本編
俺の趣味は人形作りだ。
男としては変わった趣味だと思われるから、この趣味は公言していない。
本当は作ったものを見せたい、なんて欲求があるけど、自分のために我慢している。
俺が作る人形はちょっと変わっている。
というのも、パッチワーク的手法を使っているところだ。
どういうことかというと、いわゆる継ぎ接ぎで組み合わせるという手法を使っている。
俺は1体、1体、こだわって作るタイプだから、素材の良いところだけを使って作りたいんだよね。
なんていうかな。
俺自身は、一度妥協してしまうと、作品に打ち込めなくなる気がして、絶対に妥協は許さないようにしている。
ああ。
多作で早く仕上げる人がいるけど、それはそのクリエイターの信念であって、他人がどうこう言えることじゃないと思ってる。
そういうクリエイターも、俺は尊敬しているのだ。
とはいえ、俺はこだわって作るから、1体完成させるまでに物凄い時間がかかる。
下手をすれば、7,8年かかることもある。
でも、その分、こだわって作るから、完成品は本当に一級の芸術品と言っていいだろう。
自分ながら、惚れ惚れしてしまうくらいだ。
だから、本当は世間に見せたい。
でも、そんなことをしたら、絶対に、変な人間だと思われてしまうはずだ。
少なくても、周りからは距離を置かれてしまうだろうし、下手をすると人形作りができなくなるかもしれない。
だから、我慢だ。
今日も材料を探しに、町に出る。
行きつけの端材屋にいく。
ここは客が少ないけど、実に良質な材料が時々あったりする。
なかなか良いのがないなーと思いながら吟味していると、凄く良いのを見つけた。
まさしく、イメージにぴったりの素材だ。
俺は小さくガッツポーズをして、端材屋を出た。
終わり。
■解説
語り部が人形つくりに使っている材料を、一度も、布とは言っていない。
では、一体、なんの材料を使って作っているのだろうか?
語り部はしきりに人形つくりの公言を避けている。
周りから変に思われるだけでは、ここまで避けたりはしないはずだろう。
そして、端材屋では「客が少ない」と言っている。
もし、布を探しているのであれば、「客」は関係ないはずだろう。
そのことから、語り部の目的は「客」であることがわかる。
つまり、語り部は「人間」を材料に人形つくりをしている。
いい素材を見つけたので、語り部は店から出て、素材となる人間の後を追ったということになる。