本編
男はどちらかというと、人よりも正義感と責任感が強かった。
ある日の仕事の帰り道のことだった。
終電でギリギリ電車に乗れたことに安堵しつつ、疲れ切った体で家路へと急ぐ。
すると路地裏から小さな話声が聞こえてきた。
気になって覗いてみると、男が2人向かい合い、何かをやり取りしている。
目を凝らしてみると、白いものが入った袋と封筒を交換していた。
男はとっさに麻薬だと思った。
ヤバい現場だと思い、その場を後にしようと思ったが、突然、男が相手の男をナイフで刺した。
何度も何度も刺している。
刺された相手は確実に死んだということは、遠目に見ていた男にもわかった。
男はそそくさとその場を後にして、家で震えて過ごした。
だが、次の日。
ネットを調べてみても、その事件のことは載っていなかった。
まだ見つかっていない。
男は通報しようか迷った。
通報するべきだと思うが、もし、報復などされてしまってはたまらない。
男は数日間悩み抜き。
警察に通報することを決意した。
交番へ行き、警察官に見たことを伝える。
「おそらく麻薬の取引です。そしたら、相手の男がもう一方を刺し殺したんです」
「それって、2丁目の友谷ビルのところですか?」
「そうです。組織的な犯罪かもしれません」
「わかりました。では、あなたは一旦、ここで保護しますね。報復の恐れがありますから」
「はい! ありがとうございます! 助かります!」
次の日、この男が通報した事件はニュースとして、新聞の片隅に掲載された。
麻薬の売人を殺害して自首した男が、留置所で自殺。
終わり。
■解説
男が場所を言う前なのに、警官が場所を知っているのはおかしい。
つまり、麻薬の売人を殺したのは警察官ということである。
通報した男は罪をなすりつけられ、殺されてしまった。