本編
男は各地を旅する料理人であった。
様々な場所に行き、その地域の料理を学び、それを自分流に昇華しながら次の町へと向かう。
男がそんな料理人になったのは、北の地である魚を食べたことがきっかけだった。
それまで男が食べたことのなかった、ししゃもという魚。
それをある漁師から食べさせてもらい、凄く感動したのだ。
自分の知らない美味しい食材が世の中にたくさんある。
そう気づいて、男は旅の料理人になった。
そして、旅を続ける中で男の名は徐々に広まっていく。
凄い料理人がいる。
それがある大名の耳に入った。
その大名は食にこだわり、食のためなら金の糸目をつけなかった。
大名が気に入った料理人には莫大な報酬が支払われ、逆に気に入らない料理を出した料理人を処刑したりしていた。
特に食材に対しての嘘は絶対に許さなかった。
世の中には似た味の食材があり、それを偽って出す料理人が横行していた。
大名はそんな料理人を絶対に許さない。
そんな中、大名は男に料理を作って欲しいと依頼してきた。
金には糸目はつけない。最高の料理を用意してくれ。
そう言われて、男は今までの旅で得た料理で献立を組み立てる。
そして、絶対に外せないのが、自分の人生を変えたししゃもだった。
また、大名もししゃもが好きということを耳にしている。
さっそく男は北の地へ行き、あの料理にししゃもを用意してもらう。
戻った男は大名に料理を出した。
自分の最高傑作といえるほどの献立を用意して、男は満足した。
数日後、男は大名によって処刑された。
終わり。
■解説
ししゃもにはよく似たカペリンという魚がある。
男は漁師に食べさせてもらうまで、ししゃもをしなかった。
そして、大名はししゃもが好きで、偽物を許さない人物である。
つまり、男は漁師に食べさせてもらったのはカペリンだった可能性が高い。
男は最初にししゃもと言われてカペリンを食べているので、それがししゃもではないとは考えもしなかった。