鳴き声

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本編

お盆休みになると、いつも隣町にある山の近くの別荘に行く。
都会から離れて、自然の中でゆっくりすることで日ごろの疲れを癒すのだ。
 
休みの間は人と会わないように、食べ物も買い込んでから別荘にこもる。
別荘にはテレビやパソコンを置かないようにしている。
別荘にいる間はきっちりと都会での生活とは切り離すためだ。
 
前にパソコンを持ち込んだ時は、休みの間中、パソコンと向き合っていて、結局普通の休みと変わらない生活になってしまった。
 
ただ、スマホだけは何かあったときのために持っていく。
だけど、極力開かないようにするのだ。
 
普段はやらない自炊をして、ゆっくりと読書をしたり、自然を眺めたりして過ごす。
意外とこれが飽きない。
ホント、癒されるという感じだ。
 
今回のお盆休みもゆったりとできると思っていたのだが、その期待はあっさりと崩された。
夜、早めに寝ようと布団に入っていると、遠くから悲鳴なような声が聞こえる。
 
慌てて起きて、ドアを開けて外を見る。
すると、一匹の猫が別荘の前にちょこんと座っていた。
 
ああ、なるほど。
こいつの仕業か。
 
そう。猫は発情期になるとまるで悲鳴のような鳴き声をあげるのだ。
最初、その鳴き声を聞いたときは本当にびっくりしたのを思い出す。
 
しかも、その鳴き声は結構、続く。
このままじゃ眠りに付けない。
 
そこで何か餌をあげることで誤魔化そうと、冷蔵庫を開ける。
その間も、遠くから悲鳴のような鳴き声が聞こえてきた。
猫の鳴き声だと知っていても、気持ちいいものではない。
なんとか、猫には黙っていてもらおう。
 
冷蔵庫にはシチューで使った残りの牛乳があった。
本来は普通の牛乳を猫にあげるのはまずいのだが、ここは目を瞑ってもらおう。
 
器に牛乳を入れて、猫に与える。
猫は喜んで、牛乳を飲んでいた。
 
これでしばらくは黙ってくれるかな、と思いもう一度布団に入った。
すぐに眠りにつき、朝までぐっすりと眠れた。
どうやら、牛乳1杯で一晩持ってくれたようだ。
 
長いようで短いお盆休みが終わりに近づき、別荘を後にする。
家に帰って、地域のニュースを見ると30代の男の逮捕のことが報道されていた。
なんでも、その男はストーカーだったらしい。
 
帰ったらこんなニュースか。
思わずため息が出てしまう。
 
やっぱり、自然の中で過ごすのが一番だ。
 
終わり。

■解説

猫の発情期の鳴き声は「悲鳴と似ている」と語り部が言っている。
そして、猫は近くにいるはずなのに「遠くから」聞こえてきていた。
さらに、発情期の鳴き声は長いと言っているのに、2度ほどしか語り部は聞いていない。
また、帰ってきて見たニュースではストーカーの男が逮捕されている。
しかも、そのニュースは「地域」のニュースである。
つまり、語り部が聞いたのは、「悲鳴と似ている猫の鳴き声」ではなく「猫の鳴き声に似た悲鳴」だったということである。
おそらく、ストーカーが殺した女性の悲鳴だったのだろう。

 

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