仲のいい母子

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本編

ある仲の良い家族がいた。
その家族には一人息子がいて、その息子は夫の連れ子だったが、妻はその子のことを目に入れても痛くないというほど可愛がっている。
 
あるとき、夫が妻に「あの子は俺の連れ子なのに、どうしてそこまで可愛がってくれるんだ?」と問いかけた。
すると妻は「あなたの子供ということは、もう一人のあなたと同じよ。だから、あなたを愛するのと同じようにあの子を愛するの」と答えた。
 
その言葉は嘘ではなく、妻はその子のためならどんなことでもやる覚悟があった。
その証拠にその子が欲しいというものは、例え、どんなに品薄だったとしても手に入れたし、その子がイジメに遭っていれば、人知れずイジメた子に仕返しをして精神的に追い詰めた。
 
お受験の際は、絶対に受かるわけがないと言われた、最難関の小学校の入試試験の問題を非合法な手を使って手に入れて、無事にその子を合格させたほどであった。
 
当然、その子は自分のためにそこまでしてくれることに感謝し、父親よりも母親の方を慕うようになり、懐いていた。
いつしかその子は母親のためだけに頑張るようになっていく。
 
だが、そんなとき、夫の不倫が発覚し、夫婦は離婚することになった。
夫の方は実の息子であるその子を引き取るつもりであったが、妻の方が絶対にその子を引き取りたいと言い、また、その子自身も母親の方に行きたいと言ったため、夫の方は親権を妻に譲った。
 
2人で暮らすようになってからも、その仲の良さは変わらず、休みの日になれば一緒に出掛けて、楽しそうに過ごしているのを周りの住人は何度も見ている。
 
そんな中、その子が中学受験の時期に入った。
母親とその子は有名な中学に入って、父親を見返してやろうと話していた。
母親はその子の受験に全力で応援する。
あなたなら絶対にできる、できないわけがないと励まし続けた。
 
母親は、お受験のときのように中学校の問題を入手して、その子にその問題を徹底的にやらせた。
 
そして、中学受験の合格発表の日。
その子は不合格だった。
母親が手に入れた問題は本物であったにも関わらず。
 
その子は母親の期待を裏切ってしまったことに絶望し、自殺した。
 
そして、その子のお葬式にやってきた父親は号泣する。
そんな元夫を見て、元妻はにっこりとほほ笑んだ。
 
終わり。

■解説

母親が入手した「問題」は本物だったが、「受験する中学のもの」とは言っていない。
つまり、母親は「違う中学の試験問題」を渡していたことになる。
 
なぜ、母親がそんなことをしたのか。
母親はこう言っていた。
「あなたの子供ということは、もう一人のあなたと同じよ。だから、あなたを愛するのと同じようにあの子を愛するの」
つまり、母親は浮気して自分を捨てた元夫を「憎んで」おり、それと同じようにその子も「憎んで」いた。
 
全ては元夫に復讐するため、その子を自殺に追いやるための計画だった。

 

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