本編
私には憧れの人がいる。
その人を追って、私は警察官になった。
念願の刑事課に配属になり、私は先輩の部下になった。
本当に幸運だった。
今、私は10年続いている連続殺人事件を、先輩と一緒に追っている。
先輩は若いのに、本当に頭が良く、論理的かつ勘も冴えわたるのだ。
署内でも10年に1人の逸材と言われている。
そして、先輩は私を女扱いせず、ちゃんと1人の刑事として扱ってくれる。
私はそれが嬉しくて、必死に先輩から色々吸収しようと頑張った。
ただ、先輩も順風満帆とは言えず、連続殺人犯の捜査は難航している。
10年も逃げ続けている犯人はとても知能が高く、狡猾で鮮やかな手口だと先輩は苦い顔をしていつも言っていた。
だけど、どんなに絶望的な状況でも先輩は諦めない。
どんな小さな手がかりさえも絶対に見逃さなかった。
そして、その日は訪れる。
ついに先輩は連続殺人犯を捕まえたのである。
もちろん、その場には私もいた。
犯人が捕まる前は、本当に胸が高まるほど興奮もした。
だが、結構、あっさりと犯人は捕まってしまった。
なんて言うか、あまりにもあっさりしすぎて冷めたくらいだ。
私は人知れずため息をつく。
よし、この人を反面教師にしよう。
終わり。
■解説
語り部の憧れの人というのは先輩ではない。
語り部は先輩に憧れているとは1度も言っていないのだ。
そして、反面教師にするという発言。
これらを考えると、語り部が憧れていたのは連続殺人犯の方である。
その鮮やかな手口で人を殺す犯人をもっと深く知りたくて、刑事になったわけである。
さらに、その犯人を反面教師にするということと、先輩の捜査方法を吸収した語り部は、この後、恐ろしい連続殺人事件の犯人になる可能性が高い。