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本編
男は作曲家だった。
だが、駆け出し時代は全くヒットを出せず、生活もままならない状態だった。
そんな男を支えたのがオルゴール職人だった妻であった。
妻は男とは真逆で、人気の職人で、政財界の人間からもオーダーメイドを頼まれるほどだった。
妻のおかげで生活に困ることはなく、作曲に専念できた男だったが、作る曲、作る曲、全てヒットしなかった。
自分には才能がない。
そう考えた男は作曲を辞めようとしていた。
だが、そんなとき、妻が重い病にかかり死んでしまう。
妻は息を引き取る間際、男に作曲を辞めないで欲しいと言い残した。
男は妻の言葉を胸に、妻を失った想いを曲に込めた。
すると今までが嘘だったかのように、男が作曲した曲がヒットし始める。
ブームに乗り、男の曲は世界的に大ヒットを納める。
それから30年後。
男が還暦を迎えたとき、妻から男宛にあるものが届いた。
それは妻の手作りのオルゴールだった。
どうやら、生前に男のために作っていたオルゴールを、男の還暦に届くように手配していたようだった。
男は感動して、オルゴールを開いた。
流れてきたのは、男の一番ヒットした曲だった。
男は改めて長年、自分を支えてくれた妻に感謝した。
終わり。
■解説
男の作った曲がヒットしたのは、妻が亡くなってからである。
つまり、男の一番ヒットした曲を、妻は知らないはずである。
妻は一体、どうやってこのオルゴールを作ったのだろうか。
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