死後硬直

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本編

あれは3年前くらいだったかな。
 
ブラック会社で働いていて、精神的に病んだことで会社を辞めた。
で、療養するために実家に帰っていたんだよね。
 
実家は結構田舎で、一番近いコンビニが徒歩で20分もかかる。
しかも、コンビニはこの一店しかないくらい過疎ったところだ。
 
その頃は親が妙に優しく、ずっとゲームをやっていても文句一つ言われなかった。
まあ、今では早く働けと圧が凄いんだけどね。
 
おっと、話がそれちゃったな。
 
あの日は、深夜にゲームをやっていたら、妙に小腹が減ってきて何か食べたくなったんだ。
キッチンや冷蔵庫を色々と見たんだけど、食べたいものがなかった。
徒歩で20分かけてコンビニに行くかどうか迷ったんだけど、朝までゲームをするつもりだったから、コンビニに行くことに決めた。
あの頃はまだお金もたくさんあったしね。
 
それで、深夜だったけどコンビニに向かって歩いていたんだ。
そのときは初夏で、夜は涼しくて、ちょっとした散歩みたいで気持ちよかったなぁ。
近くに川があって、そのせせらぎも聞こえてきて、ちょっとテンションが上がってきてた。
その当時は買い物に行こうと決めてよかったと思ったんだ。
今では、さっさと寝ておけばよかったと後悔してるんだけどね。
 
15分くらい歩いたころだったかな。
遠くでコンビニの光が見えてきた頃だったと思う。
コンビニの方から一人の男の人が買い物袋を持ってやってきたんだ。
 
大体、40歳くらいの痩せた男だったのを覚えている。
妙に青白くて、最初は幽霊じゃないかって思ったくらいだからね。
 
時間が時間だし、ちょっとビビって立ち止まっていると、その男が目の前で立ち止まったんだ。
あれはすげービビったね。
深夜に歩いていたら、知らない男が目の前で立ち止まるんだよ。
誰だって、ビビるでしょ。
 
ビックリして固まってたら、その男が話しかけてきたんだ。
 
〇〇の場所はどっちですか?って。
 
話していると、どうやらその男は妻の実家に帰省していて、コンビニに行ったところで帰り道がわからないとのことだった。
 
こっちは地元だってことで、この辺の地理には詳しかった。
だから、あっちの方です、と指を指して説明したんだ。
すると男はお礼を言って、歩いていった。
 
幽霊じゃなかったとはいえ、一気にテンションが下がった。
さっさと買い物だけして帰ろうと思って、10分くらいで買い物を終わらせた。
 
足早に帰ろうとしたときだった。
急にバシャバシャという音がした。
 
近くにあった川からの音だって、すぐにわかった。
その川も小川じゃなく、結構、水位がある川で、昔はよくその川に入って遊んでたこともあった。
 
どう考えても魚の類いじゃない。
なにか大きな動物が川でもがいているような音だ。
 
嫌な予感がしつつも、そのまま素通りすることはできない。
 
覚悟を決して川へ向かった。
すると、予想通り、誰かが川で溺れていた。
 
そう。
さっきの男だった。
 
両手を広げて、その手を振っている。
 
本当はすぐに川に飛び込んで助けに行くべきだったのかもしれない。
だけど、そのときは飛び込む気にはなれなかった。
 
だからすぐに警察に電話して、来てもらった。
 
電話してから10分で警察が来てくれた。
ただ、その頃には音が止んでいた。
 
引き上げられたときには男は既に亡くなっていた。
警察の話では、手を広げていたのは死後硬直で固まっていたからだったそうだ。
 
警察に、すぐに飛び込めなくてすいませんというと、逆にそういうときは二次災害の可能性があるから飛び込まない方がいいと言っていた。
 
それに、飛び込んだときには既に亡くなっていたはずだから、飛び込まなくてよかったよとも言っていた。
 
ホント、飛び込まなくてよかったよ。
 
ただ、今でも、あのときの顔が妙にハッキリと頭に残っている。
なんで、あのとき、コンビニに行ったんだろう。
空腹なんて我慢して寝ればよかったよ。
 
終わり。

■解説

死後硬直は死亡してから2時間ほど経ってから始まる。
さらに手の先まで固まるのは8時間ほどかかる。
だが、語り部が男に会ってから、川で男を見つけるまでは1時間も経っていないはずである。
では、語り部が話していた男は一体、なんだったのだろうか。

 

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