本編
俺の友人にプロレスマニアがいるんだよね。
プロレスラーの中でも、マスクを被ってる、覆面レスラーっていうのかな?
そういうレスラーが好きなんだってさ。
あるとき、そいつの家に遊びに行ったらさ、壁にズラーっとマスクが貼ってあったんだよね。
その友人が言うには、そのマスクは全部本物で本人が被ってたものなんだってさ。
手に入れるのに、凄い手間とお金がかかったやつもあって、中には非合法っていうか犯罪になるようなことをして入手したのもあるらしい。
それで俺は今なら、ネットオークションとかで売ってることもあると教えてやったんだけど、そうじゃないと怒られた。
本物じゃないと意味がないし、写真とかじゃダメなんだってさ。
で、今、狙っているレスラーがいて、色々と調べてるみたい。
そのレスラーの名前を聞いても、全然、聞いたことなくて、ネットで調べてみても記事がほとんどヒットしなかった。
どうやらかなりマイナーなレスラーみたいだ。
なんでも、その友人がいうにはその覆面レスラーは徹底してて、普段、家で生活しているときもマスクを被ってるんだってさ。
そういうレスラーの方が燃えるんだよね、と興奮気味に言ってたんだけど、俺はちょっと引いた。
だって、それって四六時中付けてるマスクでしょ?
なんていうか、失礼かもしれないけど、色々とキツそう。
で、それから数ヶ月後、いきなり親から連絡がきた。
なんでも、親戚の人が事故で亡くなったらしい。
一応、葬儀に顔を出しておきなさいと言われて、渋々、葬式に行った。
いや、ビックリしたね。
言ってみると、なんとその親戚っていうのは、友人が言ってた覆面レスラーだった。
まさか、自分の親戚にレスラーがいるなんて知らなかった。
まあ、一度も会ったことなかったし、当然と言えば当然かもしれないけど。
で、不謹慎かもしれないけど、笑ったのが、遺影がマスクを被った写真だった。
何でも、最近の写真はこれしかなかったらしい。
葬式が終わった後、ダメ元でその人の親に、マスクを貰えないか言ってみた。
最初は渋ってたけど、熱心なファンがいると伝えたところ、譲ってもらえることになった。
数日後、俺は友人にそのマスクを持って行った。
きっと、喜ぶはずだ、と。
けど、友人は驚くほどテンションが低くなっていて、「ごめん、いらない」と言われてしまった。
もしかして、生きているレスラーのマスクじゃないとダメなのかと思ったが、以前、見せてもらった部屋に貼っていたマスクの中には亡くなったレスラーのものもあった。
だから、死んでしまったから、というのは違うと思う。
あのレスラーが最後まで被ってたマスクなんだから、なおさら価値が上がると思うんだけどな。
うーん。コレクターの心はわからん。
終わり。
■解説
語り部の友人は、価値のありそうなマスクをいらないと言った。
これは集めているのはマスクではなく『素顔』の方なのではないだろうか。
では、友人が言っていた、犯罪のようなことをしたというのは、いったい、何をしたのだろうか?
気になるところである。