■本編
私がこの廃墟にいるようになってから、もう20年は経っている。
20年もいれば、居住権とやらで、ここはもう私の物ということになる。
だから、誰だろうと、私にここから出て行けという資格はない。
私はここでこの先もずーっと穏やかに暮らす気だった。
しかし、数年前から若い奴らが来るようになった。
何でも、この廃墟が『心霊スポット』なんだとからしい。
最初は1ヶ月に1組くらいだったが、今ではほぼ毎日のように来る。
あるとき、私はついに我慢が出来なくなり、あるカップルを殺した。
これで怖がって、誰もここに近づかなくなるだろう。
しかし、その考えは甘かった。
廃墟に行くと呪い殺されるという噂のせいで、さらに人が来るようになった。
もういい加減にしてくれ。
私の憎悪が増していく。
来る人間に呪いをかける。
そして、今日もまた、新しいカップルがやってきた。
「ここが呪いの廃墟か」
「大丈夫なの? 呪い殺されない?」
「平気だって。俺、呪いとか効かないし」
「ホントに?」
「ああ。やれるもんなら、やってみろって感じだな」
私はお望み通り、そのカップルを殺した。
終わり。
■解説
一見すると、廃墟に住む語り部は幽霊で、やってきた人間を呪い殺しているように見える。
だが、語り部は一度も「呪い殺す」とは言っていない。
つまり、語り部は幽霊ではなく、生きた人間で、ただの殺人鬼ということになる。