本編
「こんにちわ、たっちゃん。うちでお菓子でも食べて行かない?」
土曜日の朝、暇だからカードショップにでも行こうかと思って、玄関から出たら、隣のおばあちゃんから声をかけられた。
僕のお父さんとお母さんは共働きで、大体、いつも家にいない。
おばあちゃんは、そんな僕に何かと声をかけてくれるのだ。
いつも晩御飯とか、おやつを食べさせてくれる。
だからってわけじゃないけど、僕は隣のおばあちゃんが大好きだ。
なので、いつも、おばあちゃんの家でずっと過ごしたりしている。
もしかしたら、お父さんやお母さんよりも一緒にいる時間が長いかもしれない。
「うん! 食べる食べる!」
元々、用事があるわけじゃないから、僕はおばあちゃんの家に行くことにした。
おばあちゃんの家に行くと、マドレーヌっていうケーキみたいなおかしを出してくれた。
おばあちゃんがお菓子を出してくれるときは、いつもスナック菓子だ。
マドレーヌなんて珍しい。
「息子がね、送ってくれたの。さっき届いたのよ」
おばあちゃんが嬉しそうに言っている。
おばあちゃんの息子はアメリカに住んでいるらしい。
その息子が作った手作りのマドレーヌで、毎年贈ってくれるみたいだ。
「それでね。手紙が入ってたのよ」
嬉しそうに、マドレーヌの箱に入っていたメッセージカードを見せてくれる。
『明日帰ります』
そう書かれていた。
おばあちゃんは本当に嬉しそうにしている。
その顔を見てたら、僕まで嬉しくなってくる。
そして、僕は出してくれたマドレーヌを一口食べた。
「うえっ! なんか、これ、固いよ」
ぼそぼそしていて、まるで古いパンみたいだった。
「どれどれ……。あれ? 賞味期限切れてる。ごめんね、たっちゃん」
そう言って、おばあちゃんはマドレーヌを下げて、棚からスナック菓子を出してくれた。
「アメリカからだから、時間かかりすぎっちゃったのかな?」
僕が言うと、おばあちゃんは、そういえばとつぶやく。
「本当は飛行機便に送るはずだったのに、間違えて船便で送ったって言ってた気がする」
おばあちゃんの息子は結構、そそっかしいらしい。
僕はスナック菓子を食べた後、テレビのスイッチを入れる。
アニメでもやっていないかとチャンネルを変える。
すると、ニュースが流れた。
1週間前の飛行機事故のニュースだ。
アメリカから日本に行く飛行機だと言っている。
しかも、何人か日本人が乗っているみたいだ。
そのニュースを見て、おばあちゃんが目を丸くしている。
「もしかして、おばあちゃんの息子が乗ってたかもしれない?」
おばあちゃんが青ざめた顔していたが、ハッとして、笑顔になる。
「息子は『明日』来るって話だった。この事故は1週間前だから大丈夫だよ」
「あ、そっか」
僕はテレビを消して、おばあちゃんとお話しすることにした。
おばあちゃんはたくさん、息子の話をしてくれる。
本当に嬉しそうだ。
きっと、明日が待ち遠しいんだろう。
終わり。
■解説
マドレーヌは、本当は『飛行機便』で送るはずが、『船便』で送られている。
そして、箱には『明日帰る』と書かれていた。
本来は『飛行機便』で送るはずだったので、本当は『もっと早く』おばあちゃんの家に届くはずだった。
つまり、明日というのは、飛行機便で届いてからの明日ということになる。
だが、息子は『まだ帰っていない』。
そして、ニュースでは『1週間前に飛行機事故』が起こっている。
おばあちゃんは、まだ息子が帰ってくると信じている。
しかし、手紙が届くタイミングと飛行機事故の日付を考えると、息子は事故機に乗っていた可能性が高い。
