本編
現在、地球上で1日に100種類くらいの動物が絶滅しているらしい。
にわかには信じられないし、あんまりピンと来ない。
だって、10年もすれば565000種類の動物が消えるってことだ。
素人の俺からしたらそんなのもう、とっくに地球上の全ての動物が消えてそうな気もする。
でも、まあ、それよりももっとたくさんの動物の種類がいるんだろう。
知らんけど。
で、俺はそんな絶滅危惧種の動物を保護する団体の役員をやっている。
なんでこんな知識も技術もなにもない俺がそんなことをしているかというと、単なる幸運ってやつだろう。
アルバイトの募集で適当に応募したら受かってしまったのだ。
いやあ、本当にラッキーだったよ。
ここの給料は物凄く良いし、びょうむも凄い楽だ。
はっきり言って、1日、2時間くらいしか作業をしなくていいのだ。
で、俺が働いている場所は数多くの絶滅危惧種の動物を保護している施設で、その管理をやるというものだ。
けど、それも難しいことなんてなく、ほとんどコンピューターでやってくれるから、俺がやるのは目視でなにか異常がないかを確認するのと、餌やりするくらいだろうか。
それ以外の時間は完全に自由。
何をしていても怒られない。
ただ、一つだけ条件がある。
それは施設の外に出ないことだ。
なんでも外の病原菌とかを持ち込まないようにするためらしい。
だから、俺ももう5年以上も施設の外に出てないのだ。
だけど、そんなのが気にならないほど、施設の設備は物凄い。
大体の娯楽が施設内にそろっている。
だから、そもそも外に出たいと思うことがない。
なんか、もう一生、ここにいてもいいくらいの感覚だ。
ただ、まあ一つだけ不満があるとするなら仕事の内容かな。
動物たちを見るのと、餌をやるだけっていうのは何て言うか本当に飽きる。
最初は世界の様々な動物や見たこともない動物が見れて楽しかったけど、そんなのは3ヶ月もしたら見飽きた。
毎日同じことの繰り返しだ。
そして、いくら動物を保護しているといっても、それでも絶滅してしまうことはある。
今日、1年ぶりくらいに、1種の動物が絶滅したらしい。
意外なことに、そのことは大問題になった。
なんと、餌をやっている途中で、職員の一人が動物に襲われて死んでしまったのだという。
幸い、暴れた動物は抑えられて、今は檻の中に入っていると言っていた。
そのせいもあってか、その日から俺は動物の餌やりもしなくてよくなった。
なんか違う人がやることになったのだとか。
まあ、楽になるのはいいんだけど、仕事が無くなるのはなんかなぁと思う。
死んだ役員には悪いけど、ホント、何てことしてくれたんだよ。
終わり。
■解説
役員が動物に襲われて死んでしまい、襲った動物は檻に返している。
それなのに、なぜ「1種の動物が絶滅して」しまったのか。
それは職員こそが「絶滅危惧種」だったのである。
つまり、その職員は「人間ではない」ものだった。
また、その事故により「語り部も」動物の餌やりを禁止されている。
ということは、語り部自身は気づいていないが、人外の絶滅危惧種なのかもしれない。