心強い遭難者

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本編

慣れない登山なんてやめればよかった。
登山が好きな友達に「山ガールに会えるぞ」なんて言われて、本気にした俺が馬鹿だった。
 
山ガールどころか、登山中、誰ともすれ違いさえしなかった。
俺は山登りなんてほとんどしたことがなかったから、ただただしんどいだけだ。
 
そして、最悪なことに気づいたら友達とはぐれてしまっていた。
俺のペースに合わせてくれればいいのに、友達はスイスイと自分のペースで登っていった。
で、気づいたら遭難していたというオチだ。
 
さらに状況を悪化させたのが、歩き回ったことだ。
その場で待てばよかったのに、友達を追おうと適当に進んでいたら、道すら見当たらなくなった。
遭難したらその場から動くな、というのが鉄則らしいが、もう遅いだろう。
逆にこんなところにいたら、何年かかっても見つけてもらえないだろう。
 
せめて元いた道まで戻れればいいんだが。
 
そんなことを考えていたら、なんと声を掛けられたのだ。

「もしかして、はぐれられたんですか?」
 
声がした方向を振り返ると、20代中盤くらいの女性が立っていた。
装備を見る限り、登り慣れたといった感じだ。
友達の格好と似ている。
 
「そうなんですよ。変にウロウロしてたら、元の道もわからなくなっちゃって」
「ああー、わかります。なんとか、見つけてもらえそうな場所に行こうとしたら、返って迷っちゃうんですよね」
「そう。そうなんです!」
「あははは。私もそうですよ。山道って、素人にはわかりづらいですよね」
「えっと、あなたはなんでこんなところに?」
「え? ああ、実は友達とはぐれてしまって。心配で探してたんですよ」
「そうだったんですか。あの、この山には詳しいんですか?」
「詳しいって程じゃないですけど、もう30回くらいは登ってますかね」
「あの、本当にすみませんが、俺も一緒に着いてっていいですか? 完全に迷っちゃったみたいで」
「もちろんでいいですよ。そう思って声をかけたので」
「ありがとうございます」
 
この後、俺はその女性と一緒に山道を歩いた。
話も弾んで、辛い山道も難なく登れた。
 
「山ガールに会える」と友達が言っていたが、本当に会えたようだ。
こんな出会いがあるなら山登りについてきてよかったと思う。
 
だけど、俺は次の日。
女性に着いていったことを後悔した。
 
終わり。

■解説

女性はこの山に30回ほど登っていると言ったが、詳しいわけではないと言っている。
また、女性は「友達とはぐれて、探している」と言っているだけで、「友達の方が登山ルートから外れた」とは言っていない。
そして、語り部は次の日に「後悔した」と言っていることから、女性は迷った友達を探しているのではなく、「自分が迷ってしまったので、道に詳しい友達を探している」可能性が高い。
つまり、語り部は遭難している女性に着いていってしまったことになる。
語り部と女性はこの後、山を降りれた可能性は低いと言えるだろう。

 

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