珍しい機会なので、私は参加することにした。
受け持った事件は強盗殺人。
一人暮らしの女性の家に押し入り、女性を襲ったのちに殺害、金品を奪って逃走という内容だった。
被害者の女性は、ちょうど私と同じ年だった。
私は犯人に物凄い憎悪を抱いたことは、今でも覚えている。
犯人にアリバイはなく、動機も状況証拠もそろっているようだった。
争点になったのは2つ。
凶器と女性を襲ったかどうかだった。
犯人は被害者と顔見知りであり、密かに思いを寄せていたのだという。
遺体の服は脱がされてはいたが、犯人の体液等は一切付着していなかった。
そして、凶器はアイスピックのようなものとされていたが、凶器自体は見つかっていない。
犯人は全否定して無罪を主張していた。
私はありえないと思った。
襲ったかどうかや凶器が何だとか、どうでもいい。
だって、被害者は亡くなっているんだから。
私は必死に他の陪審員を説得した。
そのかいあって、犯人の男は有罪となり、死刑判決が言い渡された。
それから数年後。
私はこのことをすっかり忘れていた。
仕事に追われ、それどころではなかったのだ。
週末。
次の日が休みということもあって、居酒屋に寄った。
私は雑多な居酒屋の雰囲気が好きなので、時々、こうして飲みに行くのである。
お酒が進んでいる中、ふと、テレビで私が掛け持った事件の犯人が死刑執行されたニュースが流れていた。
それを見て、つい、私は「あ、あの人、死刑執行されたんだ。よかった」とつぶやいてしまった。
すると、隣にいた女性が不思議そうにこちらを見てきた。
そこで私は、陪審員をやったことを話した。
珍しい体験なので、その女性も結構、私の話に食いついてきた。
「この事件って、押し入り強盗ですよね?」
「そうですそうです。被害者が私と同じ年で……」
「ひどい男ですよね。ドライバーで刺し殺すなんて。捕まってよかったですよ」
「私も有罪にできて、ホッとしました」
その女性とは意気投合して、結構な時間、一緒にお酒を飲んだ。
私は久しぶりに楽しい時間を過ごせた。
終わり。
解説
居酒屋で会った女性は、なぜか凶器が「ドライバー」と知っている。
そして、事件の内容では、女性の服は脱がされていたが、体液等は一切なかった。
つまり、犯人は男性ではなく、居酒屋で出会った女性になる。
語り部は無実の男性を有罪にし、死刑に追い込んでしまった。
工事現場
男は工事現場で働いている。
今日も重機を使っての、建物の解体作業を行う。
いつも細心の注意を払って作業をしているが、事故というものはどうしても起きてしまう。
その日も、重機の操縦には十分な注意をしていたが、吊っていたワイヤーが切れてしまい、鉄骨を落としてしまった。
鉄骨は道路の方へと落下し、辺りには衝突音と悲鳴と鈍い破裂音が響いた。
男は慌てて道路へと様子を見に行く。
辺りは大騒ぎになっていて、道路にはジュースが入ったペットボトルが散乱し、中身もぶちまけられていた。
散らばっていたジュースは配送業者が、急発進したことで荷台から落ちて散らばったらしい。
運転手は当然のように男に対して激怒した。
謝ることしかできなかった男だが、散らばったペットボトルの商品には1つも破損がないということで、穏便に済んだ。
男は安堵し、これからも気を付けようと心に誓った。
終わり。
解説
ペットボトルの商品には1つも破損がなかったのに、「鈍い破裂音」がしたのと「中身がぶちまけられていた」というのはなんだったのか。
つまり、商品には当たらなかったが、「人」に当たった可能性がある。
落下した鉄骨の下には潰れた人間がいるかもしれない。
録画
男はユーチューバーで心霊系の動画をアップしている。
いわゆる、心霊スポットに行って心霊現象が映るかという動画だ。
男が最初にバズったのは、実際に映像に幽霊が映った動画でそこからは何とか食べていけるようにまで再生数が上がった。
しかし、回を重ねる事に、ドンドンと再生数は下がっていく。
なぜなら、何度も実際に幽霊を撮ることはできないからだ。
毎回、煽っては何もなかったという繰り返しの動画にファンも飽きてきていた。
このままではマズイと思った男は、起死回生として、テレビや同じように心霊系のユーチューバーをやっている人間でさえ近づかないと噂される森へと行くことに決めた。
男はその森へ入ると同時に、今まで感じたことのない異質な雰囲気を感じた。
来なければよかったと思う反面、これは何か撮れそうという期待があった。
スマホの録画機能を使って、録画しながら男は森の奥へと進んでいく。
すると後ろからガサガサと草をかき分けるような音が聞こえてきた。
明らかに違うとわかっていたが、男は動物か何かだと思い込むことにして、音が聞こえる方にスマホを向けた。
スマホを向けた途端、音が止む。
男は舌打ちをして、さらに奥へと進む。
また音が聞こえる。
またスマホを音のする方へ向けた。
今度ははっきりと姿が映った。
明らかに野生動物ではなく、人間のような姿をした何かが男の方へと向かってきていた。
男は悲鳴を上げた。
恐怖で力が抜け、思わずスマホを落としてしまう。
それでも男は逃げた。
悲鳴を上げながら、とにかく走った。
もう自分でも森のどこにいるのかわからなくなってしまったが、今は逃げるしかない。
走り続けていた男にも、やがて限界が来て、思わず立ち止まってしまう。
同時にドッと汗が噴き出す。
必死に乱れた呼吸を整えながら耳を澄ませる。
自分を追ってきている音はしない。
男は安堵のため息をついた。
すると、後ろからポンと肩を叩かれた。
ゆっくりと振り向く男。
男は叫び声をあげた。
数日後。
男の家族が捜索願を出し、森に捜査員が入って調査をする。
すると、男の所持していたスマホを見つけた。
捜査員はスマホに録画されている映像があることに気づき、再生する。
……そこには男と、その男を追う何かが映っていた。
男が何かに後ろから肩を叩かれ、振り向く。
そこには鬼のような顔をした何かが立っていて、男の胸から白い煙のようなものを取り出した。
男は悲鳴を上げたかと思うと、すぐにその場に倒れてしまった。
鬼のような顔をした何かは、取り出した白い煙のようなものを食べたのち、スマホの方に向かってニコリと笑顔を浮かべたのだった。
終わり。
解説
男は何者かに追われている「途中」でスマホを落としたはずなのに、「最後まで」映像が残っているのはおかしい。
一体、誰がその映像を録画したのだろうか。