石鹸

意味が分かると怖い話

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本編

「こんちわ」
「いらっしゃい」
「どうだい? 景気の方は?」
「まあ、ボチボチかな」
「客足減ってないんだ? すごいな」
「なんで?」
「ほら、今、物騒なことが続いてるでしょ? あれで、みんな、あまり外に出ようとしないみたいだからさ」
「そうなんだ。そう言われると、若干、お客さんの人数は減ってるかな。その分、量を買っていってくれてるから、売り上げは落ちてないけど」
「店長も気を付けなよ」
「なにが?」
「あれって失踪じゃなくて、誘拐みたいだからさ」
「はは。大丈夫だよ。太ってないし」
「あー、そういえば、行方不明になってる人って、みんな太った人みたいだね。なんでなんだろ?」
「さあ? わかってれば、警察が犯人を捕まえてるんじゃない?」
「変わってるよなー。なんだって、大人を、しかも太った人間を連れ去るんだろ。手間がかかりそうなのに。普通は子供とかじゃない?」
「まあ、性癖は人それぞれだから」
「おー、怖っ! 理解し難いな」
「で? 今日は何を買いに来たの?」
「ああ、いつものやつ。5つね」
「え? 5つも? この前買ったばかりじゃない。買い置きにしたって、多過ぎない?」
「親戚に配ろうと思ってさ。あの石鹸、凄くいいよ」
「ありがとう。そう言ってもらえると作り甲斐があるってもんだよ」
「いやー、すごいよ。あれが手作りだってんだもんな。何を使ってんの?」
「企業秘密」
「だよね。……あ、そうだ。なんなら、俺が隣町の工場に話しつけようか? きっと、大口の案件になると思うよ」
「嬉しいけど、ごめん。手作りだし、そんなに量産できないんだ。材料も限られてるしね」
「そうなんだ? ……え? ってことは、売り切れる可能性あり?」
「もちろん。材料がなくなり次第、終わりだね」
「えー、そんなぁ。じゃあ、やっぱり20個ちょうだい」
「ダメダメ。ひとりにそんなに売れないよ。他にもひいきにしてもらってるお客さんがいるんだから」
「そっかぁ。じゃあ、親戚に配るのはやめよっと」
「はは。それがいいかも」
「でも、惜しいよなぁ。これ、絶対流行りそうなのに。大量生産できれば、大儲けできるって」
「いやいや。これは手作りだからいいんだよ。大量生産なんかしたら、品質が下がるし、使う人がいなくなっちゃうから」
「勿体ないなぁ。本当に勿体ない。ねえ、材料を教えてくれれば、俺がなんとか手配するけど?」
「もう、そう言って、材料を探ろうとしてるでしょ」
「あ、バレた?」
「バレバレ」
「ねえ、お願い! ヒントだけでも」
「うーん。君が太ってたら教えてあげてもよかったんだけど」
「なんだそりゃ」
「まあ、企業秘密ってことだね。はい、石鹸、5個」
「ありがとう。じゃあ、また買いに来るよ」
「はい、お待ちしてます」
 
終わり。

■解説

店長が作っている石鹸の材料は人間の油。
店長は石鹸を作るために、太った人間を攫っている。

 

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