病院通い

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本編

ばあさんに先立たれてしまってから、早1年。
 
元々出かけるタイプではなかった私は、この1年間で本当に数えるほどの回数しか家を出なかった。
 
そんな私を心配してか、地区長さんが時々、訪ねてきてくれるようになった。
だが、わざわざ気を利かせて来てくれることに後ろめたさを感じて、来なくても良いと言ってあげた。
 
そしたら、地区長さんが、1人でいると何かあったときに心配だから、病院に通ったらどうかと言ってきた。
私は元気そのもので、50年以上、病院に行ったことはない。
医者からも100歳以上生きられると太鼓判を押されたくらいだ。
そんな私がどうして病院なんかに、と思った。
 
物は試しとして、私は病院に行ってみた。
 
そこで地区長さんがなぜ、行った方がいいと言った理由がわかった。
この病院には私のような老人しか通っていない。
 
逆に言うと病院に行けば同じような年の人間がたくさんいるということだ。
 
待合室でテレビを見ながら談笑する日々。
人と話すことがこんなに楽しいことだなんて、初めて知った。
そして、先生も私の悩みを聞いてくれる。
まあ、ほとんど愚痴のようなものばかりだが。
 
病院に通う人たちとほぼ顔見知りになり、楽しい日々を送っている。
周りからは病院に通い始めた頃より、元気になった、なんて冗談を言われるくらいだ。
だが、時々、顔を見せなくなる人がちらほらと出てくる。
 
私よりも年配の人も多い。
来なくなったことに心配していたら、亡くなった、なんて聞くことも少なくない。
 
毎日病院に行き、友達とおしゃべりをし、診察を受けて薬をもらって帰る。
いつも同じことの繰り返しの毎日だけど、私はそれが楽しい。
いつまでもこんな平凡が続いてほしいと願っている。
 
だが、最近、少し体調を崩すことが多くなってきた。
病院に行けない日も多くなってきている。
きっとみんなは心配しているだろう。
 
そうだ。
今度、病院に行ったら先生にまた薬を増やしてもらおう。
早く元気になって、みんなを安心させてやらなくては。
 
終わり。

■解説

50年以上も医者いらずで、元気だった語り部。
それが病院に行くようになってから、体調を崩すようになった。
そして、語り部はこう言っている。
「毎日、薬を貰ってきている」「また薬を増やしてもらおう」
つまり、語り部は病院からもらって飲んでいる薬に寄って体調を崩している可能性が高い。
今後、さらに増やすことで語り部の体調は悪化していくのは火を見るより明らかである。

 

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