本編
あれは3年前くらいだったかな。
大学卒業と免許を取ったお祝いで、親父に車を買ってもらったんだ。
就職も決まっていたし、卒論も終わってたし、とにかく俺たちは暇でさ。
だから、頻繁に友達とドライブしてたんだよ。
朝も夜も関係なく、気ままに遠出をしたんだよね。
あるときさ、ノリで海に遊びに行ったんだけど、帰る頃には真っ暗になっちゃってさ。
宿にでも泊まろうと思ったんだけど、そのときは妙に混んでたせいで、宿が取れなかったんだ。
だから、泣く泣く車で帰ることにした。
最悪なのがさ、帰る途中に山道を通ることになるんだ。
大体、深夜の2時くらいかな。
滅多に車も通らなくて、俺の車のライトの明かりだけが頼りってわけ。
そんな中、友達の一人がよせばいいのに、怖い話をし始めた。
なんとしてでも止めればよかったんだけど、そいつ、妙に話がうまくて聞き入っちゃったんだ。
で、聞き終わった後、すごく怖くなってさ。
友達も、自分で話したくせに怖がり始めたんだ。
こういうときってさ、続くんだよね。
ほら、悪いことは続くって言うでしょ?
もう一人の友達が道路の脇に立っている標識を指さしたんだ。
『!』って書いてる標識ってあるでしょ?
あれって、!マークの下に『前方優先道路』とか『行き止まり』とか『大雨冠水注意』とか、補助標識が書いてあるもんなんだよ。
でも、その補助標識がなかったんだ。
ただの『!』だけ。
で、友達がその標識を見て、こんなことを言い出したんだ。
「補助標識のないビックリマークの標識は幽霊に注意しろって意味なんだって」
俺は思わず、「やめろって」と叫んだ。
本当に出てきそうな雰囲気だったから。
でもさ、今なら幽霊だったよかったのにって思うよ。
親父にもめちゃくちゃ怒られたしさ。
あのときのことは、今でもドキドキしてるよ。
終わり。
■解説
語り部は「幽霊だったらよかったのに」と言っている。
ということは幽霊ではないものが「出た」ということである。
そして、父親にも怒られている。
一体何が起こったのか。
動物を轢いて、車を修理することになったという理由も考えられるが、幽霊ではなく人間を轢いたという可能性もある。
さらに今でもドキドキしているということから、轢いた人間を山に埋め、それが見つからないか、ドキドキしているのかもしれない。