本編
この時代でも、未だに未接触部族が存在する。
そういう部族は大体が排他的で暴力的なことが多い。
男が接触を試みている部族も、今まで一度も接触に成功した事例がなかった。
というより、接触を試みて、帰ってきた人間はいない。
それでも男はその部族の神秘的な儀式に魅入られ、なんとか接触を図ろうと機会を伺っていた。
いつも遠くから双眼鏡で儀式を見るだけでは物足りなく、やはり直接、近くで見たいと思っているのだ。
遠くからこの部族を観察している男は、その部族が言葉ではなく、身振りで大部分のコミュニケーションを取っていることに気づく。
さらに、100年前のその部族の文献が見つかり、研究することで部族の理解が進んだ。
遠くから双眼鏡で様子を見ていると、どんなコミュニケーションを取っているのかがわかるほどになった。
そして、男は文献を見て、あるチャンスを待っていた。
皆既日食。
その部族は太陽を神と讃えているのだという。
その太陽が月に覆われる皆既日食は、最大の接触のチャンスだと書かれていた。
男は待った。
それから5年ほど待ち、ついに長年待ち続けた皆既日食の日がやってくる。
男は皆既日食が起こる時間を見計らって、その部族に接触した。
男は部族捕まり、村の中心に連れていかれる。
普通であれば、外界の人間は例外なく殺される。
しかし、男には皆既日食のことがある。
男は部族に「自分は悪魔の使いだ。太陽(神)を隠すことができる」と伝えた。
部族の人間たちは大いにざわついていた。
どうやら、悪魔の使いの再来だと騒いでいるようだ。
これなら信じてもらえそうだ。
そう考えていると、空では皆既日食が始まった。
終わり。
■解説
この部族の人間は悪魔の使いの『再来』と言っている。
ということは、100年前に文献を残した人間は、皆既日食の際に部族に接触していると考えられる。
文献を残した人間は、男と同じように「自分は悪魔の使いで太陽を隠せる」と言っている可能性が高い。
しかし、この部族に接触を試みて、帰ってきた人間はいないはずである。
つまり、文献を残した人間は、『生きて帰ってきていない』ことになる。
この後、男も100年前に文献を残した人間と同じ運命を辿ることになるはず。
部族は悪魔の使いを殺すことで、太陽が復活すると思い込んでいる可能性がある。