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意味が分かると怖い話

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本編

ある都市伝説を聞いた。
 
世界的に有名な遊園地に、一般的には知られていないVIP待遇を受けられるチケットがあるのだという。
それは、アトラクションを並ばずに乗れるのはもちろん、アトラクションまでの移動は車で送ってくれるらしい。
 
そして、何より凄いのが地下に一般客では乗れないアトラクションとホテルがあり、それが利用できるのだ。
 
もちろん、入場料は物凄い金額らしい。
噂では億かかるとか。
 
まあ、私には関係ない話だ。
と、思っていたのだが……。
 
本当に、ひょんなきっかけで、私は外交官の娘と知り合い、そのツテで一緒にその遊園地に行くことになった。
 
その子も都市伝説のことは知っていたらしく、入園する前のチケット販売所で、そのことをスタッフに聞き出した。
最初はそのスタッフもただの噂だと誤魔化していたが、その子が身分証明書を見せると、違う場所に案内された。
 
そして、すぐに偉い人らしき、男の人が出てきた。
その男の人の話では、そのVIPの場所への入場料は1000万なのだという。
 
そのとき、私は「さすがに億はないのか」、なんてトンチンカンなことを考えていた。
その子は凄くこの遊園地のことが好きらしく、1000万を払うと言い出した。
 
そして、その男の人は「あなたはどうしますか?」と聞いてくる。
 
さすがに1000万を奢ってくれとは言えず、「私はいいです」と断った。
だが、その子はすごく寂しそうな顔をして、せっかくなら一緒に回りたいと言い出す。
 
冗談じゃない。
その子と違って、1000万なんて払えるわけがない。
 
でも、その子は食い下がって、「借金したら?」と言い出す始末だった。
正直、その発言に、私は引いた。
金銭感覚がおかしい。
1000万なんて気軽に借金できる金額じゃない。
 
すると男の人の方が、少し考え、「ある条件をクリアすれば、入場料は無料になります」と言い出してきた。
どうせ、その条件はクリアできるものじゃないと思い、どんな条件かを聞いた。

すると、「健康診断を受けて貰うだけ」なのだという。
凄く胡散臭かった。
 
1000万が健康診断を受けるだけでタダになるなんて、明らかにおかしい。
なので、色々とその男の人に聞いてみた。
 
「入場は完全無料です。もちろん、入場してからもそちらの方と全く同じサービスを受けられます。なので、そちらの方と同じように過ごすことは可能ですよ。……何か心配しているようですが、園内で我々があなたに危害を加えたりすることは一切ありません」
 
その説明を聞き、その子の方が「タダなんだし、試しにやってみたら?」と言った。
そして、私は押し切られる形で、健康診断を受けることになった。
 
結果は、クリアとのことで、私は本当に無料で入場できた。
そして、入場した後、すぐに地下へ案内される。
 
本当に別世界だった。
ここの遊園地は何度も来ている。
 
でも、この地下の遊園地は何もかもが、いつも来ていた遊園地とは違っていた。
アトラクションも自由に乗れるし、グッズも一般に売り出されていない物もある。
食べ物も全然違う。本当に美味しい。
 
私たちは夜遅くまで、地下の遊園地を堪能し、その後、ホテルに泊まった。
一流ホテルとはまさにこんなところなんだろう。
全てがなんというか、ゴージャスだった。
 
本当に最高に幸せな時間を過ごせた。
私はその子に「誘ってくれてありがとう。いい思い出になったよ」と言った。
 
その子は笑顔で「また、一緒に来ようね」と言い、「そうだね」と私は返した。
 
夢のような1日を体験し、退園する時間になった。
 
たくさんのお土産を持ち、園から出る。
すると、スタッフの人に私だけが呼び止められた。
 
終わり。

■解説

語り部は入場料『だけ』が無料になっていた。
つまり、アトラクションに乗ることや、食事、ホテルの宿泊料は料金がかかるというわけである。
そして、スタッフは語り部がその金額が払えないだろうと知っている。
なぜなら、語り部に「健康診断」を受けさせているから。
 
この後、語り部は臓器を売られる可能性が高い。
また、スタッフは「園の中では危害を加えない」と言っている。
これは逆に言うと「園の外では危害を加える」と言っているようなものである。
 
語り部はひと時の楽しみのために、人生を終わらせられてしまう。

 

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