■本編
俺には職場にずっと憧れの先輩がいる。
先輩は美人で仕事が出来て、いつも部下のことを庇ってくれる。
部署のみんなも先輩を慕っている。
その先輩がいるからこそ、俺はどんなに仕事が忙しくても、2ヶ月休みがなくても耐えることができた。
俺はこの先もずっと、先輩と働いていけると思っていた。
先輩も、たとえ結婚したとしても仕事を続けると言っていた。
だから、一緒に働き続けることができると思っていた。
しかし、俺は見つけてしまった。
先輩が横領しているのを。
会社にはもちろん、部署のみんなに見つからないように先輩を呼び出す。
そして、先輩に横領の証拠を見せて、会社に自白するように説得した。
すると先輩は今回が初めてだったこと、実はほとんどの金額はこっそりと返していること、実際に取ったのは20万ほどだったことを聞いた。
先輩はその20万もすぐに会社に返すから、このことは秘密にして欲しいと言われた。
疑う理由が見当たらなかった。
先輩には今まで何度も何度も助けてもらった。
恩返しと言うと語弊があるかもしれないが、俺は先輩を信じることにした。
それから3ヶ月、何事もなく過ぎていった。
だが、突然、先輩が会社を辞めた。
俺はもちろん、部署の誰にも言わず、知っていたのは先輩の上司だけだった。
いきなりのことで、部署のみんなは戸惑った。
しばらくの間、仕事場は混乱していた。
だが、俺は何となくわかっていた。
おそらく、先輩は横領をしてしまったという事実に押しつぶされてしまったのだ。
先輩は人一倍、責任感が強い人だった。
だから、たとえお金を返したところで、罪悪感を拭えなかったのだろう。
だからこそ、誰にも言わずに辞めていったのだ。
最後まで責任感が強かった先輩に、俺は改めて尊敬し、一緒に仕事ができたことを光栄に思った。
次の日。
俺の家に、警察が訪ねてきた。
終わり。
■解説
先輩は語り部の男に、横領の罪を擦り付けた。
横領自体も初めてではなく、お金を返したのも嘘だと考えられる。
(語り部は実際に金を返したところを見たわけでもないし、今回は初めてだという証拠も見ていない)