本編
Tさんには子供が3人いる。
3人目の出産の際に、賃貸では狭く感じて夫と話し合って引っ越すことにした。
Tさんの夫は順調に昇進しているし、どうせ引っ越すならと中古の一軒家を買うことにしたのだった。
中古とはいえ、築3年ほどで内装は綺麗で広く、Tさんたちは大満足だった。
一番上の子供もまだ小学1年生だから一部屋はいらないが、あと数年もすれば絶対に自分だけの部屋が欲しいと言い出すので、今の内から子供部屋が3つ確保できるのはよかった。
生まれたばかりの子供も、夜泣きが酷いときはTさんと夫は別々で寝るということもでき、Tさんは本当に一軒家を買ってよかったと思っていた。
しかし、引っ越してから3ヶ月が経った頃だった。
家の中にはTさんと一番下の子供しかいないのに、どこからか子供の笑い声が聞こえることが頻繁に起こる。
最初は気のせいだと思っていたが、今度は勝手にドアが開いたり、戸棚の戸が開いたりなど、どう考えても気のせいではあり得ないことが起こるようになった。
もちろん、夫に相談したが、それでもやはり気のせいじゃないかと取り合ってくれない。
今のところは危険なことはないが、何かあってからでは遅いとTさんは心配していた。
しかし、だからといって何か出来るわけでもない。
夫に、買った家を手放して、引っ越そうなんて言えるわけがなかった。
Tさんはお寺に行って相談したり、お札を貰って来たり、部屋に塩を置いたりなど、色々と試してみたが効果はない。
相変わらず、子供の笑い声やドアが勝手に開いたり、物が移動していたりと不気味なことが続く。
それと同時に、一番下の子供が大声で泣くことが増えてきていた。
あやしても、おしめを替えても、ミルクをあげても、全然泣き止まない。
このままではノイローゼになってしまう。
Tさんは段々と精神的に追い込まれていく。
そこでTさんは夫に内緒で、霊能者に頼んで除霊してもらおうと考え始める。
しかし、騙されそうで怖いと、躊躇もしていた。
そんなある日のことだった。
夜、子供たち3人とTさんが並んで寝ていると、突然、バンと勢いよくドアが開いた。
最初、Tさんは残業で遅くなった夫が帰ってきたのかと思った。
だが、Tさんの夫は、みんなが寝ているのに、大きな音を立てるような人ではない。
一番上の子供か、二番目の子供がトイレにでも行ってたのかなと思い、眠い目を開く。
しかし、子供は3人ともぐっすりと寝ていた。
それならやっぱり夫が、酔っぱらって帰ってきたのだと思い、起き上がった。
だが、ドアの付近に立っていたのは夫でも子供たちでもなかった。
青白い顔をした、5歳くらいの子供だった。
古いパジャマをきた男の子で、髪はぐしゃぐしゃの状態。
首にはなにか紐で絞められたような跡もある。
Tさんはすぐにその子供がこの世の者じゃないことと、今までの不可解なできごとはこの子供がしたことだと感付いた。
その男の子はヒタヒタとTさんの元へ歩いてくる。
そして、その男の子はTさんにこう言った。
「僕も、一緒にいい?」
Tさんは全身に悪寒が走った。
ここで追い返さないと大変なことになる。
そう直感したTさんは、こう返した。
「ダメよ。私の子供たちは3人だけなんだから」
すると男の子は落ち込んだように肩を落とし、ヒタヒタと歩いて部屋から出て行ってしまった。
何とか追い返すことができ、安堵するTさん。
しかし、その数日後。
Tさんの一番下の子供が死んでしまった。
その首には紐で絞められたような跡が残っていたのだという。
終わり。
■解説
Tさんは「私の子供たちは3人だけ」だからダメだと言った。
それなら、1人減れば、男の子は一緒にいてくれると考えた。
つまり、男の子がTさんの子供の一人の命を奪い、3人目になろうとした。