本編
すごくいいバイトを見つけた。
ある薬品会社のバイトなんだけど、微生物を育てるだけらしい。
えっと、育てるっていうか、繁殖?
とにかく、そんな感じ。
そんなの素人の俺でもできるのかっていうのが疑問だったんだけど、大丈夫らしい。
説明を聞いたら、凄い簡単だった。
一日一回、薬を与えるだけ、だって。
それ以外は特に放置でいいらしい。
放置の間は何をしてもいいらしくて、俺はその間、ずーっとゲームしてたよ。
でも、全然、文句言われねーの。
これで月、50万だってさ。
すげー、美味しいよなぁ。
高すぎるって気もして、聞いてみたんだけど、相場的にはこれが当然なんだってさ。
逆に安いくらいらしい。
薬関係は、なんか時給高いらしいよ。
あー、でもさ、こんなの学生の頃からやっちゃうと金銭感覚、狂いそう。
これじゃ、大学卒業してからまともに働くのが馬鹿らしくなっちゃうよ。
どうせだったら、大学卒業してもこのままここで雇ってくれないかな。
なんて、冗談で言ってみたら、今回の繁殖が成功したらOKだってさ。
ラッキー。
気合入れて頑張らねば。
って言っても、単に一日一回、薬をやるだけなんだけどね。
で、月に一回の検診を受けたら、なんと順調だってさ。
繁殖成功。
しかも、他のやつよりよく繁殖してるんだって。
なんかボーナス貰っちゃったよ。
またまたラッキー。
なんてことを大体、半年続けたくらいだったかな。
なんか体調を崩すことが多くなってきた。
熱が出て寝込んじゃうんだよね。
昔はこんなことなかったのにな。
けど、まあ、バイトはもちろん続けたよ。
バイト代美味しいしね。
でも、あるとき、いきなりぶっ倒れた。
高熱が出て、動けなくなったんだよね。
あーくそ。ダルい。
でも、繁殖はすごい順調らしい。
終わり。
■解説
バイトで繁殖させる微生物をどうやって育てているのかが、語り部は語っていない。
一日一回、『薬を与える』だけの仕事で、ここまで高給なのはあやしい。
同じようなバイトに治験というものがある。
バイトの人間の体を使って、薬の効果を見るものだ。
語り部がやっているバイトはそれと同じようなものではないだろうか。
つまり、繁殖させる場所は『語り部の体内』なのである。
『検診』を受けて、『繁殖』が出来ていると言っているのでその可能性が高い。
また、語り部が体調が悪くなるにしたがい、繁殖が進んでいくということは、最終的に語り部は亡くなってしまうのかもしれない。