本編
昨日の夜は終電を逃し、タクシーで家に帰ってきた。
深夜の2時を過ぎていて、マンションなのにさすがに静まり返っていた。
周りの部屋は全部電気が消えていたのに、一部屋だけぼんやりと電気が付いているところがあった。
自然とそこに目が行ってしまった。
すると、窓際に突然、女性が現れた。
その後、すぐに男が出てきて、その女性の首を絞め始めた。
5分もすると、女性は倒れ込んでしまった。
本当はここですぐに警察に電話すればよかったんだ。
でも、あまりのことに混乱して、そのまま家に急いで帰ってしまった。
きっと何かの見間違いだと自分に言い聞かせた。
次の日。
俺はすぐにテレビとネットで、事件を調べるが、特に何も見つからなかった。
やっぱりあれは何かの見間違えだったんだろう。
そしてそれから1週間経ったが、特に何事もなく普通の日々を過ごしていた。
だが、そう思って油断していたある日。
マンション内に警察官が聞き込みをしているのを見つけた。
事件が発覚したのか?
そう思っていたが、違っていた。
なんでわかったかというと、その警察官に見覚えがあったからだ。
そう。
その警察官は女性の首を絞めた、あの男だった。
おそらく、男は俺の存在に気付いたのかもしれない。
だけど、外は暗かったから、誰かいるのはわかったが、顔まで見えなかったんだろう。
だから、警察官に変装して、聞き込みをし、何か知っている奴がいたら始末するつもりなのかもしれない。
警察に電話しようと思った時だった。
偽の警察官が家のインターフォンを押してきた。
無視して警察に電話しようかと思ったが、もし、男に逃げられたら俺が目撃者で、警察に通報したとバレるかもしれない。
なので、ここは敢えて対応してやり過ごすことにした。
俺がドアを開けると、偽の警察官が「少し話を聞かせてもらってもいいですか?」と言ってきた。
だから、俺はなんとか動揺を抑え込んでこう返した。
「いえ、何も見てないですね」
終わり。
■解説
事件のことは世間に知られていない。
そして、犯人の男である偽の警察官は「話を聞かせてもらってもいいですか?」としか言っていない。
それなのに語り部は「何も見ていない」と答えている。
つまり、語り部は「何かあった」と知っているということになる。
この後、語り部は偽の警察官に殺害される可能性が高い。

