一家団欒

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本編

俺はばあちゃんに頼まれて、あるアパートの管理人をやっている。
ただ、そのアパートは古くて、人は3組くらいしか入っていない。
 
だから、管理人っていっても、ほとんど何かをすることはないのだ。
 
ときどき、水道が壊れたとかいう連絡が来たら業者に連絡するくらい。
それだけだ。
 
俺もそのアパートに住ませてもらっていて家賃はタダだし、月に3万の小遣いをもらえるから、結構、おいしい話なんだよね。
 
アパートの住人とはあんまり話したりしないけど、1組だけ、妙に人当たりの良い男の人が住んでいる部屋がある。
 
その人は家族で住んでいるみたいで、夜になると楽しそうな団欒の声が聞こえてくる。
最初はうるさいな、って思ったりしたけど、子供の笑い声や楽しそうな声は、どこか癒されたりもする。
大体、夜の10時を過ぎたらピタリとその声も止むので、文句をいうこともないかなって思ってる。
 
幸い、他の住人からの苦情も来てないし。
 
それに、頻繁に男の人と会って、声を掛けられて話したりするから、すっかり仲が良くなってしまったから、やっぱり、そういうことは言いづらい。
 
その男の人の話によると、子供はもうすぐ小学生になるらしい。
それと、奥さんが美人で、昔はミスなんちゃらっていうのに選ばれたことがある、なんてノロケも聞かされた。
今度、ぜひ、会ってみたいというと、照れながら紹介しますね、なんて言っていた。
 
さて、どれだけ美人か見てやろうじゃないか。
 
だが、それから3ヶ月が経ったある日のこと。
ばあちゃんから、ある部屋の住人が家賃を滞納していると電話がかかってきたので、住人に話を聞きにいくことになった。
 
なんとその部屋は、あの男の人の一家の部屋だ。
 
チャイムを押してみても、返事がない。
仕方がないから、鍵を使って中に入ってみると、そこはもぬけの空だった。
 
多少の服や、食器などが残されてはいたが、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどの電化製品など、生活必需品はなくなっている。
 
ばあちゃんはきっと夜逃げだと言っていた。
 
俺はそんな人には見えなかったのにと思いながらも、家賃を滞納している上に連絡がつかないんじゃ、夜逃げと言われても仕方ないだろう。
 
とりあえずは残ったものを処分して、清掃業者を入れることになった。
 
子供服や女性ものの服、小さいものや大きい皿、2つの真新しいコップなどなど、意外と物が残されていて、俺はゴミ袋にそれらを放り込んでいく。
 
リビングが終わったので、今度は洗面台に行く。
 
洗面台には歯ブラシが1本だけ残されていた。
 
終わり。

■解説

歯ブラシは必ず家族の人数分、必要なはずである。
ではなぜ、1本しかないのか?
2本だけ持っていくのもおかしい。
ということは、この家では1本しか歯ブラシを使っていなことになる。
また、語り部は男には頻繁に会っているのに、一度も、奥さんや子供には会っていない。
こんなことはあり得るのだろうか。
もしかすると、男は虚栄を張って、一人暮らしなのに家族がいると言っていたのかもしれない。
しかし、語り部がずっと聞いていた、一家団欒の声は一体、なんだったのだろうか。

 

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