■本編
男は物心ついた頃にはスラム街に住んでいた。
何も持たない男は、生き延びるためには他人から奪うしかなかった。
だから、奪われることに関しても受け入れていて、取られる方が悪いと考えている。
男にとって盗みは普通であり日常であった。
ただ、男には一つのポリシーがある。
それは人を傷つけないということだ。
理不尽な暴力は男にとって不幸であり悪だった。
男自身にとっても暴力を避けることを最優先にしている。
だからこそ、それを他人にも行わない。
盗むときも無理やり奪い取るのではなく、本人にも気づかない間に取る術を身に着けた。
男は立派なスリ師になった。
男に取れないものはないとまで言われるようになった。
そして、男はそんな自分に誇りを持っている。
しかし、男はある日、男にとってとても大切なものを取られた。
その日以来、男がスリを行うことはなくなった。
終わり。
■解説
男が取られたものとは『命』だった。