〈前の話へ:疑惑のテレビ局〉 〈次の話へ:フランケンシュタイン〉
本編
俺は今、宅配の配達員のバイトをやっている。
少し前に爆発的に流行ったあれだ。
配達員のバイトのいいところは空き時間にできるというところだ。
あとは自転車に乗るのも好きということもあり、まさにうってつけのバイトだった。
その日も友達との約束がキャンセルになったから、バイトをすることにした。
届ける場所はあるマンションの3階、一番端にある部屋だ。
届けるのは親子丼を2つ。
チャイムを押すと、綺麗な女性が出てきた。
ドキッとしながらも、俺はその人に親子丼を渡して帰った。
別に何かあるわけじゃないが、こういうことがあるとちょっと嬉しい。
あとで見てみると評価もよいにつけてくれていた。
それから、週に1度くらい配達が入った。
いつものあの部屋。
渡して、ありがとうと言われるだけ。
番号を交換したり、会話をしたりなんてことはない。
まあ、変な期待をしてトラブルになっても困る。
そんなあるとき、いつも通り、空き時間に配達のバイトを入れる。
今回は牛丼の注文で、場所はあのマンションだった。
マンションの前に到着すると、パトカーと救急車が止まっていた。
なんかあったのかと思いながら、3階へと登っていく。
注文のあった、一番端の部屋のインターフォンを押す。
すると、30代の男性が出てきた。
その男性に牛丼を渡すと、なんで警察が来てるのかを話してくれた。
「逆側の端の部屋なんだけどさ。おばあちゃんが孤独死してたみたいなんだよ。死後、3ヶ月以上経ってたみたいだよ」
話好きな人だったのか、10分くらい雑談に付き合わされてしまった。
どうせなら、あの女の人と雑談したかったな、と思ってその日は帰った。
だけど、あれから一度もあの部屋から配達依頼はなかった。
終わり。
■解説
最後に配達した男の部屋は、いつも配達していた女がいたマンションと同じである。
そして、3階というのも同じ。
さらに、『逆側の端』ということは、孤独死が見つかった部屋は、いつも語り部が配達していた部屋ということになる。
では、孤独死していた老婆の部屋にいた女性は一体、何者なのだろうか。
〈前の話へ:疑惑のテレビ局〉 〈次の話へ:フランケンシュタイン〉