本編
俺は電車マニアだ。
と、言うより駅弁マニアと言った方が近いだろうか。
電車から見える風景を見ながら駅弁を食べるのが好きなのだ。
休みがあれば、駅弁を食べるために電車に乗る。
そんな趣味を20年もやっていれば、マニアと呼べるほどの知識も得られるものだ。
全国の駅弁を調べて、食べて、ブログに書く。
これが俺の生活のサイクルになっている。
だから、自慢じゃないが、駅弁を見るだけでどの駅の物かもわかるし、駅名を言われれば売っている駅弁名を言える。
それくらい、俺は駅弁に詳しいのだ。
そんな俺がなにより楽しみにしているのが出張だ。
会社の金と時間を使って、駅弁を堪能できる。
なんと駅弁が美味いことか。
なので、出張が入れば、俺は改めて駅弁をネットで調べ、食べるものを決める。
当日に悩むというのも捨てがたいが、これは万が一乗り過ごしたりすると、さすがにまずいからだ。
そして、今回、1年に1度の待ちに待ったかなりの遠方の出張が入った。
俺は嬉しくて、前の日に遅くまでどこで、どの駅弁を食べるかをリサーチし、完璧な計画を立てた。
だけど、そのせいでほとんど寝れなかった。
電車に揺られていると、すっかり眠くなり、いつの間にか眠ってしまった。
昨日の徹夜と最近の仕事の忙しさのせいで、一度眠気が来てしまうと抗えない。
終始、寝たり起きたりの微睡が続く。
そんなとき、店員さんから声をかけられた。
目を開けると駅弁の車内販売だった。
周りには俺以外の乗客は1人もいない。
「どれしますか?」
店員さんにそう聞かれて、昨日立てた計画を思い出したが、ここがどこの駅かがわからない。
仕方ないので、俺は「おすすめの駅弁でお願いします」と言った。
店員さんはわかりましたと言って、一つお弁当を渡してくれた。
俺はお金を払い、飲み物も一緒に買う。
俺はかなりお腹が減っていた。
外を見ると真っ暗だ。
だいぶ、寝てしまったことを残念に思いながらも、とりあえず、駅弁を1つ買えたのはよかった。
さっそく、俺は駅弁の蓋を開ける。
見たことのないお弁当だったが、もの凄くおいしそうだ。
俺は一緒に買ったお茶を1口飲んでから、駅弁を食べ始めた。
終わり。
■解説
語り部は相当の駅弁マニアである。
そして、前の日にはしっかりと最新の駅弁を調べていた。
なので、『見たことのないお弁当』というのはおかしい。
語り部は目的の駅を乗り過ごした、もしくはこの世のものではない駅の駅弁を買ってしまったのかもしれない。