本編
あるテレビ番組でジャングルを探検するという、ドキュメントが放送された。
その中で、タレントは親とはぐれたらしき、赤ちゃんのチンパンジーを保護した。
視聴者から、そのチンパンジーが可愛いとコメントが数多く寄せられる。
そこでテレビ局はこのチンパンジーをタレント化しようと考えた。
そして、世話係には新人の飼育員を充てるなどをして、その新人飼育員の奮闘記として番組で放送した。
瞬く間にチンパンジーと飼育員は大人気となった。
連日、そのチンパンジーを飼育している動物園に大勢の客が訪れる。
その客たちの前で、飼育員とチンパンジーは芸を見せて、大いに観客を沸かせていた。
世間ではそのチンパンジーと飼育員がまるで兄弟のようだと持て囃す。
テレビ局も動物園も、そのチンパンジーが金の生る木として、とても大切に扱っていた。
飼育する場所も餌も良い物が与えられ、悪さをしてもあまり怒るようなことはしなかった。
だが、その人気も10年も経てば陰りが見えてくる。
商品としての価値が下がってきたチンパンジーに対して、テレビ局は引退させようと考えた。
そして、最後の一稼ぎとして、ものすごい芸を仕込んで欲しいと飼育員に注文を付ける。
しかし、この頃になるとチンパンジーは飼育員の言うことをあまり聞かなくなってきていた。
それどころか、時折、攻撃してくる始末だ。
テレビ局の期待も背負っていた飼育員は苦悩する。
どうしてもチンパンジーが言うことを聞いてくれない。
そんなことを友人に愚痴っていた。
その友人が、優しすぎるからだと言う。
きっと、そのチンパンジーに舐められているから言うことを聞かないのだと。
飼育員は確かにと思った。
考えてみれば、そのチンパンジーはずっと甘やかされて育ってきた。
ここいらでガツンと教育するのも悪くないのかもしれない。
次の日、調教用の棒と鞭を持って、チンパンジーの元を訪れた。
厳しく調教を施していく飼育員。
そして、その日からチンパンジーは飼育員に逆らうことは全くなくなった。
それから数ヶ月後。
動物園に新しいチンパンジーと飼育員がやってきた。
終わり。
■解説
もし、調教が成功していたのなら、新しいチンパンジーと『飼育員』がやってくるのはおかしい。
そう考えると調教は失敗したと考えられる。
では、なぜチンパンジーは飼育員に逆らうことは全くなくなったのか。
それは飼育員が『死亡』もしくは『引退せざるを得ないほどの怪我』をしたためである。
つまり、チンパンジーは飼育員を襲ってしまったと考えられる。
その事件を起こしたことで、チンパンジーは処分されてしまい、新たなチンパンジーが動物園にやってきたのである。
また、チンパンジーは5歳を過ぎると狂暴になり、人を殺すのも珍しくない。
中には生きた状態で、顔を食いちぎられた人間もいるのだとか。
事件後の飼育員の姿は凄惨なものになっている可能性が高い。