■本編
俺は過去に様々な方法で人を騙してきた。
そのおかげで、莫大な富を得ることができた。
だが、そのせいで今の俺は不安で夜も眠れない。
俺の金や命を狙って、誰かがやってくるのではないかと不安なのだ。
顔を合わせる人間がすべて、自分のことを恨んでいるのではないかと思える。
だから、5年以上、家から出ていない。
外なんで出れば、いつ誰に殺されるかわかったものじゃない。
ああ、くそ。
どうして、俺はあんなことをしてしまったのだろうか。
金を得るためだったとはいえ、これでは意味がない。
金を持っていても、こんなに不安な毎日を送ることになるのなら、貧乏でもよかった。
戻れるものならやり直したい。
今日も親友だった男が家族を連れて、俺の誕生日祝いだと言って家にやってきたが、当然追い返した。
別に親友に対して何かをしたわけではないが、きっと俺のことを軽蔑してるだろうし、あわよくば俺の金を奪おうとしてるんだと思う。
友達や肉親だって信用できない。
聖職者だってもちろん、信用していない。
奴らだって、聖職者である前に人間なのだ。
目の前に莫大な金を持つ者がいれば奪いたくなる。
それが人間だ。
ああ。
いやだ。いやだ。
なんでこんなことになってしまったんだ。
どうして俺だけがこんな目に遭うんだ。
どうにかして欲しい。
もう、気が狂いそうだ。
そんな俺の祈りが通じたのか、はたまた脳が見せる幻覚か。
俺の前に悪魔が現れ、俺に言った。
「一つだけお前の願いを叶えてやる」
だから、俺は悪魔にこう言った。
「俺を恨んでいる人間をすべて殺してくれ」
次の瞬間、俺は悪魔に殺された。
終わり。
■解説
語り部は過去の自分があんなことをしなければ、こんなことにはなっていないと思っていた。
つまり、語り部は過去の自分自身を恨んでいたのだ。
そして、この後、語り部の我がままで、数多くの人間が悪魔によって殺されるのかもしれない。