■本編
俺が住んでいるところは、田舎も田舎で、遊ぶところもほとんどない。
俺たち男の学生なんかは、娯楽といえばゲームくらいだ。
周りではいつもゲームや漫画の話ばっかり。
女子たちは一体、毎日、何して暇をつぶしているんだろうか。
不思議でならない。
いつも決まった道を通り、学校に行き、家でゲームをする毎日。
そんな刺激のない生活に、俺は飽き飽きしていた。
「レジャー施設とか建たねーかな?」
「いや、ほとんど人がいないのに、建てる意味がないだろ」
そう言って俺の言葉を否定するのは、小学校時代からの友達のYだ。
「なら、観光客とか呼べばいいじゃん」
「呼んでも来ないだろ。本当に何もないんだからさ、この辺りは」
そう。
本当に観光になりそうなものはなにもないのだ、この町は。
「心霊スポットでもあれば、また違うんだろうけどな」
Yがそんなことをふと言った。
「心霊スポット?」
「ほら、田舎ならではの古い建物とかさ。怖い物好きな奴なら来るんじゃないか?」
「なるほどな。怖い物好きなら若い奴が多いだろうし」
心霊スポットで町興し。
なんとも奇妙な話だ。
「でも、そんな場所さえもないのが、この町の終わってるところだよな」
Yがそうため息をつく。
最近、この町は町興しの話が出て、古い建物を取り壊したばかりだ。
しかも、町興しの話も途中で頓挫したので、もう本当に最悪な状態になっている。
「心霊スポットとか作れるのかな?」
俺がそう言うと、Yが首をすくめる。
「バレたら一貫の終わりだけどな」
「……だよな」
そう言って、諦めかけたときだった。
「ああっ!」
Yが声を上げた。
「なんだよ?」
「あれ! 見ろよ!」
Yが指差したのは地面を転がるボールだった。
「ボールがどうしたんだよ」
「よく見ろって。ここ坂道だぞ」
「あっ!」
そう。
Yが言った通り、ここは坂道だから、普通はボールは転がって坂の下へ向かうはずである。
でも、今は、逆に登ってきてるのだ。
「え? え? え? なにこれ?」
俺が混乱していると、Yが「そうか」と声を上げた。
「ミステリー坂だよ」
Yが言うには今のように、坂道なのにボールが上に上がって見える現象なのだという。
それはただの目の錯覚らしいのだが、それが見れるところは数少ないらしい。
「これなら、観光客が呼べるかも」
Yが興奮気味にそう言った。
俺もこんな珍しい現象が見れるなら、見たいと思う。
観光客を呼べば、この町にもレジャー施設ができる。
俺たちは心を躍らせ、町長のところへ報告しに走り出したのだった。
終わり。
■解説
語り部たちは『いつも通っている道』だと言っている。
もし、Yの言うようにミステリー坂なのであれば、とっくの昔に誰かが気づいているはずである。
ということは、この道はミステリー坂ではない。
では、ボールが上に転がっているのは、一体、何が起こっているのだろうか。