■本編
ちょっと山菜を採って帰るだけと、軽く考えていた。
ドライブの途中で山菜が採れるという噂を聞いて、フラフラと山に入ってしまった。
しかも、山に入った時間がすでに昼過ぎで、なかなか山菜が採れなくてムキになってドンドンと山奥に入ってしまったのだ。
そして、気づけば道に迷っていて、辺りは暗くなり始めていた。
遭難してしまった。
そう考えると怖くてしかたない。
それでも何とか山を下りようと進んでいくと、山小屋を見つけた。
中からはぼんやりと明かりが見えている。
助かったと思い、俺は山小屋のドアを叩いた。
出てきたのは人のよさそうなおばあさんだった。
俺は理由を話して、なにか外と連絡が取れる方法はないかと聞いた。
「あいにく、うちには電話がなくてね。なんせ、こんなへんぴなところだから」
と困った顔をされてしまった。
だが、そのおばあさんは続けてこう言ってくれた。
「それならうちに泊まっていったらどうだい? 朝になれば町へ下りられる道を教えてあげるよ」
本当に助かった。
俺はこの親切なおばあさんの好意に甘えることにした。
そして、その日の夜。
晩御飯に鶏肉の料理を出してくれた。
それはものすごく美味しかった。
俺が喜んでいるのを見て、おばあさんも嬉しそうだった。
「鶏をしめた甲斐があったよ」
なんとおばあさんは俺のために、飼っていた最後の鶏をしめて、その肉を出してくれたのだ。
それを聞いて、俺はかなり慌てた。
そこまでしてくれなくても、と言うと「そろそろしめようと思ってたから、ちょうどよかったんだよ」と言ってくれた。
そして、おばあさんはこういうところに住んでいると食材の調達ができないと話した。
俺は本当に感謝しかなかった。
俺のために最後の肉だけではなく、最後の食材まで使ってくれるなんて。
とりあえず、俺は持っていた有り金を全部、おばあさんに渡そうとした。
「貰っても、使うことないから」
そういって断られてしまった。
それなら、なにか他に手伝えることがないかというと、おばさんは何かを思い付いたようにポンと手を叩いた。
そして、あることを手伝って欲しいと言った。
もちろん、俺は快く、受けた。
おばあさんに頼まれた鉄製の鍋と網を洗う。
すると、その間におばあさんはどこからか、木のチップを持ってきた。
それはヒッコリーという木の木片らしい。
「燻製に使うんだよ」
そう言っておばあさんは笑った。
そして、おばあさんは色々と説明してくれた。
燻製には熱燻、温燻、冷燻の3種類があるのだという。
熱燻はそんなに時間をかけずにできるらしい。
どうやら明日は燻製を出してくれるらしい。
とても楽しみだ。
終わり。
■解説
既におばあさんの家には食材が無くなっている。
では、なぜ、おばあさんは燻製の用意をしているのか。
それは語り部の肉を燻製にするつもりなのかもしれない。