本編
その女は平凡だった。
よく人からは『どこにでもある顔』と言われていた。
そのせいで目立つこともなく、影の薄い少女時代を過ごすことになる。
だが、そんな女に転機が訪れる。
整形。
どこにでもある平凡な顔ということは逆にいうと欠点がないということだ。
ちょっとした整形で変化していく。
そのことに女は整形にハマっていった。
そこで女はあるアイドルの顔を目指すことにした。
デビュー時からずっとファンで、ライブやどんなに小さいイベントでも必ず駆けつけているほど好きだった。
医者の話ではそのアイドルと骨格や顔の形が似ていると言われたことが本当に嬉しかった。
徐々にそのアイドルと似てくる自分に興奮する女。
そして、顔だけじゃなく、話し方や仕草も真似するようになった。
そうすることで、まるで自分がそのアイドルになったような気がして、ますますのめり込む。
ついには町で、そのアイドルと間違われて声をかけられるほどになった。
そのことで女の行動はエスカレートし、小さな会場でライブや握手会をやるようになる。
だが、そのことでそのアイドルの事務所に見つかってしまう。
しかし、そのときには長年アイドルのマネージャーでも、そのアイドルと女の見分けがつかないほど、そっくりになっていた。
事務所は女に注意して止めさせるのではなく、ソックリのユーチューバーとして売り出すことにした。
その事務所の企画は成功し、女は一気に人気ユーチューバーになった。
中には本物のアイドルよりも女の方が、人気があるなんて言うファンもいるほどだ。
ユーチューブの企画で、アイドルと入れ替わってライブをする企画や、ドラマやバラエティに出るなんてことをすることで、さらに人気を増やしていった。
それを知ったアイドルは引退を決意する。
偽物の方が、人気がある。
その屈辱に耐えられなかったのだ。
女は、自分が憧れていたアイドルを追い詰めたことにショックを受けた。
数日後。
女のユーチューブの動画で、突如、女はユーチューブを辞めると宣言して、動画をチャンネルごと削除してしまった。
女のファンは惜しんだが、数ヶ月も経つとほとんどの日は女の存在を忘れていく。
そして、その日以降、アイドルにソックリな女を見たという人は1人もいない。
女がユーチューブを辞めてしまったことで、アイドルの人気も落ちて行った。
だが、それでも細々と活動を続けている。
女は今、とても満足している。
終わり。
■解説
女は憧れのアイドルに憧れ、そのアイドルのようになりたいと考えていた。
そして、周りから見分けがつかないくらい瓜二つになっている。
アイドルは偽物の方が人気になったことに屈辱を覚えたので、例え、女がユーチューブを辞めたところで、引退を撤回するのはおかしい。
それでは、なぜ、そのアイドルは活動を続けているのか。
それは女がアイドルと入れ替わって活動していると考えられる。
そして、『アイドルにソックリな女を見た人は1人もいない』ということは……。
アイドルはもうこの世には存在しないのかもしれない。
女は完全にそのアイドルそのものになることができ、満足しているのだろう。