オレオレ詐欺

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本編

昔からあるオレオレ詐欺。
 
いつも思うんだけど、なんでこんなに有名なのに引っかかるのか。
普通、これだけ注意されてるんだから、注意するだろ?
 
正直言って、俺はここまで来たら引っかかる方が悪いと思う。
 
かーちゃんとも話したんだけど、いくら電話越しだからって自分の息子の声は間違えないって言ってた。
いくら慌てても、絶対わかるはずだって。
 
俺もそう思う。
大体さ、話している内容で気づくだろ。
 
そう考えると、やっぱり、引っかかる方が悪い。
 
 
だから、俺がオレオレ詐欺をやったとしても、引っかかる方が悪いから何の罪悪感もない。
 
上からリストを貰って電話を掛ける。
なんでも、話が通じやすいように、その地域に住んでいるとか、その地域に詳しいところのリストを渡されるらしい。
 
俺も電話を掛けていくと、話の流れで地域のことが出てきて、それを答えると結構、相手は信じる。
だから、地域に詳しいところのリストが流れてくるのは、なるほどって思う。
あとは、あんまり話さないようにするのが、呼び方だ。
お母さんとか、おかんとか、ママとか、呼び方で速攻バレる可能性があるらしい。
だから、なるべくなら相手のことを呼ばないようにするのがコツだ。
 
今日も、さっそく、電話を掛ける。
 
「もしもし、俺なんだけど」
「あら、どうしたの? こんな時間に」
「いや、ちょっとさ、今、事故っちゃって……」
「ええ!? 大丈夫なの?」
「うん、俺は大丈夫なんだけどさ、相手をケガさせちゃって……」
「……あら。結構、酷いケガなの?」
「うん……。それでちょっと治療費がかかりそうなんだ」
「そっか。いくら?」
「……とりあえず100万」
「ええー! そんなに?」
「かーちゃん、なんとかならない?」
「しょうがないね。どうすればいい?」
「振込でお願い」
「うん。わかった。どこの銀行がいいとかある?」
「えっと、都市銀行がいいかな」
「都市銀行……。須藤商店の近くと、あっちの方、どっちがいい?」
「あっちって矢代電気店の方のこと?」
「そうそう」
「電気屋の方がいいかな。近いでしょ」
「うん。わかった。じゃあ、振り込んでおくね」
 
ガチャンと切った。
 
完全に信じてる。
これは貰ったでしょ。
 
案の定、上から電話がかかってきて、無事に振り込まれたそうだ。
これで、少しボーナスがもらえる。
 
よし!
モチベーションが上がった、次も頑張って演技するぞ。
 
終わり。

■解説

語り部の母親は電話越しでも息子の声は絶対にわかると言っている。
そして、会話中に、語り部はうっかり、相手のことをかーちゃんと言ってしまっている。
呼び方が違えば、すぐにバレてしまう状況でも、バレなかったことを考えると、相手はいつもかーちゃんと呼ばれていたとわかる。
さらに、会話の内容で、妙に相手と語り部の土地勘が正確に合っている。
つまり、語り部は自分の母親にオレオレ詐欺を仕掛け、母親も声で息子だとわかったため、信じてしまった。

 

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