左利きの幼馴染

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本編

俺には幼馴染がいる。
そいつはすごく不器用で、ちょっと抜けてて、とても泣き虫だ。
 
よく左利きは頭がいいなんて話を聞くけど、あんなのは都市伝説だ。
普通に運動も勉強もダメで、何よりおかしかったのが、俺が左手で書く文字よりも字が下手なところだ。
左利きなんて、あいつの嘘なんじゃないかと疑った。
 
だから俺は幼馴染というよりは保護者に近いような意識を持っていた。
それは大人になってからも同じで、あいつが仕事で重大なプレゼンを任されたと聞けば、資料作りやプレゼンの練習も手伝った。
 
おそらく、俺がこいつから解放されるのは、こいつが結婚した時だろう。
結婚してからもさすがに面倒は見切れない。
あとは旦那に頑張ってもらおう。
 
だが、あいつはいつまでたっても彼氏を作らなかった。
それは学生の頃もそうで、俺はずっと不思議だった。
 
確かにあいつは不器用で抜けてて泣き虫だが、可愛いと思う。
愛嬌だってある。
言い寄る男はいくらでもいそうな気がするのに。
 
そんなことを考えていたときだった。
いきなりある事件が起こる。
それはあいつがある精神病にかかってしまった。
 
解離性同一症、つまり二重人格だ。
 
最初はなにかの冗談だと思ったが、会った瞬間、いきなり右の頬を殴られたときは二重の意味で衝撃を覚えた。
あいつが人を殴るなんてことはできないのは知っている。
 
あいつのもう一つの人格の方は、本人とは真逆で乱暴でずる賢い。
すぐに周りの人間を騙そうとしてくる。
 
もちろん、病院にも行ったがなかなか回復には向かっていかない。
医者の言うことでは、その人格が満足すれば、おのずと消えていくものらしい。
だが、もう一つの人格が満足するなんて思えなかった。
 
諦めずに何かいい方法がないかと探していると、あいつが俺にぽつりと言った。
 
「死にたい」
 
俺に迷惑をかけていることをずっと気に病んでいたらしい。
俺は「そんなの今に始まったことじゃない」なんて冗談じみたことを言って慰めた。
だが、それでもあいつは自殺未遂をしてしまった。
 
病院で寝ているあいつを見て、俺は始めてあいつのことを愛していたことに気づいた。
保護者面していたのは、あいつの傍にいたかったからだ。
 
俺はあいつが目覚めたとき、プロポーズをした。
あいつは俺にしがみついてずっと泣いていた。
そして、最後に幸せそうな笑顔を浮かべた。
 
その頃から、あいつのもう一つの人格は徐々に顔を出さなくなっていった。
 
結婚生活も落ち着き、子供が生まれた頃、あいつはポツリと話し出した。
おそらく、二重人格になったのは俺に振り向いてもらえないことが原因だったんじゃないかということだった。
子供の頃からずっとアピールしていたのに、気づいて貰えず、さらに彼氏を作れなんて残酷なことを言われたのが切っ掛けだったんだと思うと笑って話していた。
 
これに関しては反省しかない。
俺自身、あいつへの想いに気づいてなかったくらいだ。
 
さらに、子供が出来てからか、あいつはしっかり者になった気がする。
子供が悪さをしたとき、あいつはコツンと右手でゲンコツをした後、ちゃんと叱っていた。
 
昔のあいつからは信じられないことだ。
昔のあいつなら、どうしていいかわからなくてアタフタしていたことだろう。
 
やっぱり、母は強しといったところだろうか。
 
終わり。

■解説

幼馴染は「左利き」だったはずである。
しかし、子供にゲンコツをしたときは「右手」でしている。
さらに、医者は「満足すれば、その人格は消えていく」と言っていた。
そして、幼馴染の望みは「語り部と結ばれること」である。
つまり、語り部がプロポーズしたことで、満足したのは「幼馴染」の方である。
 
以上のことを考えると、消えた人格は幼馴染の方で、語り部と生活しているのは「もう一つの人格」の方である可能性が高い。
また、もう一つの人格の方は「ずる賢く」「人を騙そうとする」性格である。

 

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