■本編
私は今、マンションに住んでいる。
そのマンションには、住人から嫌われている爺さんがいるのだ。
もちろん、私もあまり好きじゃない。
時々、エレベーターの中で鉢合わせしたときは、つい、ため息をつきたくなる。
「おお! 嬢ちゃん、久しぶり!」
「げっ!」
「おいおい。人の顔を見て、げっ、とか言うんじゃないよ」
「反応してくれるだけ、マシでしょ」
この爺さんと一緒にいるとろくなことはない。
エレベータ―に乗らずに行ってしまう人や、明らかに顔をしかめて、ずっと背を向けて爺さんの方を一切見ない人など、人それぞれの反応をする。
全くの無視をする人もいる。
これが一番多いかな。
「お姉さん、綺麗だねぇ。何号室に住んでるの?」
爺さんが20代後半の女性に声をかけるが、完全に無理される。
「なんだよー。感じ悪いなー」
「普通の反応でしょ。それに、自分の住んでる部屋なんてそうそう他人に言わないって」
「そうかなぁ。あんまり意味ないと思うんだけど」
「……いつも見たく、後をつければいいんじゃないの?」
「そうだな。うん、そうしよう」
爺さんはその女性と一緒の階で降りていく。
本当に、女好きのどうしようもない爺さんだ。
あの女性には悪いが、これでしばらくは爺さんが現れなくなるだろう。
そう思っていると、イケメンのスーツ姿の男の人が乗ってきた。
見ない顔なので、おそらくは営業の人かなにかなんだろう。
その人は10階のボタンを押す。
お、しばらくはご一緒できるってことだ。
エレベーター内には私と男の人の2人だけ。
ここは大胆に声をかけてみようかな。
「今日は暑いですね。お仕事大変でしょ?」
だが完全に無視される。
こっちを振り向こうともしない。
そして、男の人は10階で、何事もなく降りて行った。
あーあ。やっぱり、普通の人だったか。
残念。
終わり。
■解説
語り部もおじいさんも、どちらも幽霊。
ほとんどの人は視えないので無視するが、視える人は明らかに嫌がる素振りをする。