■本編
「近所の神社で丑の刻参りをやってる奴がいるんだってよ」
突然、祐介くんがそう言い出した。
そういえば、お母さんも夜に変な音を聞いたという噂があったと話していた。
そっか。変な音って言うのは、丑の刻参りやってた音だったんだ。
「なあ、今日の夜、そいつを見に行かね?」
祐介くんがとんでもないことを言い出す。
「いや、ダメだよ。丑の刻参りは他人に見られたら呪いは自分に返るって話だよ」
「だからだよ。誰かが呪われてるのを黙って見過ごす気か? それに呪いをやってる奴を退治しないと!」
祐介くんはその人が心配みたいなことを言っているが、単に面白半分でみたいだけなんだろう。
「丑の刻って確か、深夜の1時から3時までだよね? そんな時間に家、出れないよ」
「いやいや。親だって寝てる時間なんだから、出られるだろ」
「……」
「お前、ホント、怖がりだな」
「違うよ! 行くよ!」
怖がりと言われるのが悔しくて、つい、勢いで行くと言ってしまった。
そして、その日の夜。
すごく怖かったが、祐介くんにバカにされるのが嫌で、僕は集合場所に行った。
すると、すでに祐介くんがいて、妙にニコニコしていた。
「おい、こっちこっち! 音してる!」
祐介くんの言った通り、かすかに釘を打つ音が聞こえてくる。
「やってるやってる。行こうぜ。どんな奴がやってるのかなぁ?」
ニコニコしながら祐介くんは神社の中に入っていく。
僕も仕方なく、祐介くんの後をついていくと、音が段々と大きくなる。
「いたっ!」
祐介くんが指差す方向には、白い着物を着て、頭にろうそくをつけた人が、すごい勢いで藁人形に釘を打ち付けていた。
あまりの異様な光景に、さすがの祐介くんも顔を青ざめて震え始めた。
「帰るぞ」
「うん」
祐介くんの言葉に、僕は頷くしかなかった。
そして、その場から逃げようとしたとき、枯れ木を踏んでしまい、パキッと音が響いた。
すると、釘を打つ音がピタリと止んだ。
「見いいいぃいいたああなああああああああああ!」
丑の刻参りをしていた人が振り返り、物凄い勢いでこっちに走ってきた。
僕たちは悲鳴を上げながら全力で逃げた。
追ってきた人は途中で転んだみたいで、僕たちは逃げ切ることに成功した。
だけど……。
「あっ!」
僕はあることに気が付いた。
一気に顔から血の気が引くのが自分でもわかった。
「どうした?」
「名札、落とした」
「お前、なんで名札なんか持ってきたんだよ」
「違うよ。忘れないようにいつもポケットに入れてたんだよ」
このままじゃあの人に、僕のことがバレてしまう。
「ぼ、僕、戻って名札探してくる」
「バカ! 逆に見つかって捕まったらどうするんだよ!」
「でも……」
「大丈夫だって。名札見られたくらいで、どこの誰かなんて絶対にわからないって」
「そうかな?」
少し不安だったけど、確かに戻る方が怖かった。
その日は家に帰って布団に入った。
全然眠れなくて、すぐに朝になった。
学校に行くと祐介くんも眠れなかったみたいで、目の下にクマができている。
僕は名札のことが気になったけど、あえて考えないようにした。
ひたすら、僕だってバレませんようにと祈ることしかできない。
そして、その日。
珍しく担任の先生が学校を休んだ。
元気だけが取り柄の先生だったのに。
終わり。
■解説
丑の刻参りをしていたのは、担任の先生。
丑の刻参りを他人に見られたので、呪いが自分に返ってしまった。
また、担任の先生がこの後、無事だった場合、名札で語り部のことがバレてしまう。