ミサイルの雨
内戦が続く国に、ある二人の兵士の男がいた。
一人はとても運が良く、最前線の戦場に行っても傷一つ追うことなく戻ってきた。
もう一人はとても運が悪く、僻地の戦場に行っても、必ず傷を負って帰ってきた。
運の良い男は銃弾が飛び交う戦場を走っても、その弾が当たることなく戦果を挙げ続けた。
もう一人は占拠した街のパトロールをしていても、味方の誤射で怪我をする始末。
この二人の噂は瞬く間に軍内部に広がり、一緒に戦わせたらどうなるのか、どっちの運が勝つのかという、冗談のような話が持ち上がった。
しかし、その冗談は現実のものになる。
運の良い男の隊の補充兵として、運の悪い男が入ってきたのだ。
戦争という生と死が隣り合わせの異常な状態の中では、この話は娯楽として軍の中に知れ渡った。
中には賭けをする兵士すら現れたほどだ。
だが、しばらくの間は何事もなく日々が過ぎ去っていった。
そんなある日。
敵が大規模な攻撃を仕掛けてきた。
戦闘機による奇襲で二人の男がいる基地にミサイルの雨が降り注いだ。
その攻撃により、運の良い男は死亡し、運の悪い男は生き残った。
終わり。
解説
ミサイルの雨が降り注いだ基地はほぼ壊滅状態になった。
運の悪い男は生き残ったが、死んだ方がマシと思えるほどの傷を負った。
恋のおまじない
女性は恋をしていた。
生きてきた中で、一番だとはっきりと言えるほど、女性はその男に心底惚れていた。
しかし、何度アタックしても、振り向いてくれないどころか煙たがられてしまう。
それでも女性は諦めきれず、男性を付け回し、ストーカーだと言われてしまう始末。
そんな女性を見た友人が、不憫に思い、ある恋のおまじないを教えることにした。
そのおまじないは、黒魔術に近いもので、効果は絶大だが、おまじないを始めると途中で止めることはできず、失敗すれば永遠に想いを寄せる男性とは結ばれない、危険なものだと友人は忠告した。
だが女性は躊躇することなく、方法を教えて欲しいと友人に告げた。
女性はどんな内容であろうと、絶対に成功させる自信があった。
逆にどんなことを求められても、必ずやり遂げると心に誓った。
女性は友人にその方法を聞く。
初めに想い人の写真を手に入れ、その写真に自分の想いを3日間寝ずに込め続ける。
次に塩で身を清める。
そして、その塩をお酒で洗い流す。
教わった呪文を唱える。
丑の刻にご神木がある神社へ行く。
ご神木に最初に思いを込めた写真を、釘を使って張り付ける。
女性はここまで何の苦も無くやり遂げた。
そして、最後の条件を見る。
おまじないが終わるまで、相手に自分が好きだということをバレてはいけない。
終わり。
解説
女性は想いを寄せる男性に対して、ストーカー行為をして見つかっている。
つまり、この最後の条件が当てはまらないため、このおまじないは失敗である。
また、女性の友人はストーカー行為のことを知った上でおまじないを教えているので、失敗することはあらかじめ知っていたことになる。
丑の刻参り
「近所の神社で丑の刻参りをやってる奴がいるんだってよ」
突然、祐介くんがそう言い出した。
そういえば、お母さんも夜に変な音を聞いたという噂があったと話していた。
そっか。変な音って言うのは、丑の刻参りやってた音だったんだ。
「なあ、今日の夜、そいつを見に行かね?」
祐介くんがとんでもないことを言い出す。
「いや、ダメだよ。丑の刻参りは他人に見られたら呪いは自分に返るって話だよ」
「だからだよ。誰かが呪われてるのを黙って見過ごす気か? それに呪いをやってる奴を退治しないと!」
祐介くんはその人が心配みたいなことを言っているが、単に面白半分でみたいだけなんだろう。
「丑の刻って確か、深夜の1時から3時までだよね? そんな時間に家、出れないよ」
「いやいや。親だって寝てる時間なんだから、出られるだろ」
「……」
「お前、ホント、怖がりだな」
「違うよ! 行くよ!」
怖がりと言われるのが悔しくて、つい、勢いで行くと言ってしまった。
そして、その日の夜。
すごく怖かったが、祐介くんにバカにされるのが嫌で、僕は集合場所に行った。
すると、すでに祐介くんがいて、妙にニコニコしていた。
「おい、こっちこっち! 音してる!」
祐介くんの言った通り、かすかに釘を打つ音が聞こえてくる。
「やってるやってる。行こうぜ。どんな奴がやってるのかなぁ?」
ニコニコしながら祐介くんは神社の中に入っていく。
僕も仕方なく、祐介くんの後をついていくと、音が段々と大きくなる。
「いたっ!」
祐介くんが指差す方向には、白い着物を着て、頭にろうそくをつけた人が、すごい勢いで藁人形に釘を打ち付けていた。
あまりの異様な光景に、さすがの祐介くんも顔を青ざめて震え始めた。
「帰るぞ」
「うん」
祐介くんの言葉に、僕は頷くしかなかった。
そして、その場から逃げようとしたとき、枯れ木を踏んでしまい、パキッと音が響いた。
すると、釘を打つ音がピタリと止んだ。
「見いいいぃいいたああなああああああああああ!」
丑の刻参りをしていた人が振り返り、物凄い勢いでこっちに走ってきた。
僕たちは悲鳴を上げながら全力で逃げた。
追ってきた人は途中で転んだみたいで、僕たちは逃げ切ることに成功した。
だけど……。
「あっ!」
僕はあることに気が付いた。
一気に顔から血の気が引くのが自分でもわかった。
「どうした?」
「名札、落とした」
「お前、なんで名札なんか持ってきたんだよ」
「違うよ。忘れないようにいつもポケットに入れてたんだよ」
このままじゃあの人に、僕のことがバレてしまう。
「ぼ、僕、戻って名札探してくる」
「バカ! 逆に見つかって捕まったらどうするんだよ!」
「でも……」
「大丈夫だって。名札見られたくらいで、どこの誰かなんて絶対にわからないって」
「そうかな?」
少し不安だったけど、確かに戻る方が怖かった。
その日は家に帰って布団に入った。
全然眠れなくて、すぐに朝になった。
学校に行くと祐介くんも眠れなかったみたいで、目の下にクマができている。
僕は名札のことが気になったけど、あえて考えないようにした。
ひたすら、僕だってバレませんようにと祈ることしかできない。
そして、その日。
珍しく担任の先生が学校を休んだ。
元気だけが取り柄の先生だったのに。
終わり。
解説
丑の刻参りをしていたのは、担任の先生。
丑の刻参りを他人に見られたので、呪いが自分に返ってしまった。
また、担任の先生がこの後、無事だった場合、名札で語り部のことがバレてしまう。
流行り病
世界に強力な伝染病が蔓延していた。
その伝染病のせいで、世界の人口の10分の1が亡くなっている。
男は伝染病に恐怖し、少しでも感染のリスクを減らすため、噂程度のことでも取り入れていた。
しかし、周りで1人、また1人と病に掛かっていく人を見るたび、男は恐怖に苛まれた。
そんな中、伝染病の研究が進み、接触感染はもちろん、空気からも感染することがわかった。
さらに、この病気は3ヶ月後には死滅し、消えることも判明する。
そこで男は全ての私財を投げ売って、3カ月間閉じこもることにした。
コンクリートで固めた部屋を用意し、人はもちろん、空気も入って来ないようにする。
3ヶ月後に密閉された空間から出られるように、壁を破壊する機械も、もちろん忘れない。
飲食物やトイレ、そして、3カ月間引きこもっても精神が病まないように、音楽やエンタメも用意した。
そのせいで、男はすべての財産がなくなってしまったが、お金を残して死んでしまっては意味がないと考え、納得する。
準備が整い、男は満足しながらその部屋に引きこもった。
そして、3ヶ月後。
部屋の中で男の死体が発見された。
終わり。
解説
空気も入ってこないようにした為、男は窒息死した。
酸素が薄いことに気づいた時には既に体は思うように動かなくなっていた。
見える少年
その少年は感受性がとても高く、幼いころから他の人が見えないものが見えると言って、周りを驚かせていた。
少年の話では、いわゆる幽霊や妖怪などがはっきりと見えるらしい。
今まで少年は見えることで、なにか危険なことに遭ったということはないが、やはり人に見えないものが見えるというのは、不気味だし、周りにも気味が悪いと言われ続けていた。
だが、少年が高校生になったころ、いわゆる心霊ブームが起こった。
何を見ても、心霊特集がやっていて、周りもそのブームに乗っかり心霊スポットに行くことも多かった。
心霊ブームというのもあり、少年は周りから持て囃された。
幽霊が見えることを羨ましがられ、みんなが危機として、幽霊がどんな姿かを聞いて来る。
今まで気味が悪いと言われていた少年にとって、それは新鮮で嬉しかった。
そんなある日。
少年は友達と、老婆が自殺したという家に、肝試しに行った。
入ってすぐに、少年は苦しそうな顔をする老婆の姿をはっきりと見た。
そのことを友達に告げると、友達は悲鳴を上げて逃げて行ってしまった。
少年は霊を見慣れているので、逃げるということはしなかったが、老婆がどこか悲しそうな表情をしていたことが気になった。
次の日。
少年たちが行った家は、少女が病気で死んだ家だと聞いた。
そこで少年はもう一度、その家に行ってみることにした。
するとそこには、青白い顔をした少女の霊が立っていた。
終わり。
解説
少年は「感受性が高い」ということと、老婆を見た次の日に行くと、少女の霊に変わっていたことで、少年は幽霊が見えていたわけではなく、「思い込みの幻想」を見ていた可能性が高い。
今まで害がなかったことも、裏付けとなっている。
カタログ
男はカタログを見るのが好きだった。
それは買い物が好き、というわけではなく、単にカタログを見るのが好きなのである。
昔はカタログ雑誌などを買いあさっていたが、今ではネット上に色々と転がっている。
カタログを見ているとあっという間に時間が過ぎ、男は1日中カタログを眺めるということも少なくなかった。
だが、そんな男にも当然、飽きというものが出てくる。
服や家電、ゲームソフト、日用品などなど、普通の物では満足できなくなってきた。
世の中、色々な物がある。
こんなものを売るのかと思っていると、それを高額で買い取っていく人もいる。
そんなのを見るのが楽しかった。
また、オークションを眺めて1日が過ぎていくというのを何度も繰り返した。
すると、やはり普通のネットオークションでは飽きて来る。
そこで男はダークウェブに入ることにした。
そこでは本当に色々なもののやり取りが行われていた。
思いつきもしなかったものが高額でやり取りされている。
男は魅了された。
寝る間も惜しんで、ダークウェブ上のオークションを閲覧していた。
そんなあるとき、変わったものがオークションされているのを発見した。
それは人の顔写真が載ったカタログだった。
有名人の顔のものもあれば、全然知らない人間の顔も載っている。
男はなんだろうと思い、タイトルを見ると『人生』と書かれていた。
そこで、先日訃報が伝えられた芸能人の写真の詳細を見ようとした。
だが、既に売れた後のようだった。
次に、全然知らない人の詳細を見てみると金額が表示されているだけだった。
色々と見ているとどうやら、有名人の方が金額が高いということがわかった。
一般の人間でも金額の差があり、若いと高い傾向にあった。
なんなのかはわからなかったが、普通はそうだろうと男は納得する。
だが、男はその後、驚くことになる。
それは自分の顔が載っているのを見つけたからだ。
恐る恐る詳細を開く。
すると金額が書かれていた。
その金額は今まで見てきた中でも低い方だった。
なんとなくイラつきを覚えていると、突然、ソールドアウトになった。
どうやら売れたらしい。
あっと思う間もなく、男は胸に痛みを覚えた。
そして、目の前が暗くなった。
終わり。
解説
そのカタログはタイトル通り、その人の人生が売られていた。
男の残りの人生が買われたということで、男の命が取られてしまったということである。
このオークションは悪魔との取引だったのかもしれない。
人魚の肉
人魚が生息するという伝説がある島。
その島には、昔、人魚を捕まえ、その肉を食べたという人間がいるのだという。
人魚の伝説を聞きつけ、人魚を捕まえようと人間達が殺到し、海の中を荒らしまわった。
海中深くに住む人魚たちは人間達に捕まることはなかったが、人間達が海の生態系を乱したせいで食料がなくなり、人魚たちは絶滅へと向かっていた。
そして、ついに人魚は最後の1人となった。
このままでは死んでしまう。
そう考えた人魚はある人間に頼ることにした。
それは遥か昔、人魚の肉を食べ、不老不死になった男だ。
男は既に人魚の肉を食べて不老不死になっているので、襲われることもないと考えたからだ。
また、男は不老不死ということで、人間の中でも孤立して生きている。
1人という『孤独』というものを、その男なら共感してくれるだろうとも考えた。
そして、人魚は不老不死の男の所へと赴いた。
しかし、男は人魚を見るなり、襲い掛かって人魚を殺してしまった。
終わり。
解説
男は不老不死になり、そのことを誰にも理解されず孤独だった。
だから、男は『不老不死の人間を増やすため』に人魚を殺し、肉をはぎ取ったのだ。
ハト
私が住んでいる町はハトが多いことで有名なんだよね。
中央公園には、無数のハトがいる。
普通は野生のハトに餌をやらないでって言われるところだけど、この町はハトが有名で観光客が来るくらいだから、ハトに餌をやるのは承認されている。
奈良のシカと同じって感じかな。
だから、公園には何個か、ハトの餌を売っている店がある。
ただ、この中央公園にはハトが多いが、実はホームレスも多い。
昼は町の役人がホームレスを追い出すのだけれど、夜になると戻って来る。
だから、昼は普通の、ハトの多い公園だけど、夜になるとハトの代わりにホームレスが点在する公園に早変わりする。
だから、地元の人間は、夜は中央公園には寄り付かない。
あるとき、母が私のところに遊びに来たから、中央公園に連れて行った。
売店でハトの餌を買い、ハトに餌をあげていると、突然ホームレスの一人がハトに交じって餌を拾い始めた。
私と母はドン引きした。
だって、ハトの餌を一心不乱で人間が拾っているのだから。
そのホームレスはガリガリに痩せていて、目が血走っていた。
食べ物が無くて、ついにはハトの餌さえも食べようとしているんだろうか。
とにかく母と私は、速攻でその場を立ち去った。
せっかくの母を案内したのに嫌な思いをさせてしまい、私はバツが悪かった。
それから数日後。
お昼に私が一人で公園を歩いていると、ハトに餌をあげている人がいた。
それはなんと、母と私が餌を撒いていたのを、必死に拾っていたホームレスだった。
食べるために拾ってたんじゃないの?
自分でハトに餌をやりたかったのだろうか?
それにしては、必死過ぎる気もした。
でも、そのときはそう思ったくらいで、そこまで気に掛けなかった。
それから数ヶ月後。
最近、公園のハトが減ったという噂を聞いた。
終わり。
解説
ホームレスはハトの餌を拾い、その餌を使ってハトを捕まえていた。
そして、そのハトを食べていたのである。
コンタクト
ヴァンパイア。
それは人間の血を吸う、伝説上の化物。
赤い瞳は獲物を虜にし、狙われた人間は生きて帰ることはできない。
かなり有名な化物だが、しょせんは伝説上の化物。
俺には関係ない話だと思っていた。
だが、最近、俺の管轄内で血を抜き取られて殺害されるという事件が連続で起こっている。
首には噛まれた痕があり、巷ではヴァンパイアの仕業だと噂になっているのだ。
「くそ! なにが赤いカラコンして、付け牙をしてただけだよ!」
「まあまあ。こういう悪戯をする人間は絶対に出てくるものですよ」
配属されたばかりの新人に諭されると、こっちが子供のように思えてくる。
「それにしても、ヴァンパイアなんて本当にいるんですかね?」
「さあな」
「あ、先輩! あの子供、迷子かもしれません」
「子供? どこだよ?」
「ほら、300メートル先くらいにいる、紺色のシャツを着た子です」
「んん?」
目を凝らしてみても見えない。
仕方ないので、新人が言う方向に行ってみると、本当に迷子らしき子供がいた。
「お前、よく見えたな。コンタクトか?」
「いえ。裸眼ですよ。昔から目だけはいいんです」
「へー」
「先輩もですか?」
「いや、俺はコンタクト」
「……意外ですね」
「なにが?」
「先輩って、面倒くさがりだから、コンタクトなんて面倒なものしなさそうなのに」
「眼鏡がずり落ちるのを直す方が面倒なんだよ」
「先輩、鼻が低いですもんね」
「ほっとけ!」
本当にこの新人はふてぶてしい。
俺のことを先輩と呼ぶくせに、全然、先輩扱いしない。
だが、それでもこいつに対して、嫌な印象を持たないのは、そういう気質なんだろう。
どこに行っても可愛がられるやつっていうのはいるものだ。
無事に子供を保護し、何とか母親と合流させることができた。
青いシャツの男の子は、新人の方を向いて、ありがとうと頭を下げた。
俺にはお礼はないのか、と思ったが大人げないので、言うのは止めた。
親子を見送っていると、ふいに新人が顔を手で押さえた。
「いたっ!」
「どうした?」
「コンタクトが目の裏に入っちゃって」
「はあ……仕方ないな。ほら、目を閉じて、目を動かしてみろ」
「……あ、直りました」
「だろ?」
「ふふ、ありがとうございました!」
こうやって素直にお礼が言えるのも、可愛がられる秘訣なんだろう。
さっき、子供に礼を言われなかったが、新人に礼を言われたのでよしとしておくか。
終わり。
解説
新人は最初、裸眼だと言っていたのに、コンタクトが目の裏に入るのはおかしい。
そして、コンタクトをしていないと嘘を付く理由も特にないはずなのに、なぜ、嘘を付いたのか。
さらに新人は子供のシャツの色を「紺」と言っていたが、実際は「青」だった。
新人は視力の補強の為にコンタクトをしていたのではなく、目の色をごまかすためにつけていた。
青が紺に見えたということは、「黒い」カラーコンタクトをしていたと考えられる。
つまり、新人は赤い目を黒く見せるためにカラーコンタクトをしていた。
新人はヴァンパイアだと考えられる。
田舎の夜
大学の夏休み。
親がうるさいので田舎の実家に帰ることにした。
何もない田舎。
コンビニさえも、車で20分は走らせないといけない。
さらに夜は蚊が多くて、虫刺されも凄くて最悪だった。
そんなイライラを解消するのと、本当に暇だったこともあり、ゲームばかりしてすごしていた。
ゲームにも飽きて、ふと散歩していると、中学時代の同級生と会った。
その子は、当時、実は片思いしていた女の子だ。
久しぶりと言うことで話が弾み、色々とお互いのことを語り合った。
その子は一度は都会に出たらしいが、匂いに敏感になる変な病気になってしまい、耐え切れなくて実家に戻って来たらしい。
戻ってきて大分症状は落ち着いたが、今でも匂いがきついものはダメらしい。
なんと、俺が虫刺されで塗っている薬も、ちょっと苦手だと顔を少しだけしかめていた。
その日はもう遅い時間になったので、帰るということになったが、その子が「明日も会える?」と聞いてきた。
これはチャンスだった。
ただ、明後日には帰ってしまうので実質明日がラストチャンスだ。
明日は、告白して付き合うくらいまで持っていけるかもと考えた。
離れているからこそ、なあなあで付き合ってもらえるかもしれない。
その日の夜は気合いを入れてデートプランを練った。
なにもない田舎だが、それでも二人で行けそうな場所をとことん調べた。
そして布団の中で何度もシミュレーションを繰り返す。
だが、不意に耳元でプーンという蚊の飛ぶ音が聞こえた。
あの子は虫刺されの薬の匂いが苦手と言っていた。
蚊に刺されるわけにはいかない。
母親に虫よけを出して欲しいというと、蚊取り線香しかないと言われた。
古典的だなぁと思いながら、仕方なく、ガンガン蚊取り線香を焚いて寝ることにした。
終わり。
解説
語り部は蚊に刺されず、薬を塗ることはないが蚊取り線香の匂いが染みついているので、女の子に会ってももらえなくなる。